監禁9日目
食事が終わり、アサルティンがすぐに動こうとしていた。
勿論、メリル・ラクシーン嬢の捜索の為である。
それに気付いていたザラノアールとセルジュはアサルティンの私室にすぐさま向かい大事な話があると話しだした。
「…………今は話をしている暇はないぞ。メリル嬢を捜索しないと。貴族令嬢を拐かすなんて何をされるかわかったもんじゃない。ザラもセルジュもわかってるだろう? 」
「勿論わかってるわ。それも含めて話があるの」
動き出しそうなアサルティンを何とか椅子に座らせた2人は顔を見合せて頷く。
「お父様、メリルちゃんはこの城にいるの」
「……は? 」
「正確には助け出して現在療養中。兄さんの娘とテイゲティーナ母上の無駄な努力のとばっちりをぜーんぶメリル嬢が被ったんだよ」
「…………なに? 」
眉をひそめて見てくるアサルティンに2人はため息を吐く。
「簡単に言ったらね、マリアンヌがセオドア・ゲイルに一目惚れしたからお祖母様と2人で降嫁先にって連絡したけど断られて、それに腹を立てたマリアンヌがお祖母様に頼んでエンイール家を使って、お茶会に呼び出したメリルに毒を盛って拐かされたとしてセオドアの婚約者から外そうとしたのよ」
「で、連れていかれる前にザラ専属騎士にメリル嬢を助け出させて今保護してる。バレたらまた危ないし、食事の時の様子を見る限りメリル嬢を今必死に探してるみたいだから……どっちにしても今は騒がないで。まだ解毒中だから無理させたくないんだ」
「…………はぁ。またマリアンヌか」
王太子教育としてザラノアールを幼い頃から傍に置き育ててきた代わりに、マリアンヌは前王妃であるテイゲティーナが乳母や侍女と共に育てた。
カナリアが嫌がったのだが、それを良しとしなかったのだ。
甘やかし可愛がり、まるでテイゲティーナの分身のような我儘な娘に育ったマリアンヌ。
だが祖母と違い、行き過ぎると兄であるザラノアールや、叔父であるセルジュに強く注意され、憤りを覚える事も多々あったのだ。
その分癇癪が酷く当たり散らす事も少なくない。
そんなマリアンヌが、今回欲しがったのがセオドア・ゲイルだったということだ。
頭が痛い……と指先で優しくこめかみを揉むアサルティンに2人は溜め息を吐き出す。
「…………まったく。アイツらにはこちらから詫びをしないといけないじゃないか……」
まずは家の方にか……と呟いたアサルティンはシックなレターセットを取りだした。
王族御用達の物ではなく、街中に普通に売っているものだ。
あまり知られたくない個人的な内容の場合、相手にもよるのだが、あえて市販品を使うことがある。
今回もそうしたようだ。
「…………本当に仲がいいんですね」
「まぁなぁ……同期だし。アイツらには迷惑ばかり掛けたから未だに頭が上がらないよ」
王であるアサルティンと現在のゲイル侯爵、そしてラクシーン子爵は学生時代の同期で腐れ縁である。
今でこそ立場が違い昔のように揃って悪ふざけ等は出来なくなったのだが、交流は続いていた。
たまたまであるが同じ年頃の子供たちがいて、アサルティンはザラノアールとメリルを婚約者にしたかったのだが、残念ながら王族と子爵家では釣り合いが取れないし、なによりザラノアール本人に選ばせたかった。
そうしている間にメリルとセオドアの婚約が内定したのだ。
今でこそ王と貴族、しかも家格の開きがある3人が容易に集まれる事は少なくなってしまった。
その為、たまに集まり酒を交わす関係に変わった3人の専らの会話は子供たちだ。
だからこそ、アサルティンは余計にメリルの安否を気にして所在を追求しようとしたし、娘であるマリアンヌが原因とわかり今すぐ飛び出して頭を下げたい気持ちでいっぱいだった。
「父上」
「……なんだ」
「詳しくはまだ調査中ですけど、お祖母様は……マティラエラお祖母様を殺すつもりです」
ゆっくりと顔を上げてザラノアールを見てからセルジュも見た。
2人とも冗談を言っているような雰囲気は一切ない。
もう呆れてものも言えないと言うように肩を落とした。
「……マティ母上を殺したら後ろ盾を失うどころか戦争になるんだが」
疲れたような様子で吐き出した言葉。
ペンを机に転がし溜め息を吐き出すと、ペンのインクが便箋に飛んで付着した。
テイゲティーナが前国王に輿入れした当初はアサルティンの父王と同じ方向を見て国を栄えさせる為にと尽力してくれていた。
だが周りの貴族に煽られ、純粋に前国王を支えていくという意思が強制的に捻じ曲げられたのだ。
王妃として、自らの地位を磐石なものにと言われ続けたのだが、それも国王の足元をすくう為の小さな小石程度に扱われたテイゲティーナ。
まだ年若い少女だったテイゲティーナには、悪知恵を働かせる古狸のような貴族には勝てず、簡単に丸め込まれたのだった。
そんな、揺れ動く感情を長く期間抱えて年老いた頃に現れたのが側室であるマティラエラ王女の存在。
自分の地位や存在意義を脅かす年若い他国の王女が嫁いできて、マティラエラは目を細めて優雅に笑みを浮かべながらテイゲティーナを見たのだ。
それだけで、格の違いを見せつけられたような気がした。
マティラエラは生まれ持っての王族の知識と気品を持ち、テイゲティーナは侯爵令嬢としての礼儀のみを身に付けているような、そんな感覚を植え付けさせられた。
幼い頃から決められた婚約ではなく16歳で婚約を結び、王妃教育を受け始めたテイゲティーナはどうしても自分は劣っていると思ってしまったのだ。
そして、テイゲティーナの息子アサルティンが王太子の時、その妻カナリアが懐妊した。
それと同じ時期にマティラエラも前国王の子を懐妊したのだ。
それがザラノアールとセルジュである。
テイゲティーナはマティラエラに強い劣等感と焦燥感がある。
だから、何がなんでもザラノアールを王太子にして、マティラエラ共々セルジュを失脚させたいのだ。
そう実行出来る隙を常に探っているテイゲティーナは、たまたま持ち込んできたマリアンヌの話を利用したのだった。




