ストーカー日記 7
〇月✕日。
今日は夏服の衣替えの日。
長袖だった制服は半袖になって、生地も薄くなるんだ! 冬服も勿論似合うんだけど夏服の可愛さが爆発してる!!
ネネ様を覆う布面積が減るんだけど、可愛すぎてどうしよう。
白い服が輝かしいよ! 透けない素材で体を隠しているのがまだなんか! いいよねっ!!
ちょっと透けるのとか憧れるけど、それで塵芥共が見ちゃったら僕目をくり抜いても怒りがおさまらないと思うんだ!
今日も朝からネネ様は神々しい!! 夏服になって見える真っ白な細い腕はキラキラしてるし、プリーツスカートが冬服より夏服の方が短いの!!前よりも足が見える!!太もも見えちゃう!!
今日もネネ様はとっても尊いんだけど、こんなに可愛くて大丈夫かな、変な人に目をつけられてはいないかな……心配だな。
「…………私が心配なのは貴方ですよ。行動から思考全てにおいて」
「なんでよ、別に普通でしょ。ただネネ様が好きなだけ」
「その好きな人をストーカーするのは普通じゃありませんからね」
首を振るカインをちらりと見てから、ネネリーナの行動を確認する。
お昼時、この学園はお弁当と学食2種類選べる。
ネネリーナは、学食派で数種類の決めたメニューを食べる事が多いのだが、今日はメニュー変更の日で選べないようだ。
「あー、迷ってる迷ってる。かわいーなぁ。何に迷って………………ふふ、ネネ様。パフェはご飯を食べたあと……あ、お腹鳴ったのかな」
食堂のメニューを真剣に見るネネリーナが、チラッと一瞬見てしまったパフェ。
距離がある筈なのに、一瞬見たパフェを目ざとく気付くセルジュにカインはゾクリとした。
その後、慌ててお腹を抑えるネネリーナの頬は赤く染っていて、セルジュは可愛い可愛いと言う。
さらに、少し離れた場所には、ネネリーナの後ろの席の男爵令嬢がプルプルしているのを見た。
セルジュは同士だなと頷き、まだ迷っているネネリーナへ 、はちみつの様に蕩けきった眼差しを向けた。
「ネーネ様」
「きゃあ!! 」
突然気配もなく話しかけられて小さく悲鳴を上げた。
王弟殿下であるセルジュは居るだけで視線を集めてしまうので、食堂にいる生徒たちはネネリーナに話かける姿に目を見開く。
言い方のキツいネネリーナは、周りから少し距離を置かれているのだが、そんな彼女に天使の笑みを浮かべて話しかけるセルジュに皆興味津々である。
勿論、同じクラスの数人、特に男爵令嬢は別だ。
目をランランとさせて、昼食を中断させ見ている。
「これからお昼? 」
「殿下! は……はい」
見られてた?! と慌ててカーテシーをしようとしたが、止められた。
「ネネ様、今日は一緒に食べよう? どれにするの? 」
「え!! そんな……恐れ多いです」
真っ赤な顔で小さく両手を振るネネリーナににっこり笑うが、心の中では可愛さが爆発してる!! と盛大に賛辞していた。
「僕が一緒に食べたいなって思ったんだけど、駄目だったかな? 」
「いえ!! …………光栄でございます」
俯きがちに真っ赤な顔に笑みを浮かべて口元を隠すネネリーナに、男爵令嬢が強くテーブルに頭を打ち付けた。
丁度見えていたセルジュは、わかるよー、とこっそり同士とした男爵令嬢を見る。
「で…………では、今日は煮魚に致します……」
「うん、じゃあ僕ハンバーグにしようかな」
「! ……はい」
「ふふ、少しあげるね。迷っていたでしょ? ハンバーグ」
「!!! 」
ふらりと倒れそうになるネネリーナを支えて受け付けに向かうセルジュに、ハッ!としたネネリーナが顔を見る。
「ち…………違うのです! 欲しいとかではなくてですね! ただ、美味しそうだなと見ていただけで!! 次に頼もうと思っただけで、2つ頼もうとした訳でもなくて…………」
「…………頼もうとしたの? 」
「 ち……違うのですぅー…………」
掠めた邪な気持ちを言い当てられて真っ赤に染まった顔で弁明をするが、説得力は欠けらも無い。
「ふふ、ネネ様はご飯が好きだもんね」
「好きですけれども!! あの……私! 食にそこまで貪欲な訳では!! 」
「魚定食とハンバーグ定食を1つずつお願い」
「かしこまりました」
「殿下ぁぁぁぁぁぁ…………」
なんてマイペースなの!! とセルジュを見ていると、嬉しそうなセルジュがネネリーナを見る。
「ネネ様、殿下じゃなくてセルジュがいいな? 」
「そんなっ! 」
「でも、お店では呼んでくれたでしょ? 」
「!! し……失礼しま……」
セルジュからの指摘に真っ赤な顔のまま謝罪しようとすると、セルジュの人差し指がネネリーナの唇に当たった。
遅い成長期なのか、セルジュの身長はネネリーナより少し高いくらい。
ほぼ変わらない視線を合わせてにっこり笑う。
「謝らないで、僕は名前で呼んで欲しいの」
「!! 」
「どうでもいいが、ここ食堂だぞ。目立って恥ずかしがるのはネネ様じゃないのか? 」
「ザラ! 」
ネネリーナの後ろに現れたのは、甥で王太子のザラノアール。
慌てて振り向くと、高身長のザラノアールを見上げてから慌ててカーテシーをした。
「(どうなっていますの?! なぜロイヤルファミリーのお2人が!! あまりにもあまりな遭遇率ではなくて?! )」
吹き荒れる嵐のような胸の内を淑女のお顔で隠したネネリーナ。
しかし、面識のないザラノアールにまでネネ様と呼ばれて首を傾げたくて仕方ない。
「ザラ、どうしてここに? 」
「普通に昼だが」
ザラノアールの出現に周りがザワつく。
あまり学校では一緒にいないセルジュとザラノアール。
次期国王になる第1継承者はザラノアールだが、可愛らしくも優秀なセルジュを王にという派閥もあり、対立関係にあるのだ。
その為、無駄な火の粉を被らない為にも人前で一緒に居ることを避けてきたふたり。
このふたりは元々仲がいいのにだ。
「ふぅん」
「ネネ様との食事が嬉しくても距離に気をつけろ、人前だぞ」
「ザラにだけは言われたくないんだけど? 」
プクっと頬を膨らませるセルジュの前に3人分の食事が並ぶ。
セルジュとネネリーナか頼んだものに、毎回同じものを頼むザラノアールのサンドイッチとスープ、果物だ。
「(……女子!! )」
彩りの良い野菜たっぷりのものと、照り焼きのサンドイッチを思わずガン見してから、煮魚を見る。
「(……私もサンドイッチにするべきかしら。でも、帰宅までにお腹がすいてしまいそうだわ)」
食に貪欲なネネリーナは、綺麗なサンドイッチをきっと今後も食べれないと思いながら煮魚定食を持とうとすると、ザラノアールに持っていかれてしまう。
「えっ?! 」
「ちょっと! ザラ!! もー! 本当に勝手なんだからー!! ネネ様行こう? 」
こうして着いて行った先はロイヤルファミリー専用のテーブルで、ネネリーナは意識が飛びそうになったのだった。