ストーカー日記 20
〇月✕日
ネネ様の家に行ったら、可愛いネネ様がお出迎えしてくれた。
夏になって暑いからと、薄手の洋服を送ったんだけど、侍女がちゃんと着せてくれたみたい。
やっぱり僕の目に狂いはなかった、ネネ様凄く可愛かった。目の保養だよね、幸せ。
色もあっていたし、化粧ちょっと変えてた。
タレ目になるように目元を変えてたなぁ。
大きなタレ目になってた、とっても可愛い。
似合う、大好き!! いつものも勿論大好き、愛おしい!! つまり、全部好き!!
あ、でもちょっと露出が多すぎて触りたくなったなぁ。
我慢したあの時の僕偉かったよね。足とか触りたかったなぁ。
あと! 何といってもクッキー!! 料理なんてした事ないのに上手なクッキーだなって思ったら、計量や焼きなんか全部料理長で、ネネ様は型抜きだけしたんだって。なにそれ、かわいい。
型抜きも立派な料理だよね、うん。わかるよ。
思わず感動して、ネネ様の隣にどさくさに紛れて座って手を握ったよ。
小さくて暖かくて、ふにふに柔らかいネネ様の手。
もう離したくない、ずっと握ってたい。
そんな気持ちが溢れちゃったから仕方ないよね。
まだネネ様とは会話をして日が浅い。
それをわかっていて、ネネ様を離さないようにどうにかする必要がある。
可愛さが周りに気付かれてきているネネ様を奪われないようにしないと。ネネ様は僕のだから、絶対に僕のお嫁さんにするからね。
「……セルジュ、貴方怖いわ」
「ちょっ……何勝手に見てるの?! 」
「凄くご機嫌で帰ってきたのだもの、絶対何かあったと思うでしょ」
「だからって見て良い訳じゃないよね?! しかも勝手に部屋に入ってるし!! 」
「ノックはしたわよ? 返事を待たなかっただけ」
「待ってよ!! 」
座って書いていたセルジュの後ろから覗き込んできたザラノアールが日記を奪い取って今日の日付を読む。
へぇ、手作りクッキーねぇ……と笑いながら見るザラノアールから奪い返す為に立ち上がったが、15cm程身長差がある為手を伸ばしても届かない。
「っ……無駄ににょきにょき伸びて! 」
「大丈夫よ、おじい様は身長が高いのだから貴方も直ぐに大きくなるわ」
「腹立つなっ!! 」
声を上げて笑うザラノアールに、怒りを滲ませるセルジュ。
あの可愛らしく蕩けた笑みで話すセルジュではなく、気心しれた相手に話す随分と崩された口調だ。
「いいじゃない、楽しかったのでしょ? 」
「そりゃ……楽しかったけど……そっちはどう? 」
「……まぁ、ね? あと数日ってところかしら」
大人しく日記を返したザラノアールが静かに答えた。
どうやらマリアンヌがもたらした問題解決は目前らしい。
「テオドア・ゲイルやメリル嬢は? 」
「そこらへんは大丈夫よ。それにしても、随分思い切った事をするわね」
「ああ、婚約者の事? 」
「ええ、まさかマティラエラ母上を殺す条件でとか……良く考えるわ、呆れちゃう」
「どうしてもザラを皇太子にしたいんだろうね。派閥がザラの戴冠に躍起になっていたのと、邪魔な母上を弑逆したい思惑が見事に合致してしまったからメリル嬢誘拐事件なんて起きてしまった。
馬鹿げてるよ。母上が死ぬ事で僕の協力な後ろ盾が無くなるわけじゃないのに。婚約者を決めていいって言ったのが何とも尺に触るけどね。そもそも僕は王になりたいなんて思ってない……僕は穏やかな毎日をネネ様と過ごしたいだけ……」
「はいでた。ネネ様論者」
「悪い?! ネネ様が1番可愛くて綺麗で聡明で……」
「はいストップ。セルジュがネネ様の話し出すと長いんだから」
「わるいっ?! もっと話し聞いてよ!! 」
「はいはいはいはい」
「…………はぁ。あんな野心家な女性を嫁にはしたくないわ」
今回、事の発端はマリアンヌがテオドア・ゲイルを好きになった事から始まった。
公爵家で見目麗しく優しいテオドアを一目見て気に入り直ぐに母、テイゲティーナに頼み込んだ。
テイゲティーナは身分も悪くなく品行方正なテオドアを書類で見てから直ぐに降嫁先としてゲイル家に連絡が行ったのだが、すでに婚約していて無理ですとお断りの返事が来たのだった。
既に婚約者がいる場合に、王家からの降嫁先については拒否する事が可能となっている。
地位など大切にする貴族にとってはまたとないチャンスではあるのだが、相手はゲイル家である。
そして、その婚約者はメリル・ラクシーン。
ゲイル家もラクシーン家も現国王との繋がりが強かった。
さらに、テイゲティーナの実家とは派閥が違う。
無理を言って頷かせるのは難しいとテイゲティーナは爪を噛み締めた。
そこで、メリルを拐かし女性としての矜恃を潰す計画をする。
だが、既に怪しい動きを見せていた2人の行動がザラノアールの目に付く。
マリアンヌが癇癪を起こし問題が起きた場合、だいたい母であるテイゲティーナに声をかけるマリアンヌ。王家の名を背負う2人に安易に動かれては困ると、いつも未然に防いでいたのだが、今回はすでに手を打った後だったとメリル・ラクシーンがお茶会帰りに誰かに連れ去られたのだ。
こうして、マリアンヌから始まった騒動は、侯爵家と子爵家を巻き込んだ。
「…………色々ほかにもあったのだけど、それは今度また話すわ。そろそろ夕飯の時間でしょ? メリルに渡しに行かないと」
「…………わかった、またね」
「ネネ様の話、今度詳しく聞かせてね」
ウインクして部屋を出ていったザラノアールを見送ってからベッドに倒れ込んだ。
「………………メリル、ね。ザラって手早かったんだぁ」
今まではメリル嬢と言っていたはずのザラノアールが、呼び捨てで呼んでいた。
だいぶ気に入っていたみたいだけど、お互い婚約者がいるのにどうするつもりかなぁ……と考える。
「…………まぁ、ザラが下手打つわけないかぁ」
ごろりと横を向いて目を閉じた。




