ストーカー日記 3
〇月✕日
今日のネネ様は薄いピンクのフリルが沢山着いたワンピースを着ているよ。
袖と裾にたっぷりと使われているフリルには刺繍がされていて風にゆれてフワフワしてるの。
スカートは脛位までのロングスカートでレースがいっぱい付いたスカート?なのかな、スカートの中にも履いてるみたいでスカートの裾にあるフリルの下から黒のレースが見えてるんだ。
それが良い仕事をしてるみたい!胸の下から切り替えのスカートがふんわりと広がるの!
上半身が薄い茶色のブラウスになっていて、胸元には小さなフリルにリボンが結ばれているよ。
胸の下からは白のスカートで色が変わっていて、濃い茶色に緑の刺繍が入ったリボンでキュッと胸の下が絞られているんだ。
胸元が強調されてちょっとドキドキしちゃうけど、すっごく似合ってる!
背中側から見たら、胸の下から結ばれてる大ぶりのリボンが歩く度にヒラヒラ揺れるんだ。
無地で形もシンプルだけどシルエットが凄く綺麗でフリルがとっても似合ってる。
うん、ネネ様は今日もとっても可愛い。
今日は確認していた出発時間から5分遅れてお家から出てきたネネ様は足元を何度か気にしているみたいだった。
それも些細な事なのか使用人には言ってないみたいで誰も注意していないみたい。
どうしたのかな、心配だな。
馬車に乗り込んだネネ様はそのまま貴族御用達
の買い物が出来る店が並ぶ場所に執事を伴ってきていて、予定通りに焼き菓子のお店に誘導されている。可愛い。
「ネネリーナ様、こちらはいかがでしょう」
ふわりとロングスカートのドレスを揺らして振り向いたネネリーナは、手のひらで指し示される店の前でその外装を見上げた。
赤茶色の壁に蔦が絡まったようなデザインの門が楕円形にくり抜かれていて店の中が見えるようになっている。
その蔦の周りにはボウッと光るような青い薔薇が咲いていて、綺麗な入口を演出していた。
「ここは有名な焼き菓子のお店です」
チラリと店内を見ると、店の中央には白に青い薔薇が書かれたテーブルクロスが敷かれた丸いテーブルがあり、そこに小花で飾られた籠の中に小売の焼き菓子などが綺麗に並んで置かれていた。
端には休憩用のテーブルと椅子があり、同じ白地に青い薔薇のテーブルクロスが掛けられていた。
シミ一つなく綺麗なそのテーブルクロスはシルクみたいだ。
「……ここにするわ」
「かしこまりました」
ネネリーナにとって、義理を果たす役割であるため品質さえしっかりしていて返礼にあった品物であればと、考えていた。
迷惑を掛けたから、そのお返しに。
頂いた(強奪)のが食べ物だから、返礼も食べ物をと、丁度いいかなと頷いたのだ。
「……なかなか綺麗ね」
ネネリーナは清潔に、そして可憐に整えられた店内に満足そうに、ほう……と息を吐き出しながら言った。
食欲のそそる甘い匂いに包まれた店内は、その見た目も綺麗に作られた焼き菓子が行儀よく端から並んでいる。中央にあるテーブルは勿論、端からショーケースに入ったお菓子たちを順番に眺めていく。
何度か立ち止まり唇に指先をあてながら目を細めるネネリーナに従者とメイドはおすましして見守っていた。
ふっくらとした唇か指先で押されている。
「いらっしゃいませ」
しばらく眺めていたネネリーナの後から来店する客がいたのだろう、控えている店員が皆同じ角度で頭を下げ入店する客に定型文を放った。
思わず振り返ったネネリーナは、来たばかりの客を見て、誰だか認識した瞬間目を見開いた。
慌てて、しかし優雅に端に寄りネネリーナはすぐにスカートの端を持ち腰をおった。
「あぁ、気にしないで。ただの買い物だから。君の買い物を邪魔してしまってごめんね?」
頭を下げるネネリーナの前まで来た来店客は、キラキラの髪をふわりと歩く反動で靡かせる。
そして、頭を下げているネネリーナの顔をのぞき込むように少しかがんで顔を見た。
大きな瞳が緩く細められ、ふわりと笑う王弟殿下にネネリーナは驚きを隠せなかった。
極限まで見開かれた目をそろりとセルジュに向けると、嬉しそうに微笑まれネネリーナは慌てふためく。
「お、王弟殿下におかれましては……」
「あ! いいの! 休日のお買い物の時に驚かせて本当にごめんね? ねぇ、頭を上げて、顔を見せてよ。名前はなぁに? 」
ふんわりニコニコとネネリーナにとっては初めて直接言葉を交わす王弟殿下に目が回りそうになっているが、あざといくらいに可愛いアピールをしてネネリーナの記憶に残ろうとするセルジュは、ここで逃がしてなるものか!と、グイグイと話しかける。
ネネリーナに拒否の言葉を言わせるものかと、少し距離を詰めながら。
「……あ、お初にお目にかかります、私、ネネリーナ・カエサエルと、申します……」
挨拶すら言葉をとぎらせるなんて、と恥入り顔を赤らめるネネリーナに、セルジュは蕩ける様な笑みを向けた。
「……そっかぁ、カエサエル侯爵のところの。ネネリーナ嬢……うーん、ネネ様……って呼んでいいかな?」
まるで初めて会ったかのようなよそよそしくも、強引に伺う王弟殿下にネネリーナは真っ赤な顔のままフルフルと首を横に振った。
「ネネ様……など、どうぞネネリーナとそのままで……」
「……うん、でもネネ様がいいな。だめ?(今まで直接呼ぶことが出来なかったネネ様って呼びたい。逃がしたくないなぁ)」
「あ、あの、えっと…………」
赤らめた頬を慌てて扇子を出して顔半分を隠したネネリーナにセルジュはかわいいかわいいと心の中で連呼した。
(え、なにこれ可愛い。顔隠しちゃうの勿体ない、でも、これも凄い可愛い。プルプルしてる!)
「ねーえ? ネネ様、だめ?」
「あ……ああああの、私……いぇ、……えと……だ、大丈夫ですわ……」
「……(大丈夫、かぁ)じゃあ、大丈夫ならネネ様って呼ぶね? 」
焦りで挙動不審になり、いまいち何を言ってるのかわかっていないのだろう、ネネリーナにセルジュは、言質取ったよ!と可愛らしく笑った。
今の状況についていけないネネリーナは目線を逸らして小さく頷くのを、目を細め舐め回すかのようにセルジュは見つめていた。