ストーカー日記 13
ネネリーナは呆然としていた。
気付いたら帰宅していて、部屋着へと着替えていたネネリーナはヘナヘナと力が抜けてソファに座り込む。
「……明日から休みで……お茶会があって……それで……セルジュ様と……?! はぁぁぁぁ……セルジュ様と?! えっ?! 私、わた……わたくしぃぃ?! いやぁぁぁぁぁ!! 緊張で死んでしまいますわぁぁぁ!! 」
頭を抱えてソファに上半身をぺしょりと預ける。
もう、意味がわかりませんのよぉぉぉ!! と叫ぶネネリーナの声を扉の外からメイド達が静かに聞いていた。
「…………ネネリーナ様がご乱心」
「喜ばれていますね! 」
「セルジュ様に報告かしら」
「ふふ、いつお出かけかしら」
「ドレス選び、楽しみだわぁ」
3人のメイド達がワクワクと目を輝かせているのを、勿論ネネリーナは気付いていない。
メイドに嫌われていると思っているネネリーナは、安易に相談も出来ないからこそ1人で悶々と考え込み深みにハマるのだ。
顔を覆って悶え苦しんでいるネネリーナの必死な声を聞いて、恋バナに花を咲かせるメイド達はきゃあきゃあと楽しそうに自らのお嬢様について語り合っていた。
こうして登校最終日が終了した。
それからネネリーナは長期休暇を楽しんだ。
クラスメイトのミネルヴァとメリルから手紙が届き、また3人でお茶会や観劇を見に行く約束をして喜び、嬉しくないお茶会の誘いに眉を顰める。
侯爵家と縁を結びたいが為に同学年だからとお茶会の誘いがあるのだが、基本的には欠席連絡である。
そんなネネリーナの現在の悩みは、最終日に一緒に帰宅したセルジュの事だ。
連絡すると言っていたが、先触れもなにも来ないのだ。
終業式から1週間と2日、いつ連絡が来るのだろうとソワソワしていた。
「お嬢様、お手紙が来ています」
メイドが手紙が乗ったお盆を差し出してくれる。
ネネリーナは弾かれるようにメイドを見てソファから立ち上がった。
「は……早くよこしなさい! ……うっ……」
さっ……と手紙を受け取り後ろを見ると、セルジュの名前がしっかりと書かれていた。
名前を見ただけで胸を抑えるネネリーナを生暖かい眼差しで見るメイド。
「さ……さがっていいわ! ……あ、ありがとう」
「! ……かしこまりました」
ゆったりと頭を下げたメイドが廊下に出て扉を閉めたのを確認してから走り出しソファに座ったネネリーナが、ドキドキと胸を高鳴らせながらゆっくりと慎重に手紙を開けた。
手紙には綺麗な字で連絡が遅れた謝罪と、お出かけの日にち確認だった。
先触れの内容は4日後で、都合が悪ければ日を改めるけどどうですか? と優しく書いてあった。
「……ううぅぅぅぅぅ……」
嬉しくて、恥ずかしくてたまらない感情に振り回されるネネリーナは、腰をおり膝に額を当てて唸り声を上げた。
初めての女子会でセルジュの話が出てから、ネネリーナは恋愛脳に変わりセルジュの事が頭から離れなくなっていた。
きっかけは、間違いなくお茶会での恋愛トークだ。
気にかけてくれる優しさや、会えないと寂しいと言ったセルジュの悲しげな表情に好意を寄せられていると何となく分かったからこそ、余計に恥ずかしくてどうすればいいのかわからない。
こんな事、初めてなのに……と唸るネネリーナはまさに恋する女子である。
「いけないわ! これじゃ全てがセルジュ様に侵食されてしまうわぁぁ!! 私が私でなくなってしまいますわぁぁぁぁ!! 」
ひぃぃぃん!! と泣き言を言うネネリーナに、そっと廊下で盗み聞きしているメイドはにっこりと笑う。
「ネネリーナ様、王弟殿下に気を寄せているのね。これで王弟殿下も浮かばれるわぁ。何処までも侵食されてテロンテロンになるネネリーナ様が楽しみ。王弟殿下逃がす気まったくないもの」
うふふ……と笑いながら胸にお盆を抱きしめて歩いていった。
それから4日後までネネリーナは落ち着かない日を過ごすことになる。
○月✕日
終業式を終えて1週間以上が過ぎちゃった。
本当はもっと早く先触れを出す予定だったのに、ちょっと問題が起きてネネ様を後回しにしないといけない事案が発生したんだ。
これが、王女のしでかしだから本当にやめて欲しいよ、貴重な休日のネネ様とのお出かけに水を差されて僕ちょっとイラっとしてるんだから。
まあ、ザラが彼女の面倒を見るっていうし、短期でどうにかするって言うから何とかなるんじゃないかな。
どっちにしても早く解決しないとネネ様が悲しむだろうし。
僕のデートが終わったあとなら手を貸すけど、王女も余計な事しないで欲しいよねぇ。
我が姪っ子ながら厄介な子に育ったなぁ。
あー、これはネネ様の可愛さを書くはずの日記なのに反省。
早く4日後にならないかなぁ。




