ストーカー日記 11
「…………ああぁぁぁ、やってしまいましたわぁぁぁぁ」
濡れたドレスを脱ぎ捨てて、新しいドレスに袖を通すネネリーナは悲しげに眉尻を下げて絶望した。
まだメイドがいて、いつもならまだツンが全面に出しているのに今日は何だか全てが駄目だと落ち込むネネリーナ。
「ネネリーナ様、さあ、お綺麗ですよ」
「…………そう? 私大丈夫かしら、ねぇ、私嫌われてないわよね? 」
「んんっ……勿論大丈夫でございます。さあ、お客様がお待ちですから行きましょう」
「……えぇ」
シュンとしながら庭へと向かっていくネネリーナ。
その会話をしっかり盗聴していたセルジュは、パタリとソファに倒れて小さく震えていた。
「………………くぅ……可愛い……」
「駄目だ、この王弟殿下……」
ネネリーナはかなり緊張しながらミネルヴァやメリルが待つ庭へと向かうと、穏やかに話すふたりがいた。
すこし声を上げて笑うふたりに、ネネリーナの足が止まる。
「……………………私、不釣り合いじゃないかしら」
にこやかな2人の間に入ったら、あの雰囲気が壊れるのでは……と眉をひそめると、メリルがネネリーナに気付きふわりと笑う。
「ネネ様おかえりなさい」
「ネネリーナ様! はぁぁ、そのドレスも良くお似合いですねぇ! 」
淡いオレンジ色のドレスに着替えたネネリーナにミネルヴァのテンションが上がる。
勿論セルジュのテンションも上がる。
「………………申し訳ないわ、あんな失態をお見せして」
「いいえぇ、ネネ様が可愛いって再確認しました」
「っ……もう! 冗談はよして!! 」
静かに椅子に座って口に手を当てるネネリーナに、2人は変わらず笑みを浮かべた。
それから、普通のお茶会と同じく何処のドレスが良いや、何処のお菓子が美味しいなど当たり障りない会話をした。
そして、年頃だからこその話題、婚約者の話に変わった。
「……おふたりは婚約者っているのかしら? 」
「私はまだいませんよ」
「私は2つ上の幼馴染が婚約者です〜」
ネネリーナの質問に、ミネルヴァは残念そうに答え、メリルはマイペースに紅茶を飲む合間に答えた。
メリルには小さな頃に約束された婚約者がいる。
「まあ! 婚約者がいますのね! ……あの、デートとかします? その、触れ合いとかも?! 」
赤らめた顔で聞いてくるネネリーナに食いつくミネルヴァ。
ふたりでメリルを見ると、キョトンとして首を傾げた。
「小さな頃から遊んでいますから、お互いに男女というより兄弟のようですね。デート……お出かけはしますけど、お友達とのお出かけと余り変わらないような……」
うーん……と悩む素振りのメリルに2人はそうなの? と前のめりに聞いてくる。
メリルの婚約者への対応に、恋に夢見る2人は息を吐き出した。
「じゃあ、今から恋人として見ることは無いの? 」
「うーん……優しいお兄さんみたいな感じで、向こうも妹に接する感じと変わらないのよねぇ。まあ、私のこのお肉を見て女性として愛してとも言えないかしら」
ふにっ……と自分の腹部を摘むメリル。
ネネリーナもミネルヴァもスリムな体型だが、メリルは重厚なお肉が体を作っていた。
周りからもいい笑いものと見られているのを知っているから、メリルはこれ以上を求めない。
「嫌悪感が無ければ、まだいいかしら」
「メリルさま……」
「おふたりは気になる方とかはいないの? 」
にっこり笑って聞いてきたメリルに、ミネルヴァは悩み様子を見せる。
「私は……まだピンと来ていないの」
「…………私は……えぇと……」
「ネネリーナ様、セルジュ様はどうですか?! 」
「えぇ?! あなたっ!! 何を言って……」
セルジュの名前に驚き吃るネネリーナに、ミネルヴァは目をランランとさせる。
メリルも、あら? セルジュ様? とネネリーナを見た。
ふわふわしたメリルはあまり教室内のセルジュとネネリーナを見ていなかった為、関係性がいまいち分かっていない。
「……す、素敵な方だと、思いますわよ?! 明るくて気さくで、可愛らしい1面もありますし! かっこいいですし?! 私の失態にも笑って許して下さいますし! その……とても良い……殿方だと……」
「きゃあ!! ネネリーナ様恋する乙女ですね! 」
「こっ……恋?! そんな……相手は王弟殿下よ?! 烏滸がましいわっ!! 」
「でもネネ様? セルジュ様にはまだ婚約者がいらっしゃらないですし、私たちのデビュタントで婚約者を決めるらしいので……チャンスはまだありますよ」
メリルがふわふわ笑いながら凄いことを言ってる……とネネリーナは愕然とした。
あまりにも手の届かない目上の相手だと思っていたが、ネネリーナは侯爵令嬢。
セルジュの結婚相手として申し分ないのだ。
「…………そんな……そんな……」
真っ赤な頬を両手で抑えて身悶えるネネリーナをミネルヴァはこっちが照れてしまう……と自分の手の甲を抓り顔面崩壊を必死に抑えていた。
「…………大丈夫ですか」
「カイン……僕今日が命日なのかな……ネネ様が……ネネ様が僕の事気に入ってくれてる! かっこいいって、素敵だって!! ネネ様の失態? ネネ様に失態なんてないよ!! 全てはネネ様の魅力なんだから!あぁ! ネネ様の全てが愛おしいよ!!抱きしめたいよ!! どうしよう! 叫びたい!! 」
「やめてください」
○月✕日
今日は2回目の日記を書くよ。
今日まで陰ながら見守り続けたネネ様が、僕を気にしてくれてた!
僕の大好きなネネ様が、かっこいいって思ってくれてた!
もうこれって両思いだよね!僕のお嫁さんになってくれるって事だよね!!
どうしよう、嬉しすぎて今ならザラにキスでも出来そう!!
タビュデントがすごく楽しみだよ!!
まっててね、ちゃんとネネ様を婚約者にするからね!!
結婚を待たせてしまう事だけが心配だけど、王城に部屋を作って一緒に生活したらもう結婚と変わらないよね!
むしろ僕と続き間にすればいいんじゃない? なら夜一緒に寝れるもん!
そうだよ! すぐに準備させよう!!
カインに明日伝えないとな!!
同時刻、カインは理由の分からない寒気に苛まされた。




