ストーカー日記17
〇月✕日
夏休みはやっぱり中々会えない。
流石に毎日家に通ったら気持ち悪いって思うよね。あの観劇の日から3日たったけど、もう会えなくて僕の胸は張り裂けそうだよ。
仕方ないから毎日手紙だけは送ってる。5枚から6枚のいかにネネ様に会いたいか好きかを綴っているんだ。
ネネ様大好き。早く会いたい。
早く学校始まらないかなぁ。
ネネ様の可愛い顔が見たいし、やっと話せる距離にいられるようになったんだから、もっと親しくなりたい。
観劇でネネ様の肌にちょっとだけ触れから、歯止めがきかないよね。
もう、すごく好き。
その為にはとりあえずは、目の前の問題を何とかしないとなぁ……
毎日書いているネネ様観察日記を閉じて息を吐き出す。
夏休みは学校と違うからネネリーナに会うことは出来ない。
王城の中で生活するセルジュの癒しなのに会えない苦痛にのたうち回りたくなる。
「…………はぁ、行こうかなぁ」
机の中に大事にしまってから、鍵を閉める。
ネネ様観察日記を知っているのは甥のザラノアールだけだが、ネネリーナに執着しているのは広く知れ渡っている。
幼い頃、大々的に好きだと周りに公言していたからだ。
兄である王は、子を成すために年若くに政略結婚をしていた。まだ皇太子の頃だ。
そして、思惑通りに子を成した時、現国王の父も側室も子を成す。それがセルジュである。
同じく王の子ではあるが、歳が離れすぎている事と既に王太子となり王になる事は確定していた。
だからセルジュは生まれながらに王弟殿下となったのだった。
王太子である兄は、後に王になりセルジュは王弟殿下となるのだが婚約者は出来なかった。
それは、同い年に王の子がいるから。
後の王太子となるザラノアールの即位を磐石にしたい兄の母の願いによって。
兄の母は正妻で、セルジュの母は側室だった。
歳が離れているからこそ喧嘩もなく過ごしてきた兄弟だが、その母達は酷く仲が悪い。
側室であるセルジュの母の方が身分が高いからだ。
正妻は侯爵家の令嬢で、側室は他国の王女だった。
和平交渉の為に国王の側室として娶られたのだが、年若い王女が嫁いできたのは正妻が39歳の頃。
娘を愛する国王がいるのだ、セルジュの母は強い後ろ盾がある。
若い側室に強い嫉妬心を持った正妻は、頑なにセルジュの婚約者を許さなかったのだった。
この事は当時の王、セルジュの父は何度か口を挟んではいたが、気の強い国母と強い後ろ盾がある側室に言いくるめられていた。
そして、セルジュは17歳まで婚約者がいない状態で生活する。
そして、ザラノアールは同い年の侯爵家の令嬢と早い段階から婚約し正妻の思惑通りに進んでいるのだ。
セルジュが結婚を認められるのは、ザラノアールが立太子の声明を受け、子が2人以上生まれた時ではないかと言われている。
そんな王族の汚い思想の中で生活してきたセルジュが綺麗に育つわけがない。
王位継承権を争う駒になるセルジュは、母親からザラノアールを出し抜けるようになれと幼い頃から育てられた。
自分が上だと理解しているのだろう、足を組んで優雅に笑みを浮かべながら。
母はセルジュこそが王にと望むが、セルジュが王位に立つことは難しいだろう。
幼いながらに頭の回るセルジュは、母親達の汚い罵り合いや足の引っ張りあいを眺め、上手くかわして生きていた。
「…………王族のゴタゴタはもう勘弁なんだけどなぁ……あぁあ、ネネ様に会いたいよぉぉ」
こんな汚い中で育ったセルジュにはネネリーナは輝いて見えた。
「…………あーあ、まぁた騒いでる」
はぁ……とため息を吐き出しながら騒がしい中庭に向かっていった。
「どうして駄目なのよ!! 身分的にも相手は公爵家なんだから問題ないじゃない!! 」
「だから、彼には婚約者がいるって言ってるじゃないか」
「私は王女よ!! 子爵家の娘よりよっぽどいいじゃない! そもそも分不相応なのよ!!身の程知らずだわ! 」
「身分だけでしょ?そもそも両家が納得してるんだから君が入る余地なんかないんだよ。それなのに我儘娘の君の旦那にだなんて……兄ながら申し訳なく思うよ」
「酷いわお兄さま!! 」
金切り声が響く。
不平不満を並べ立てて兄のザラノアールに文句を言っているのは妹のマリアンヌだ。
けぶるような金髪に青い目、しなやかで美しい体を持っている我が国の王女。
たが、母が甘やかして育てた為、酷い癇癪持ちの我儘娘に育っていた。
セルジュはため息を吐き出してザラノアールの隣に行く。
「ねえ、声響いてるよ? 」
「俺じゃなくてマリアンヌに言ってくれよ」
「またあの公爵家の息子の事? マリアンヌも諦めが悪いよね」
「なによ!! セルジュに関係ないでしょ?! 」
「関係あるよ。こんな場所でギャーギャー騒いでうるさいったら。そんな子誰が嫁に欲しいのさ」
「っ!……ほんっとうに性格が悪いわセルジュ!! 貴方の好きなネネシャとやらもその性格を知ったら一気に嫌うでしょうね!! 」
「生憎僕のネネ様は可愛いうえに聡明で優しい子だからね。マリアンヌみたいな馬鹿な発言をそもそもしないの。一緒にしないでよ。あと、ネネシャじゃなくてネネリーナ。そういう所も頭の悪さを主張してるのがわからない? 」
鋭く突き刺さる指摘や侮辱にマリアンヌは顔を真っ赤にして手を振り上げる。
セルジュの頬を叩こうとしたが、ザラノアールに腕を掴まれて阻止された。
「っ……なんなのよ……なんなのよ!! そんなに私を虐めて楽しいわけ?! 」
「僕の姪が常識の欠けらも無いって嘆いているだけだよ」
「本当に失礼だわ!! お兄さま離してよ!! 」
パッと腕を離したザラノアールを睨み付けてから王城に逃げ帰っていくマリアンヌの後ろ姿を見て2人は深くため息を吐いた。
「……マリーも昔はもう少し可愛げがあったのに。どうしてこうなってしまったのかしらね」
「君たちの母親が甘やかすからでしょ」
「………………母上……ねぇ」
生憎ザラノアールは父や重鎮たちに王太子となるべく厳しく育てられた為、浮ついた感情とは無縁で育ってきた。
その分可愛がられたマリアンヌは随分と傲慢に育った。
母、テイゲティーナとよく似ている。




