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王弟殿下のストーカー日記  作者: くみたろう
王弟殿下のストーカー日記
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ストーカー日記 4


 ネネリーナは混乱していた。

 ネネリーナの隣に立ち、軽く袖を何度かクイクイと引っ張りながら焼き菓子やケーキを指さすセルジュに、必死に返事を返す。

 私はお返しを買いに来ただけなのに。

 これは一体何故、どうして? と、返答のない自問自答をしながら。


「どうしたの?」


「い、いえ!なんでもありませんわ!」


「ねぇ、ネネ様はこれ好きかな?」


「あ、カップケーキですね。はい好きです」


「じゃあさ、これをネネ様に送っていいかな?」


「そ、そんな恐れ多いです!」


「…………ネネ様が好きなの送りたいんだよね……ダメ?」


「ううぅぅぅ……」


 

 キュルンと可愛く聞いてくるセルジュにネネリーナは顔を赤らめる。

 焦るネネリーナに押せ押せのセルジュは自分を全力で押し売りしていた。


「で、では……おひとつだけ…………」


「ん"ん"ん"ん"ん"」


 隣に並ぶ小売のひとつをちまっと指先で摘んで、セルジュに見せると、その上目遣いや赤らめた顔の可愛さにセルジュは顔を両手で覆ってしまった。

 え!?と声を上げるネネリーナは慌ててセルジュに近付こうとしたが急ブレーキをかけるようにピタッと止まる。


「あ……」


 こんなそばに寄るなんて……不敬だわ、はしたないわ、とモジモジしているネネリーナに可愛い可愛い可愛いと悶えているセルジュ。

 後ろに控えているメイドや従者は平和だなぁ……と見守っていた。


「えっと……じゃあこれで、いいのかな?」


「は、はい!……ありがとうございます」


 流石に王弟相手に高圧的にはならないネネリーナはただの可愛らしい令嬢であった。

 あまりに慣れない緊張にテレテレとしながら、なんとか対応する様子にやっと話が出来たと喜びを噛み締めるセルジュ。

 そんなほんわかする時間はそんなに長くは続かなかった。


 セルジュと話しながらもネネリーナは周りの商品を眺めどれを購入するか考えていた。

 それはこの緊張する場からいち早く離れなくては、と考えていたからだ。


「まぁ、これは綺麗ですね」


 ふと見たクッキーの詰め合わせがとても綺麗な箱に入っていて、クッキーの量は多く無いが上品でとても美味しそうだ。

 贈呈用にいいだろうと頷いたネネリーナはメイドに振り返ると、心得たというように店員に購入した手続きを始めた。

 

「ネネ様買うの決めちゃったの……?」


「は、はい。こちらにしました」


「これかぁ……」


 綺麗な装飾のクッキーを見て眉を寄せる王弟はチラッとネネリーナを見る。


「(綺麗だな……ネネ様はこんなクッキーを送りたいと思うくらい相手が気になるのかな……いや!相手は平民だし、今まで話した事ない男だったからなぁ。一目惚れって感じでも無かったし、違うよね)」


「……どうかなさいましたか?」


「あ、ううん!なんでもない。綺麗だね」


「えっ……と、セルジュ様もお好きですか?」


「クッキー?うん!好きだよ!」


「そうなのですね、甘いのは幸せな気分にしてくれますから良いですよね」


「ね!」

 

 カラリと満面の笑みで笑うセルジュに頬を染めたネネリーナはメイドがクッキーを受け取るのを見て、小さくコホンと扇子の中で咳払いをした。


「それではお買い物を終わらせましたので、失礼させて頂きます、セルジュ様」


「あ、そうか帰るんだね。じゃあ僕も帰ろうかな」


 残念そうに笑ったセルジュは、カップケーキを持ったまま馬車に乗る為に外に行くネネリーナの後について行った。


「会えてとても光栄でしたセルジュ様……それでは失礼致します」


「……うん、また学校でね……はい、これプレゼント。帰ったら食べてね」


「まぁ……ありがとうございます」


 受け取ったカップケーキに微笑んでお礼を言うと、セルジュは嬉しそうに笑った。

 とりあえず、初対面は出来たと腹の中で笑ったセルジュは人畜無害な笑みでネネリーナを見送った。



「………………可愛いネネ様、セルジュ様って呼んでくれた……嬉しいなぁ」

 

 恍惚とした表情で侯爵家の馬車を見送ったセルジュは、明日から楽しみだとネネリーナ用のカップケーキ1つだけ購入して王城に帰っていったのだった。







「あ…………貴方に恵んで差し上げてもよろしくてよ!! ほら、受け取りなさいな! へ、平民には中々手に入らないお菓子でしてよ! 嬉しいでしょ?! 」


 教室内に響くネネリーナの声。

 思っていた以上に響き羞恥に顔を染めたネネリーナは、オロオロと青ざめた平民の男性を見ている。


「(こ……困っているのかしら……余計な事だったかしら)」


 侯爵令嬢が、たかがパン1つにお礼で高級な菓子折を渡すと思ってもみなかった平民男子生徒はネネリーナがお菓子を渡してきた理由がわからなかった。

 貴族のようにスムーズに受け取らないクラスメイトに不安になって行くネネリーナ。

 眉を下げて大きな目をキュッ……と細めたネネリーナは、机にトン……と置く。


「………………お食べなさい……パン、ありがとう」


 視線を逸らして小さな声で言ったネネリーナは、直ぐに自分の机に行き真っ赤な顔のまま座ると、平民男子と前の席の男爵令嬢がぷるぷると震えて顔を抑え机にペタリとくっついた。

 そして安定のストーカー王弟殿下はぷるぷるしながら廊下の壁に張り付き、ネネ様……ネネ様がかわいい……これぞ至高……どうしよう……締め上げるくらいにぎゅってしたい……と呟いていた。


「………………いいからもう教室に帰りましょうよ」


 疲れきったカインの声は、今日も聞き届けられない。


 

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