ストーカー日記 12
〇月✕日
明日から夏休み。
学園で会えていたネネ様に会えなくなるのが残念でしかたないよ。
今まではメイドからのネネ様情報を聞いて我慢していたけど、今はネネ様と会って話しをする機会があるから長期間会えないなんて我慢出来る気がしないよ。
どうしよう、デート誘ってもいいかなぁ。
いいよね? じゃないと僕、何するかわかんないし。
ネネリーナは今日最後の授業を終えて小さく息を吐き出した。
明日から長期休暇に入るため、忘れ物をしないようにしっかり確認をしてから帰宅しようと立ち上がる。
今までの長期休暇では特に仲が良くもない令嬢からのお茶会の誘いを断ったり、時には参加したり。
余り楽しいと呼べるような長期休暇はした事がなく、ただ部屋で過ごすか観劇に行くかとネネリーナの選択はとても狭かった。
その生活に不満は無いが、長い時間ひとりで過ごすのは退屈でもあったのだ。
しかし、今年は少し違うとネネリーナはソワソワしだした。
前に座っていたミネルヴァが立ち上がり、くるりと向きを変える。
その時にはメリルも重厚に重なったお肉をタプっと揺らして笑った。
「ではネネ様、良い長期休暇を。お茶会楽しみにしてますね」
「ネネリーナ様、素敵な観劇が始まるみたいですよ! 是非一緒に行きませんか? 」
指を絡めるように組んで笑みを浮かべるミネルヴァにメリルが、あら? と顔を向けた。
「ミネルヴァ様、観劇はセルジュ様と行った方がいいんじゃないかしら」
「あ、そうでした! 」
「ななななな何を言っていますの! あなたたち!! 」
「ふふふ、ごめんなさいネネ様」
「それでは、お手紙出しますね!! 」
ネネリーナはメリルに上手いこと転がされて、それが面白いとメリルはコロコロ笑っていた。
真っ赤に染った顔で行き場のない感情を弄んでいたネネリーナは、両手をパタパタと動かしていると、ミネルヴァが壁に掛かっている時計を見る。
「あら、そろそろ時間だわ」
「私もそろそろ行かないと……待たせてしまうかしら」
2人はそろそろ迎えが来ると手を振り帰って行った。
どうやらメリルは婚約者と合流するようで、ケーキを食べに行きたいけど、いいかしら……と呟きながら歩いく 。
相変わらずのフワフワボディなメリルは体型を気にしつつもスイーツ大好き女子であった。
「……ふふふ」
2人が帰っていき、ネネリーナも帰宅する為廊下に出る。
そのまま玄関を通り外に出ると暖かな日差しが降り注いでいた。
ネネリーナは、今年はいつもと違い楽しいことが待っているとこっそりワクワクしていると、急に肩を叩かれた。
「ネネ様」
「きゃあ!! 」
「(きゃあって言った! 可愛い! 好きっ! )」
「はっ……セルジュ……様っ?! あ……お久しぶりでございます! 」
「うん、久しぶり。ネネ様、あのね少し話があって」
「私にですか?! はい、いかが致しましたか?! 」
ギンッと目に力を入れ緊張を逃がそうとするネネリーナに、セルジュは可愛いなぁ……と見つめる。
「……うん。ちょっとゆっくり話したいから今日は僕が送っていくね」
「えっ」
「送っていくね」
「は……はい」
有無も言わせぬセルジュに頷く他ないネネリーナは、焦りながらも返事をした。
「あの……では迎えの馬車に声をかけて参りますので……」
「大丈夫だよ、僕の方からもう言ってるから心配しないで」
「えっ」
再度驚くネネリーナは、恐縮して頭を下げたのだが、セルジュの斜め後ろに立つカインは逃がす気なしで自ら手を打ったのだと哀れみの眼差しをネネリーナに向けていた。
昔から用意周到に包囲網を敷いられているのを知らないネネリーナは、なぜセルジュ様が……と混乱しているが、セルジュはもう手放す気はゼロなのだ。
この夏休みで押しまくり絶対に捕まえると意気込んでいる。
「じゃあ、はい。ネネ様手をどうぞ」
「は……はい……」
帰宅途中の生徒に見えるようにネネリーナをエスコートするセルジュ。
ネネリーナはセルジュの手に触れていると心臓をバクバクさせていて周りを見る余裕が無かった。
そんな姿を見た後、セルジュはネネリーナを気に入っていると周知させる為に周りをゆっくりと眺めて笑みを浮かべてから歩き出した。
手を出したら殺す、と言わんばかりの雰囲気で周りを圧倒させたセルジュは、一瞬で表情を変えてネネリーナを見る。
「…………ふふ、嬉しいな。ネネ様と一緒に帰れるなんて」
「……とても光栄ですわ」
内心ヒィ! と悲鳴を上げながら必死に返事をするネネリーナ。
流石にツンツンは表に出ず、いじらしい侯爵令嬢がそこにいる。
たまたま見たミネルヴァは手を握りしめ、真っ赤な顔でネネリーナを応援していた。
小声で躓いてセルジュ様に抱きついてぇ! と言っているのに気付いたセルジュがイイ顔をしている。
してくれてもいいのに、とちらりとネネリーナを見るが、粗相をしないようにと必死な顔をしていた。
メリルは笑みを浮かべて婚約者の服を軽く引っ張りネネリーナたちがいると教える。
優しい兄らしく、穏やかにメリルと話をする婚約者はにこやかにお似合いだねと言っていた。
「ネネ様どうぞ」
セルジュが用意した馬車に乗り込んだネネリーナは必死に笑顔を浮かべていた。
緊張で意味がわからなくなっていて、座った瞬間に
「まあ、なんて素敵なお手前で」
と、ふわふわな座席を褒めるつもりがよく分からない褒め言葉を繰り出した。
ああぁぁぁ……と思わず顔を覆うネネリーナに、セルジュは笑った。
「ふ……ふふふ……ありがとうネネ様」
「大変……申し訳……」
「ふふ、ネネ様は本当に可愛い」
「かわっ……?! 」
真っ赤な顔のネネリーナを愛おしそうに見つめるセルジュの眼差しに、ドキッ! と心臓が跳ね上がった。
「ネネ様、あのね。話って言うのが……」
少し恥ずかしそうに目を細めて笑うセルジュが、ネネリーナの目を真っ直ぐに見つめて話し出した。
「長期休暇が入るでしょ? もし良かったら一緒にお出かけとかしたいなって思って。せっかくこうして話ができるようになったから……会えないの寂しいのは僕だけかなぁ? 」
「っ……さ……寂しい……ですか」
「うん。いきなり先触れを出して僕の名前があったらびっくりしちゃうかなって思ったから先に話をしたんだ……どうかな? 」
「は…………はははははい」
「ふ……良いってことかな? 」
向かいに座るセルジュがネネリーナの手を取り両手で包み込んだ。
ネネリーナは心の中で悲鳴をあげる。
「嬉しい、楽しみだね」
輝かしい笑みを浮かべて見るセルジュにネネリーナは返事をしたのか記憶に無かった。




