監禁22日目
セルジュの婚姻を止めていたのはテイゲティーナだった。
ザラノアールの妻が子を宿す前に子が出来てしまってはザラノアールとセルジュが生まれた時と変わらないと思ったからだった。
勿論テイゲティーナ一人の思惑で、マティラエラもアサルティンもそれを良しとは思っていなかった。
年老いた2人の夫である前国王が何も言わないのをいい事に王太后権限として振りかざしていたのだが、白い塔に入った事でそれも無効となる。
その為、以前より年齢的に婚約者が居ても不思議では無いと言われ続けていたセルジュがやっと婚約者を選び、実際に婚姻にまでありつける運びとなったのだ。
これにセルジュが喜ばないはずが無い。
念願のネネリーナへのアプローチが加速して、ヒィヒィと泣き言を言わせようとも、セルジュはもう止まらないだろう。
そしてキャロラインと婚約破棄をしたザラノアールも、メリルとの婚約の為に行動に移すのだった。
「おはよう、メリルちゃん」
「…………おはようございます……ザラさ……」
いつもと変わらない朝が来た。
同じように起こしてカーテンを開けるザラノアールは振り返りメリルを見た。
ちょうどもそもそと起き上がりザラノアールと目が合う。
数秒間の沈黙の後、メリルはゆっくりと布団に潜った。
「まーって、こら! なんでまた寝るのかしらね」
隣に来てメリルの掴む布団を軽く引っ張ると、赤らめた顔のメリルが鼻先まで布団を下げた。
「だって……ザラ様男性でしたもの……」
「今更それ言っちゃうの? まあ、そうなんだけどね」
腰に手を当てて首を傾げながら答えるザラノアール。
三つ編みを揺らしながら思わず笑ったザラノアールは用意していた明るいオレンジ色のドレスを出した。
「さぁ、今日は朝食とお薬を飲んだら散歩に行きましょう」
「外に出てもいいのかしら?」
「私が一緒にいる時だけよ」
決められた安全な場所なら既に外に出てもいいのだが、ザラノアールはあえてそれを言わなかった。
できるだけ一緒にいる時間を作りたかったからだ。
それに、もう学校が始まり日中の一緒にいられる時間がぐっ……と減る。
だが、ずっと部屋にいるのも不健全だし体のバランスを崩すだろう。
だらこそ、なるべく一緒の時間をとにこやかにメリルの手を取って歩き出した。
「部屋にいて退屈ではない?」
「いいえぇ、こんなに良くしてもらって」
うふふ、と笑うメリル。
彼女は元々インドアなので、部屋にいろと言われたらいくらでも引き篭っていられるだろう。
それに安心してザラノアールは花畑が広がる庭を一緒に歩く。
「(さて、この後はどうすればいいかしらね)」
チラリと斜め下を見ると、周りを見ながら歩くメリルがいる。
白と緑のレースのワンピースを着ているメリルはぷにっとした体がよく分かるのだが、それがまた可愛らしい。
ふわりと風に靡く髪を手で抑えたザラノアールのストレートヘアとは違うウェーブが掛かった茶髪に下がった眉と丸い緑の目。
ふくふくとした体に全体的な雰囲気と優しい風貌。全てがメリルに甘い綿菓子みたいなイメージが付く。
室内で見ていた時と、やはり陽の光の下で見るメリルちゃんの可愛さはまた違うものがあるのね……と無意識に口元が緩むと、ふいにメリルが顔を上げた。
濁りと笑ったメリルの綿菓子みたいな姿に、可愛さが滲む。
「…………ふふ、可愛いわね」
「ザラ様はかっこいいですね。でも、ちょっと見なれないわ」
「……あら」
まさかそう返ってくるとは思わなかったようで、キョトンとした。
そしてザラノアールも笑う。
穏やかな時間だった。キャロラインと一緒にいる時には絶対にない緩やかで片意地を張る必要もなくてザラノアールも自然体でいられる。
「……ああ、セルジュはネネ様のこういう所に惹かれたのかしらね……」
「え?」
「なんでもないわよ」
なんでも言い合える家族だとはいえ、貴族の陰謀ひしめく王城に住んでいたらそれぞれ癒しを求める。
セルジュが裏表なく翻弄され慌てる可愛いネネリーナに執着するように、ザラノアールはこのフワフワしている物体に多少の癒しを覚えていた。
そこには恋愛感情はまだない。
だが、不思議とその癒しを求めていた。
「…………いやね、血の繋がりって」
キュッと手を握りしめたザラノアールに理解していないメリルは笑いながら首をかしげ、とりあえず握り返しておこうかな? と掴んだ。
ふかふかした手がザラノアールの大きく硬い手を包む。
「…………ん〜〜」
昔から狂気的な執着を見せるセルジュのようにガツガツする性格じゃないザラノアールは、さてどうしようかな……と悩むのだった。




