監禁13日目
キャロラインが帰ってから溜まった仕事をこなす。
いつもの事だからどうせ早く帰ると思って予定を決めていたザラノアールは、少し時間押してるな……と思いながら時計を見ると、バタバタと走る足音が響いてきた。
そして、バン! と扉が開いた。
「お兄様!!」
「マリアンヌ? 」
それは妹のマリアンヌだった。
我儘で高飛車な妹だが、淑女教育はしっかり受けているので足音を立てて走るなんて事は滅多にしない。
そんなマリアンヌが、息せき切って走り込んできたのだ。
「マティお祖母様が毒を盛られたわ!! 」
ガタン! と音を立てて椅子から立ったザラノアールが急いでマティラエラの部屋に向かった。
後ろには青ざめた顔のマリアンヌもいる。
マリアンヌはテイゲティーナに育てられたが、セルジュ、ザラノアールと変わらずマリアンヌにも分け隔てなく対応して可愛がっていた。
だから、マリアンヌはマティラエラも好きなのだ。
たとえテイゲティーナが敵対視していると分かっていても、優しいマティラエラを嫌いにはなれないマリアンヌ。
その様子をちらりと見てから、やっぱり……とザラノアールは思った。
「あら、なに? みんな来てくれたの? 」
部屋に入ったザラノアールが見たのは、ベッドに座って果物を食べるマティラエラの姿だった。
年若くして輿入れしてきたマティラエラは今も若々しい。
現国王アサルティンとたいして歳は変わらないのだ。
そんな笑顔でザラノアールとマリアンヌを迎えたマティラエラに力が抜けて座り込んだザラノアール。
「大丈夫? ザラ。母上が毒なんかで死ぬほどやわな人じゃないでしょ」
「あ? セルジュ? 女性はいつでもか弱い生き物だよ? 」
「致死量の毒を盛られてピンピンしてる人はか弱くないよ」
「お母様だって死ぬ時は死ぬんだからね?! ただ、毒にならされてるだけで、熱だって出たし体痛いんだから! 優しくして! 」
「だから! 致死量の毒で熱と節々の痛みだけなのがもう超人なの!! 」
生まれながらに毒にならされてきたマティラエラだからこそこれだけで済んだのだが、これがザラノアールやセルジュだったら今頃召されているだろう。
ギャーギャーと騒ぐ2人を見て、本当に毒盛られた? と疑問になるが、毒味役が死んだらしい。本当なようだ。
「……マティお祖母様……大丈夫? 大丈夫なの? 」
フラフラと近付いてきたマリアンヌに、大丈夫だよ、と言いながら両手を広げるマティラエラ。
胸に飛び込み抱き着いたマリアンヌが泣き出すと、直ぐに駆け付けてきたアサルティンとカナリアが入室する。
「……母上、お加減は? 」
「お義母さまっ!! 」
心配で仕事を放り投げて駆けつけた2人にマティラエラはにこやかに笑う。
「熱と痛みくらいかな」
「……はぁ、流石に……びっくりした」
「あああぁぁぁ、良かったぁぁあ!お義母さまぁぁ……」
この様子を見ただけでマティラエラが愛されているのがわかる。
泣き崩れるカナリアの背中をアサルティンが撫でる。
マリアンヌは顔をマティラエラの胸から離して両親を見た。
「おとうさまぁぁおかあさまぁぁぁ」
「マリアンヌゥゥ……びっくりしたわね。大丈夫よ、マリアンヌのお祖母様が毒なんかで死ぬわけないのよ!」
「……いや、だから私超人じゃないからね? あなた達私に対してどんなイメージ持ってるの? 」
そんなマティラエラを中心に話をする室内をちらりと見たテイゲティーナは舌打ち1つ鳴らして部屋を後にした。
「本当にしぶといったら。象ですら意識が無くなるくらいに強いのよ? あの女どうなってるのかしら」
あまりに強い毒を使っても熱と節々の痛みだけだというマティラエラに爪を噛みイライラするテイゲティーナ。
角を曲がった所で顔を真っ青にしたエンイール子爵とかち合う。
ギラリと睨み付けるテイゲティーナに震え上がるエンイール子爵。
隣に来た時、一瞬止まり耳打ちをした。
「……死ななかったじゃない。あなた、どういうつもりかしら。毒の種類変えたとかじゃないわよね」
「め……滅相もないです、王太后様……」
ふん……と顔を逸らして歩き出すテイゲティーナに心拍を上げたエンイール子爵は震えながら座り込んだ。
「マティラエラがいる限り、皆あいつばかり見る。なんなのだ。私が王太后よ!! アサルティンもカナリアも、母は私なのにマティラエラマティラエラって馬鹿の一つ覚えみたいに! マリアンヌもよ! 育てたのは私じゃないか!! 」
自室に戻ったテイゲティーナは用意されていた紅茶のカップを思いっきり投げてレースのカーテンに傷を付けた。
破片が下に落ち下は破片だらけだ。
ハァハァと息を荒くしたテイゲティーナは直ぐにメイドを呼んでカップとカーテンを片付けさせた。
機嫌の悪いテイゲティーナにビクつきながらメイドは素早く片付けレースのカーテンを付け替えていた。




