ストーカー日記 15
デートはまだ始まったばかりだというのに、輝かしい笑みを浮かべて見つめるセルジュに、ネネリーナは動悸息切れに悩まされていた。
年齢の割には幼い外見をしているセルジュの笑みはまさに天使のようで優しい微笑みを称えていた。
薄い金髪がクルクルとしていて藍色のリボンで結んでいる。
そんなセルジュがケーキを食べるネネリーナを黙って見つめていた。
お茶会では緊張からずっと喋りっぱなしだったのだが、本来ネネリーナは食事やお茶は静かに嗜みたいタイプなのだ。
だから、ゆったり食べれるように話をせず静かにネネリーナ観察をするセルジュだったが、ネネリーナはただ見つめられて緊張具合が爆上がりしていて困っていた。
「(なんですの?! 凄い見られています! どこかおかしいですか?! 私、何か変ですかー?! 口の周りに付いてます?! はっ! 化粧が落ちました?! )」
焦って目をグルグルさせながらフォークを置き紅茶を飲む。
緊張からカップを持つ手が少し震え、紅茶の水面が揺れた。
小さく息を吐いて紅茶を飲むと温かさは分かるが緊張からか味がさっぱりわからなかった。
「(お……おいしい……の、かしら? )」
「どうかな、美味しい? 」
「はっ?! はい! 大変美味しくて、ええ!! 」
ビクリ! と体を揺らして返事をするネネリーナを蕩ける眼差しで見つめ、微笑みを浮かべる。
焦って挙動不審になってる……可愛い……触りたい……
そんな不純な事を天使のような微笑みの下に隠しているセルジュは、目を伏せて紅茶を見るネネリーナを舐め回すかのように見つめていた。
カインがいたら、セクハラですよと言われているだろう。
「…………あ、美味しい」
「うん、よかった」
やっと味がわかったらしいネネリーナが笑みを浮かべると、セルジュはにこやかに返事をした。だが、テーブルで隠れた見えないセルジュの手は太ももをキツくつねっている。
「(うっわ!! 可愛い可愛い可愛い可愛い可愛い!! 目の前で笑ってるネネ様最高! どうしよう! 柔らかい頬を触って肌の感触を堪能したい! 濡れた唇に触れたいっ!! 押し倒したい!!我慢ってなんだっけ………… )」
天使の皮を被った悪魔である。
この悪魔である王弟殿下は、これから行く観劇で我慢ができるだろうか……手を握るくらい良いよね? 頬にキスは……? と邪な感情が大暴走している。
ゆっくりケーキを楽しんでいるネネリーナを急かすことなく時間に余裕を持って動いてはいるが、気持ちでは今すぐさらってしまいたいくらいなのだ。
「…………あの」
「ん? 」
「視線が……その……」
「…………見すぎ? ネネ様嫌だった? 」
「嫌だなんて……そんな……」
「じゃあ、恥ずかしかったの? 」
「う……うぅ……」
目を細めて、少し意地悪そうに笑うセルジュに、ネネリーナの心臓がバクン! と高鳴った。
今までの穏やかで可愛らしい笑みから、まるで小悪魔のように笑って見つめてくる。
ジワジワと距離を詰め、食い尽くそうと爪をかくしているような、そんな不思議な感覚に襲われてプルプルと震える。
それは少しも間違って居なかったのだと、ネネリーナは観劇を見に行き身をもって知ることになるのだった。
ケーキを必死に食べ終え、すでにお疲れのネネリーナはセルジュに促されて馬車に乗り、観劇へと向かった。
馬車の中では向かいに座るセルジュが足を組み、馬車のヘリに腕をかけて頬杖をついていた。
いきなり静かになり会話をすること無く無表情で外を見るセルジュに、ネネリーナは何か失礼なことをしてしまったのかと不安に駆られ泣きそうになった。
セルジュはただ単にネネリーナを見たら手を伸ばしそうな為、我慢をしているだけなのだが。
「…………あ、着いたよネネ様」
「………………は、い」
「えっ……どうしたの?! ネネ様?! 」
馬車が止まりセルジュがネネリーナを見る。
そこには泣きそうな顔をしていて俯いている姿のネネリーナがいて、セルジュはやっとその様子に気付いた。
ビックリしたセルジュが慌てて立ち上がり、ネネリーナの手を優しく握る。
しゃがんで下からじっと見ると、ネネリーナの濡れたまつ毛がフルフルと震えた。
「……あの、馬車に乗ってからこちらを見る事もなされないので……なにか、してしまったかと……」
「えっ! なにもしてないよ! ごめん、不安にさせちゃったんだね」
僕が悪かったよ……と言いながら、優しくネネリーナの手の甲を撫でるセルジュ。
少し頬を赤らめて俯くと、セルジュはそっと手を引いた。
引かれた為に顔を上げると、馬車から降りようしているセルジュが振り返る。
「ネネ様、観劇を見に行こう? 始まるまでまだ時間があるから少しお話しない? 」
「……はい」
促されるままに、馬車を降りたネネリーナが手を引かれるままに建物に入っていった。




