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王弟殿下のストーカー日記  作者: くみたろう
王弟殿下のストーカー日記
22/81

ストーカー日記 22


 〇月✕日


 今日からまた学校が始まるね、1ヶ月の夏休みは僕にしたら短かったなぁ。

 もっとゆっくりネネ様との時間を作りたかったんだけど、仕方ないよね。

 お陰でマリアンヌの件は無事に解決したし、ザラノアールの機嫌も凄くいい。

 母上達のイザコザもとりあえず収まったし、いいこと尽くし。

 これで僕の婚約者も問題なくなったし、あとはデビュタントでネネ様を選ぶだけ。

 僕だけのネネ様になるまで後少し。



「…………よし、いいかな。マリアンヌのことはわざわざ此処に書く必要もないでしょ」


 うんうん、と頷くセルジュ。

 色々あったけど、これで全てが片付いた。

 ザラノアールには1番いい方法で話が纏まり満足そうにしている。

 彼女も何だかんだ嬉しそうだから大丈夫でしょ、と呟いて伸びをしたセルジュは日記を閉じて机にしまった。

 しっかりと鍵を掛けたのを確認してから立ち上がり登校する為の準備を始める。


「早くネネ様に会いたいなぁ」




 ネネリーナは自室にある姿見の前でシュルリと音を鳴らしながら制服のリボンを結ぶ侍女の指先を見ていた。


「……ふぅ」


「お嬢様? 如何しましたか? 」


「な、なんでもありませんわ!! 」


 ため息に敏感に反応した侍女が顔を上げネネリーナを見ると、ビクンと大袈裟に身体を震わせたあと顔を背けて朝から声を張り上げる。

 赤らめた顔が何を考えていたかなど侍女にはばれているのだが、ネネリーナはそんな事気付きもしない。

 微笑んだ侍女が、失礼しました。と頭を下げ退室してから力無くソファに座る。


 夏休みの間、会いに来るセルジュの強力な攻撃にヒィヒィ言っていた。

 言葉で、距離で、触れ合いでネネリーナは息も絶え絶えになっている。

 その日常が終わると、ホッとしているのか悲しんでいるのか複雑な気持ちだ。

 流石に2人でいる時のような触れ合いは学校では出来ないだろうと、目を伏せた。


「……セルジュ様は、私に好意を寄せてくれている……のですわよね? 合っていますわよね? 」


 自問自答するが、恋人や婚約者はおろか友人すら最近出来たばかりだ。

 距離感が分からず、これって普通? と首を傾げる。

 これからは毎日顔を合わせる。それを思い出すだけで顔をあからめるネネリーナは純粋すぎるほど純粋だ。


「……だ、だめですわー!! なんだか不安で胸がごちゃごちゃで、もう気持ち悪いっ! 吐きそうになりますわっ!! ……大丈夫ですわよね? セルジュ様を見て吐き戻したりしませんわよね? ね? 」 


 急に来た不安感に、ドキドキしながらとにかく学園にとネネリーナ準備を進める。

 ネネリーナは今までの中で1番緊張しながら学園へ向かう事になるのだった。



 夏休み明け、馬車を降りたネネリーナは浮かれている生徒たちをまずは眺めた。

 どこどこに言ったとか、領地に戻りカントリーハウスに戻ったとか。

 そんな声を耳にしながら、ネネリーナは笑みを浮かべて歩き出す。


「(私だって、今年の夏はミネルヴァ様とお茶会をしましたわ! セルジュ様と……その、デート……も、しましたし!! 充実した夏休みでしたもの!! )」


 今までは悲しくおひとり様なネネリーナだったが、今年は違うぞ! と得意げに笑う。

 そんなネネリーナをたまたま見たクラスメイトが、「ネネリーナ様、なんだか嬉しそうで微笑ましい」と見ていた。

 既にネネリーナ様のツンツンはただ可愛いと見られているので、微笑ましいとしか感想は出なかったクラスメイトだった。


 

「ネネリーナ様、おはようございます」


「まぁ! あ、挨拶してあげてもよくてよ! おはようございます、ミネルヴァ様」


 このポンコツ具合を愛しているミネルヴァは、こっそりと鞄を殴る。

 かっわ! と、声に出そうになり内側の頬を噛み締めていた。まさに限界オタクと化している。


「…………ミネルヴァ様、メリル様と連絡取れまして? 」


「あ……その事でお話が」


「なにかしら? 」


「その……どなたかはわからないのですが、お茶会帰りに拐かされたと噂が出ております」


「…………え、メリル様が……? でも……体調不良と……」


 一瞬にして顔が青ざめた。

 貴族の令嬢を拐かすのは、今に始まった事ではない。

 身代金要求の為や貴族や虐げられた腹いせ、他家への切り札だったり他国へ売りつけたり。

 令息より大人しく歯向かわない令嬢たちは、使い所が沢山ある。その体も含めて。

 だから、上手く助けられても傷物にされたと中傷され家から出られなくなったり、修道院に行くのが関の山なのだ。

 そんな危ない目にあうのに、メリルが拐かさた……? とふらついた。

 令嬢のお茶会ではその情報も話の種になる。

 心配だと言いながら実際はどんな目にあっているのだろうと憶測し下品な内容を小声で話すのだ。

 ネネリーナのお茶会頻度は限りなく少ないが、内容は流石に知っている。

 様々な憶測による下品な内容がネネリーナの頭をよぎる。


 

 メリル様、いらっしゃるでしょ?どうやら拐かされたらしいのよ。

 え?メリル様が?

 お茶会帰りだったらしいわ

 騎士の方は? 勿論いらっしゃったのよね?

 ええ、でもどういった経緯かはわからないのですが、攫われたのは本当らしいですわよ。

 ほら、実際に今おりませんもの

 まあ、怖いわねぇ……でも、メリル様……ふふ。

 まあ、なにを笑っているの?

 ふくよかな人が好きな犯人だったのかしらって

 まぁ! ……ふふ、やめてくださいませ、笑ってしまったわ


 令嬢が拐かされるのは頻繁ではないが、少なくもない。

 こうして日常会話の中に自然と入ってしまうくらいには浸透してしまっていた。

 自分たちが被害者ではないからこそ、面白おかしく話をしているクラスメイトに、ネネリーナは眉尻を下げた。


「どうして笑っていられるのかしら……心配ですね、メリル様……」


 ミネルヴァの心配そうな声を聞き、ギュッ……と手を握りしめる。

 貴族令嬢の退屈な生活の中に投げ込まれた、拐かされるという刺激に面白おかしく話すクラスメイトの姿を見てネネリーナは嘆かわしい……と眉をひそめた。

  

 


 

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