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王弟殿下のストーカー日記  作者: くみたろう
王弟殿下のストーカー日記
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ストーカー日記 21


 〇月✕日


 今日は夏休みに入ってネネ様とのデート5回目。

 夏休みは残り少なくなってきたけど、僕はこのチャンスを見逃したりはしないよっ!!

 1日いっぱいネネ様と一緒に居られる貴重な期間だからね!!

 学校が始まったら毎日会えるし、休み中は1日中会えるし!! 最近の僕はいい事しかないや!!


「ネーネ様っ!! 」


「きゃあ!! えっ?! セルジュ様っ?! 」


 静かな自室で紅茶を飲んでいたネネリーナに部屋の入口から声をかけるセルジュ。

 

 流石に部屋に入るのは辞めたけど、勝手に開けた時点でアウトだよね、わかってる。

 そう思いながらも驚くネネリーナの可愛さに笑顔が自然と浮かぶ。


「セルジュ様……? な、なぜ…… 」


「うん、ごめんね。ネネ様をびっくりさせたくて、家令にこっそり入れてもらったんだ」


「……そうだったのですね」


 普通だったら叩き出される様なことをしてのけるセルジュ。

 自分が王弟である事と、この屋敷に住む全ての従業員を牛耳っているからこそ出来ることだ。


「入ってもいいかな? 」


「あ……はい……」


 こうして、混乱中のネネリーナの自室になに食わぬ顔で入っていくセルジュ。

 しっかりと扉を閉めると、ネネリーナが小さく「あ……」と呟いた。

 それもそうだろう。今は2人きりなのだ。


「ネネ様は、白い服が似合うね」


「ありがとうございます」


 レースがふんだんに使われた軽やかなワンピース。

 襟元や、袖に裾とたっぷりなレースに、胸下からは太めのリボンがある。

 リボンは明るい黄色で、セルジュの髪色によく似ていた。

 無地のワンピースは清楚で、最近大人しい化粧に変えたネネリーナによく似合っている。


 お互いに当たり障りない話を繰り返し、穏やかで優しい時間が続く。

 ツンツンとしていたネネリーナは、最近セルジュの雰囲気に飲まれて侍女たちにも優しく話しかけることがあると情報が来ていた。

 ツンツンも可愛いんだけどね! と手紙を見る度に顔を緩ませるセルジュ。


「ネネ様、僕と話すの楽しい? 」


「はい、とても」


 ふわりと笑うネネリーナに嘘は無い。

 以前よりも落ちついて話せるようになってきたからか、表情も随分と柔らかくなった。


「ネネ様、そっちに行ってもいいかな? 」


 セルジュは室内で2人きりの時、前半は普通に話し後半は距離を詰める。

 それをもうわかっているネネリーナは、俯きがちに静かに頷いた。

 キュッ……とスカートを握りしめて大人しくしているが、内心は荒れ狂っている。


 今日は早くありません?! セルジュ様、最近どんどん大胆ですわよ? 私、心臓が痛いのですけれども、どうすれば宜しくて?!

 あああぁぁぁぁ、今隣にっ! 隣に来ましたわ!! 座りましたわぁぁぁあ!! あ、甘い良い香り……なんの香りかしら…… 落ち着く香りですわね。

 ……いえ違いますの!! 香りが届くという事は、距離が近いという事で! あぁ、身動ぎされて体重の移動でソファが沈みますわっ!! 肩が触れてしまいますわぁぁぁぁぁ!!


 必死にお淑やかな笑みを心掛けてはいるが、顔が引き攣り冷や汗をかいている。

 緊張からなのをストーカーセルジュが分からないはずもなく、愛おしい……と眺めていた。


「ネネ様」


「ハい……? 」


 ……くっ、声が裏返りましたわっ!

 セルジュを見て返事をしたが、声が裏返った。

 セルジュはキョトンとしていて、それが更にいたたまれないと、全身真っ赤になる。


「……ネネ様……いま……」


「なんですの?! 」


「……今声が……」


「なんですの?! 声がどうかしまして?! 」


 恥ずかしさといたたまれなさで、セルジュ相手にツンツンが顔を出す。

 そんなネネリーナに気付いていて何度も聞くセルジュの意地悪な顔すら、必死な様子のネネリーナには気付いていなかった。


「……ううん、なんでもない」


「なんで笑っていらっしゃるの?! 」


「ふふ……ふふふ……可愛い、どうしようネネ様……可愛い」


 ネネリーナの手を両手で握る。

 手の平を合わせて握り合う、やはり小柄で可愛い顔をしているセルジュだが、ネネリーナよりもしっかりした大きい男性の手だ。


「お離しになってくださる?! 」


「だぁめ、ネネ様の手が柔らかい。可愛い、女の子の手だ。僕の剣だこが目立つ手とはやっぱり違うね」


 にぎにぎと指を動かすセルジュに、硬くて筋張ったセルジュの手に意識が行く。

 暖かいのだが、やはり普段触れることの多い女性の手ではないとマジマジと見てしまった。


「……僕の手、気になる? 」


「えっ! いえ、違うのです! 男性の手だなと思っただけでっ!」

 

「……うん、ネネ様とは違う男の手だね」


 握り閉めていた手を開いた。

 そのまま開いた状態で両手を出していると、離されたネネリーナの手は行き場を失う。


「ね、ネネ様から触って」


「……触る? 」


「うん、ネネ様の好きに触って欲しい。指先でも、手のひらでも甲でも。ネネ様とは違う固くて厚みのある手、僕の手だって忘れないように僕を見ながら触ってよ……勿論、それ以外でも構わないよ? 」


「んなっ!! なななななな!!さわっ! さっ…………むりぃぃぃ」


 目を細めて笑うセルジュに、ネネリーナの顔が燃えるように熱くなる。

 そして、パタリと意識が刈り取られてソファにクタリと体を預けた。


「…………だめかぁ」


 自分の目の前で倒れたネネリーナを見て目を細めたセルジュはそっと頬に唇を落とした。

 

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