ストーカー日記 19
〇月✕日
やっと! やっと時間ができた!!
マリアンヌのゴタゴタがちょっと落ち着いてきたみたい。
もうじき解決かなぁ。
これでやっとネネ様とイチャイチャできる!!
もう僕ネネ様不足でアンデットになりそう! 助けてネネ様!! 愛してるネネ様!!
あとだいたい2ヶ月ちょっと、これが僕に残された時間。
この期間にどうにかしてネネ様に僕を好きになってもらわないといけない。
あれだけ頑なに僕に婚約者を作りたがらなかった正妻がデビュタントに僕の婚約者を決めると言った。
てっきりザラノアールの結婚と嫁の出産が確実になってからやっとかなって思っていたから、ネネ様との婚姻なんで絶対無理だと思ってた。
遠くから見てるだけで満足できるって。
でももう無理だよ。手が届くと分かってしまったら、あがけるだけあがいてネネ様を僕の物にしたい。それしか浮かばない。
婚約をしたとして、結婚はいつになるか。もしかしたら、出産時期を大幅に超えてしまってからかもしれない。それでも。
「……さあ、そろそろ僕も本気を出さないとね」
先日に出した先触れにもいい返事を貰ったセルジュは、久しぶりのネネリーナに会えると気分は高揚していた。
しかも今日はネネリーナと部屋でお茶を一緒に飲むのだ。
楽しみ以外ないだろうと、セルジュは、はやる気持ちを抑えて準備を終わらせる。
花束を抱えて馬車に乗り込んだ時にはソワソワと窓の外を眺めていた。
「ネネ様、会いたかったよ」
「いらっしゃいませセルジュ様……あの、ようこそ……」
セルジュがカエサエル公爵家に着いた時、外に使用人がズラリと並び頭を下げ、真ん中にいるネネリーナが緊張しながらもセルジュを歓迎した。
手をぎゅっと握りしめて、淡い緑色のグラデーションドレスを着ているネネリーナにセルジュは目を細めて笑う。
オフィシャルのドレスは膝丈のスカートで、後ろは長いアシンメトリーになっている。
ネネリーナの細くしなやかな足や、肩に腕が出ていて、夏らしく生地の薄い軽やかなドレスがよく似合っている。
「……ネネ様、今日も凄く可愛い」
セルジュは可愛さが溢れ出て、まだ外だと言うのにネネリーナを褒める。
今すぐにでも抱きしめたい衝動を押さえ込んだセルジュはぐっ……と手を握りしめてから、案内されるままにネネリーナの後を付いて行った。
「…………どうぞ、お座り下さい」
「ありがとう」
案内されたのは、ネネリーナの部屋ではなかった。
初めてのカエサエル侯爵家訪問なのだ、当然だろう。
お客様を通すようの部屋なのか、綺麗に揃えられた調度品が品良く並んでいる。
「……いい香りだね」
「最近の、お気に入りなんです……甘すぎませんか? 」
オレンジの香りが部屋に広がる。
無表情を変えないメイドが紅茶とお茶請けを置いて静かに頭を下げた。
部屋を出ていく時に、未婚の男女がいるからとほんの少しだけ扉を開けていく。
それを確認してからセルジュが紅茶に口を付けた。
「…………うん、美味しいね。ストレートでも十分な甘さがある」
勿論ネネリーナが最近この紅茶が好きなのは知っているし、セルジュの部屋にも常備している。
ネネリーナの好きな物も用意しておきたいし、同じ味を堪能したいから。
「ネネ様、最近はどう? 何か変わった事あった? 」
「いえ、特に……あ」
「うん? 」
「その……この間お茶会をしたのですが」
「うん」
「その……メリル様からの連絡が何も無くて……」
「…………あぁ、そうなんだね」
ネネリーナは、俯き手を握りしめる。
その手をじっと眺めながらポツリと呟いた。
「お手紙を送ったのですが、今体調が悪いからとメリル様のお父上から手紙が届きまして……お返事が出来ないほど体調が良くないのかしら、と心配をしていました」
「………………そっか」
悲しむネネリーナの様子にセルジュも顔を歪める。
今いる場所やメリルの様子を知っているが、言える状態ではない。
悲しそうに微笑み当たり障りない事しか言えなかった。
「早く良くなるといいね」
「……はい」
メリルの事で一瞬しんみりとしてしまったが、セルジュがお茶請けとして置いてあるクッキーに手を伸ばす。
それを見たネネリーナの頬がポッ……と赤くなった。
丸や星型の可愛い形のクッキーは、綺麗なきつね色のプレーンとチョコレート味の2種類がある。
セルジュはプレーンを指先で掴みゆっくりと口に運んだ。
「……ん、美味しい」
「本当ですか?! 」
「うん」
軽いサクッとした食感にホロホロと崩れるクッキーは甘さ控えめで美味しい。
逆にチョコレートは濃厚で、交互に食べると止まらなくなる美味しさだ。
セルジュは顔を上げると、真っ赤に染めた頬を両手で抑えているネネリーナを見る。
「は……何それ、かわいい」
「あの……それ、私が……作りましたの」
「えっ?! ネネ様が?! 」
「お口にあったようで、良かったですわ……」
「わ……わぁ……ネネ様の初めてのクッキー、貰っちゃって良かったの? 」
「セルジュ様の為に……作りましたから」
目線を逸らして言うネネリーナに、思わず立ち上がった。
そして、ネネリーナが座るソファの方に行き、無遠慮に座る。
「セ……セルジュ様?! 」
「どうしよう! 凄く嬉しいよネネ様!! ネネ様、頑張ってくれたんだね!! 」
「あああぁぁぁ……近い……ですわぁぁぁぁぁ!! 」
ギュッと手を握って至近距離で話すセルジュは満面の笑みだ。
狼狽えて後ろに下がれば、その分セルジュが距離を詰める。
「ネネ様……少しは僕の事好いてくれてるの、かな? 」
「あああぁぁ、私、 セルジュ様におかれましては! いつもお世話になっておりますのでっ! ですので! あのっ! あのぉぉぉ……」
がっしりと腕をセルジュに掴まれてネネリーナは顔を隠せない。
眉尻を下げて、フルフルとまつ毛を震わせるネネリーナは、どうすればいいの?! と心の中で叫んで目をグルグルとさせた。
「…………可愛い……この荒んだ気持ちにネネ様は綺麗すぎるよね……」
「はぁぁい?! 」
ネネリーナ、必死である。
すでに夏休みは後半、セルジュはこの休みの間にもう少し親密になりたいと思っているのだが、マリアンヌの尻拭いに走り回っていてなかなか時間を取れていなかった。
だが、ある程度落ち着き、あとはザラノアール達でなんとかなると判断したセルジュがいち早くネネリーナ中心の生活に戻り、ネネリーナの時間を貰うんだと意気込んでいる。
混乱しているネネリーナにさらに追い討ちを掛けるセルジュは、いやに輝かしい笑顔を浮かべていた。
「ネネ様、僕は本気だからね」
「本気……と、いいますと? 」
「本気で落としにいくからね」
「ひゃぁぁぁぁぁぁぁあああ?! 」
するりと腰に手を回して密着したセルジュが、ネネリーナの耳元で優しく艶やかに囁いた。
キャパオーバーとなったネネリーナは悲鳴を上げて耳を抑えセルジュを見る。
「なななな、いきなり……いきなり?! 」
「いきなりじゃないよネネ様。僕にとってはやっとだよ」
「わ、わかりません……」
「そうだよね、知られたら嫌われちゃうかもしれないから、これは内緒」
「…………内緒」
ネネリーナの唇に人差し指を当てたセルジュは、満足そうに笑った。




