監禁24日目
フワフワと綿菓子みたいなメリルはいつも穏やかで微笑んでいる事が多い。
そんなメリルが、今珍しく困ったように顔を引き攣らせて沢山のお菓子や紅茶を前に緊張していた。
真っ白なテーブルと椅子。暖かな室内は明るく甘い香りがしているが気分が悪くなるようなひどい香りではない。
ほのかに香る慎ましさだ。
そして、メリルの前に座る2人の女性と、3人のメイド。
どうしてかしら……? なぜ? とメリルは口に出せない疑問を持ったまま笑みを浮かべるしか出来なかった。
その知らせはメイドのアンから唐突に告げられた。
「メリル様、王太后様と王妃様よりお茶会のお誘いが来ております」
「…………はい?」
相変わらずの無表情で告げられた言葉にメリルは首を傾げた。
それからは、まるで剥ぎ取られるように服を着替えさせられた。
アンが言う王太后とは、正妻だったテイゲティーナが白い塔に入った為、マティラエラと変わった。世間的には体調不良となり療養の為となっている。
だから、マティラエラとザラノアールの母のカナリアにお茶会を誘われたということだ。
むっちりした体を服にむぎゅりと押し込めて着替えたメリルは急かされるままにロイヤルファミリー専用談話室へと送り込まれたのだった。
そして、マティラエラとカナリアに向かい合っているところなのだ。
にっこり笑うタイプの違う美人を前に、ギシリ……と座った椅子が鳴った。
「あら……」
思わず椅子の無事を確かめるメリル。
自分の体重は既に椅子の重量をオーバーしたのかしら? と見たが、ビクともしてなくてホッとした。
そんなメリルをロイヤルファミリーのふたりが顔を見合せて見てから笑った。
「もしかしたら私の息子は可愛らしいお嫁さんが貰えるかもしれないわ、お義母さま」
「本当だね、これは可愛いよ」
クスリと笑うマティラエラは艶やかに笑って王妃カナリアを見る。
ほぼ年の変わらない嫁と姑は仲が良い。
その2人がメリルの少し慌てている姿を見てホッコリしている。
その慌てている理由が椅子が無事かだなんて、普通の令嬢は心配しないだろう。
ツンと取り澄ましたような令嬢は見飽きた。
目を引くような、そんな可愛い嫁が欲しいと思っていた2人にとってメリルは十分合格だった。
そして、ソワソワとした気持ちを綺麗に隠したメリルは王太后と王妃を前にして自然な笑みを浮かべる姿に目を細めるマティラエラ。
ピンと伸びた背に軽く引いた顎。指先から足の爪先まで意識して座っているメリルに、へぇ……と声がもれた。
「急に呼んで悪かったね」
「いいえ、とても光栄でございます。あの……失礼ながらよろしいでしょうか」
「ええ勿論。何でも話して」
カナリアがにこやかに聞くと、メリルは小さく頭を下げてからマティラエラを見た。
「お体は大丈夫ですか? 毒を……とお聞きしております。起きて大丈夫なのでしょうか?」
「…………ここで私の体調を気にしてくれるんだね」
眉尻を下げて見てくるメリルにマティラエラは少しビックリした顔をしながら見返した。
そんなことを気にする余裕などないだろうに、忖度など一切ない純粋な心配からこぼれた言葉にマティラエラは笑みを深めた。
「うん、大丈夫だよ。心配してくれてありがとう。君も大変な目にあったね」
「いえ……私はただ、食べて寝てお肉を熟成しただけですので」
「熟成っ……」
ふっ……とカナリアから息が吐き出され顔を背けている。
顔の半分を隠すように持っていた扇子を広げているが、肩が揺れていて笑っているのがわかった。
同じくマティラエラも笑っていて、紅茶に手を伸ばしたが引っ込めた。
震えて飲めるものじゃないだろう。
「ふ……ふふ……これはこれは……ザラにはなかなか手強いんじゃないかな」
「お義母さまも……そう……思います? 」
うふっ! と笑うカナリアが震えながら言う。
何が手強いのだろうか……と首を傾げながら目の前にあるチーズケーキを見る。
ツヤが出ている美味しそうなチーズケーキが、メリルには、ほら! 早く食べて! と言っているように見える。勿論幻聴だが。
「ふ……食べていいよ」
「ですが……」
「いいから」
笑い震えながらマティラエラがすすめる。
普通は目上の人が食べてからだが、お許しが出たのだからとフォークを持ってゆっくりとケーキを切り分けた。
その姿を笑いながらも2人は見ている。
メリルはその視線に気付きながらもゆっくりと口に入れた。
「…………」
ずっしりむっちりしているチーズケーキは濃厚で、通常より少し大きいそれは1個でお腹いっぱいにしてしまいそうな重量感がある。
だが、まったりとした味だがしつこくなく重いはずのケーキは二口目を無意識に食べてしまう。
ああ……おいしい……と頬を赤らめ目を細めるメリル。
その食べる所作も美しく、及第点どころじゃないねとマティラエラはカナリアを見た。
カナリアも小さく笑みを浮かべる。
「メリル様は所作が綺麗ね」
「礼儀や所作はお母様に幼い頃から教えられました」
紅茶を飲んだタイミングで聞いてきたカナリアに顔を向ける。
音も立てずにカップを置いてから返事を返したメリルにマティラエラは頷いた。
「お母様はたしか侯爵家の姫君だったかな」
「はい」
メリルは子爵家の娘だが、その母は侯爵家の三女だった。
同じ年頃にアサルティンがいたから婚約者候補になるかもしれないと幼い頃から厳しく躾られた様で、それがメリルにも受け継がれていたのだ。
王族の二人が見ても問題ない程に所作は美しい。




