監禁30日目
「メリルちゃん、私に時間をくれないかしら」
「……時間?」
「ええ、2ヶ月あなたの時間を私に頂戴。私を知って欲しいの。私を知って……愛して貰えるように頑張るから……私を見て?」
両手でギュッ……と握る暖かい手のぬくもりを感じながらメリルは真っ青な瞳を見つめた。
青空のような澄み切った青は真剣にメリルを見つめている。
「……ザラ様」
「なぁに?」
「………………いいえ、わかりました。帰してもらえないならそれしかないみたいだし」
ふいっ……と顔を背ける。
あんなにホワホワと笑顔を振り向いていたメリルの沈んだ表情と少し固くなった言葉使いにザラノアールは視線を下げた。
「……ごめんなさいね」
離してあげられなくて。
言葉にならず謝罪だけしたザラノアールにメリルは返事を返さなかった。
「ふぅん? それで落ち込んでるんだ」
珍しい姿を見るなぁ……と紅茶を飲みながらセルジュが言った。
頭を抱えているザラノアールの予想外な姿にパチクリと瞬きをする。
つい先程メリルとの会話に落ち込んだザラノアールは、セルジュの部屋に押しかけた。
いきなり来たザラノアールに文句のひとつもと口を開きかけたのだが、あまりの落ち込みぶりにセルジュは口をとざす。
とりあえず座りなよ、と誘って紅茶と焼き菓子を出した。
「まぁさ? 恋愛感情がないって言ったのメリル嬢が聞いちゃったんだからザラはマイナススタートなわけでしょ? それでも猶予をくれたんだから感謝しないとね」
「……そんなに嫌かしら、私の奥さんは王妃になるのよ?」
一般的に貴族の女性から見たら王妃って憧れる存在じゃない? 喜ばれてもいいんじゃないかしら……と頭を抱えるザラノアールを見ながらセルジュがサクッとクッキーを割る。
「王妃の座よりも絆や愛情を大事にしてるって事でしょ、メリル嬢は。大切にしてるのが地位とかより感情だから自分を好きじゃないザラに義務感で言われたって怒ったんじゃないの?」
「…………私だって大恋愛をして結婚とか夢見た事があるわよ。でも、無理じゃない。私を見ると同時に自分の王妃の姿を想像するわ。私と親しくなればなるほど自分の輝かしい未来を夢見て私を見ないのだもの」
「それで、もう誰でもいいやって婚約したのがキャロライン嬢。最初は仲良かったのにザラのオネェがバレたら嫌われた、と」
はぁぁぁぁぁ……と深いため息を吐くザラノアールをセルジュは視線だけ向ける。
「オネェって……別に恋愛対象が男ってわけじゃないのよ? ただ口調が女性的なだけで」
「行動もね」
「……うるさいわねぇ」
一言多いわ、と睨むザラノアールだがなんのそのと鼻で笑うセルジュは呆れたように笑う。
「まあさ、メリル嬢はネネ様とも仲良しだしザラと結婚したらお茶会とかもしやすそうだからいいんだけどね」
「本当にネネ様好きね、あなた」
「当たり前でしょ? 全部ネネ様中心だよ。好きで好きで仕方ないからこれだけアプローチしてるんだし、離す気ないからね。大好きだから!!」
「…………アプローチ」
「え? 結婚して欲しいなら当然でしょ。僕はそれだけじゃなくて少しでも一緒にいたいし触れ合いたいし、僕を知って欲しいし、僕を好きになって欲しいし、僕の愛がどれくらいに深く広く重いのか……」
「もうわかったわよ!! 相変わらず重いわね!! 」
そう叫んだが、ザラノアールはセルジュの言葉をもう一度思い出して考え込む。
「結婚して欲しくてアプローチ、そうよね。そうしないとよね。好きになってもらう為にアプローチは必要よね……なんだか打算的で嫌だわ」
「…………打算的?」
ちょっと落ち込むザラノアールにセルジュが首を傾げる。
「だってよ? 結婚して欲しいから私を好きにさせる為のアプローチよ? そこに私の気持ちは二の次で結婚して穏やかな日常と癒しを手に入れる為に私を好きになって欲しいとか……そりゃメリルちゃんだって嫌がるわよね……」
「……え、まってよ」
紅茶を飲む手が止まった。
は? と顔を歪めているセルジュにザラノアールは顔を上げて首を傾げる。
「ザラさ、メリル嬢に好きになって貰うために頑張るんだよね」
「そうよ」
「ザラを見てもらって納得して貰うために……愛してもらう為って言ったよね」
「ええ」
不思議そうなザラノアールに、セルジュの顔が引き攣る。
ザラノアールは何を気にしているのだろうとじって見ていると、セルジュがちょっと待ってと紅茶を飲み干した。
「なんでザラは頑張らないの。なんでメリル嬢に任せっきりなの」
「どういう意味?」
「だから! ザラの穏やかで優しい癒しのある生活を確保するために恋愛的に好きにさせる努力をさせるなら、 絆を大事にして恋愛して結婚したいって言ってるメリル嬢の為になんでザラは頑張らないの! なんで自分の気持ちは二の次なんて言うわけ! どんなに頑張ってもそんな上っ面の優しさだけ見せられて自分はどこまでもメリル嬢が好きじゃないってスタンスなら、メリル嬢だって好きになるわけないでしょ!…… 好きになる努力を一方的にさせて自分がしないなら、メリル嬢と結婚なんてしない方がいいよ。メリル嬢にだけ我慢させて頑張らせるなんて、そんな酷いこと妻にさせる事じゃないでしょ」
そう言われて頭を殴られる気持ちがした。
好意的に感じていて、ザラノアールは結婚したいと思っている。
だからそれで十分だと思ったのだ。
キャロラインの時のようにどうにか我慢して結婚しなくてはと思っていない。だから、これでいいと思っていた。
恋愛偏差値の低いザラノアールは、充分過ぎるほどに幸せな生活が出来ると満足したのだ。
だがそれはメリルの幸せなのか? 自分は愛されず、ただ愛を乞われるだけの生活など幸せじゃない。
この話になった時のメリルの微妙な顔や話を聞きたがらない様子、返事をしなくなったメリルこそが答えだろう。
さらに帰してもらえないのだ。
あの優しかったメリルの好感度が底辺どころかめり込む勢いですり減っていても文句は言えない。
「……メリルちゃんの望む相思相愛ができるか分からないの。でも、メリルちゃんには幸せな結婚生活をしてほしい。だから、私はメリルちゃんを大切にするから、私を好きになってくれたらメリルちゃんは幸せになるって、そう思っていたのよ……なんて傲慢で浅はかなのかしら、私は」
「…………メリル嬢はさ、ザラが全てを投げ捨ててメリル嬢が幸せになる為にとか……望んでないんじゃない? 一緒にいて片方だけが好きで……とか、ザラがいくら優しくしてもメリル嬢は寂しいと思うよ」
そんなことにもセルジュに言われないと気付けなかったのね……と顔を覆って俯いたザラノアールに、さすがにフォロー出来ないとセルジュがため息を吐き出した。




