監禁47日目
「ねぇ、ちょっとお話いいかしら」
声を掛けたのはメリルだった。
ふわふわニコニコと笑いながら、警戒心が全くと言っていいほどない緩やかな雰囲気で声をかける。
「……ん? なに? あぁ、貴族のお姉ちゃん……」
貴族が怖いのだろうか。
笑顔で振り向いた5人の子供達は、メリルやザラノアールたちを見て顔を強ばらせた。
そんな子供たちの顔を見て微笑みメリルはしゃがんだ。
スカートが地に着くのを気にせず子供の手を握った。
それに驚く子供の警戒心が薄まった。
それを見逃さなかったザラノアールが同じく地に膝をつけて話し出した。
「少し聞きたいことがあるのよ。今ね、私孤児院の生活を良くするために色々聞いているの。良かったらこんな風にして欲しいなーとか、あるかしら」
昨日の訪問時よりもラフな服装で、にこやかに聞くザラノアール。
顔を覚えていたのだろう、かなり困惑している子供達に首を傾げると、子供達から辛辣な言葉が返ってきた。
「…………オネェさん?」
「お兄さんよ!!」
明け透なく聞いてきた子供に声を荒らげるザラノアールと、後ろで吹き出すアン。
キッと睨むと顔逸らす通常運転なアンの様子にモルデバイルは少しだけ目を見開いた。
このメイドの態度は度が過ぎている、と。
孤児院の子供たちは、全員で顔を見合せて言っていいのかな……と何かを迷っている様子だった。
メリルはアンに意識が行っているザラノアールの腕にそっと触れて注意を引き寄せた。
子供の様子に気づいたザラノアールは小さくメリルに笑ってから視線を合わせた。
「何か改善したい場所があるかしら」
「……もっと寝やすくして欲しい……ベッドに3人とか4人とか……ぎゅうぎゅう過ぎて」
「なぁ、寝れないよな」
「服とかも綺麗なの着たいし、ご飯ももっと食べたい」
「…………それに、下に行った……」
「だめっ! ……だめ」
「………………なんでもない」
何かを言いかけた子供を制止する1番年上の女の子。
なにか隠してる……とザラノアールの視線が鋭くなると子供達はビクリと身体を震わせた。
それに気付いたメリルがザラノアールを押しのけて前に来る。
モルダバイルが文句を言おうとする前にメリルが話しだした。
「ベッドの数が足りないのかしら」
「……うーん……足りないよな」
「うん。何回もベッドから落ちるから床に寝てるヤツもいるよ」
「………………登録人数分ベッドはあったわよ」
「では……人数が多いのかしら。でも、なんで?」
「……おい、下とはなんだ」
なかなか進まない話に少しイライラしてきたモルダバイルが早口で聞くと、メリルとザラノアールが同時にフォローしようとした。
だが、その前に蜘蛛の子を散らすように逃げてしまったのだった。
「………………はぁ」
思わずため息を吐くメリルと、怒ったような困ったような顔で見るザラノアールにモルダバイルは何かやってしまったのだろうかと困惑する。
あまり頭の働きが良くなかったモルダバイルは失言した事に気づいていなかった。
「せっかく慎重に聞いていたのに……なにするのよ」
「えっ……俺は子供たちが……」
モタモタしてるから、と流石に言えなかったモルダバイルはモゴモゴとしていると、言ってしまったことは仕方ないわね……とため息混じり立ち上がった。
そして手を貸し立ち上がるメリルのスカートについた汚れをアンが綺麗にする。
「…………まぁ、少し前進かしらね」
「沢山の子供がいるみたいですね。ベッドを複数で使わないといけないほどに」
「支給の金額を増額しているわけではないから、それは食事も衣類も少ないわよね」
ザラノアールが空を見上げながら言うと、メリルはザラノアールを見る。
「ザラさん、金額や何にどれほど使われるのか平均的な金額さえ私にはわからないのだけど、十分な金額は送られてるのかしら」
「うん、そうね。散財は勿論出来ないけど、一般家庭よりも少し余裕があるくらいよ。決められた年齢になると後ろ盾なしに独り立ちするから、それにもある程度のお金を当てられるようにしてるからね」
「……それがまったく使えないくらいに貧困状態という事は……かなりの孤児を抱えている状態ですね。しかし、その姿を一切確認出来ませんね」
モルダバイルが悩みながら言うと、メリルがさっき子供が言っていた事を思い出す。
「……下って、なにかしら。慌てて誤魔化していたわね。誤魔化す必要がある……なにかがあるのかしら……でも子供だし……」
子供の頃特有の大人に秘密の事なのか、それとも重大な何かか。
分からないが、下と言う言葉が気になった。
「…………とりあえず、もう少し色々見て回りましょうか。また他になにか知れるかもしれないわよ」
「はい」
ザラノアールがメリルとモルダバイルに声をかけて賑わう街の中に足を向けた。
「……あの」
「なぁに?」
少し後ろを歩くモルダバイルは手を繋いで歩く2人を見ていた。
声をかけたモルダバイルに振り向きザラノアールが聞くと、視線が手元にあることに気付いて前を向く。
そして、ため息混じりに息を吐いてから、またモルダバイルを見た。
「…………貴方が気にしてメリルちゃんに詰め寄ったのは聞いてるわ」
「っ……」
ビクッと肩を揺らして少しだけ足が止まる。
だが、ザラノアールもメリルも進んでいるので、止まる訳にはいかなかった。
返事に詰まるモルダバイルをメリルがちらりと見ると冷や汗を流していてメリルの視線には気付いていないようだった。
「…………あの……えっ……と」
「ここでは話にくいわね」
「あっ……個室を……」
弾かれたように顔を上げて、1番近くにある個室があるカフェに案内するモルダバイルにメリル達はついて行った。




