小賢しいな直球ストレートで勝負しろよ
「北見くぅん北見くぅん。頼むよぉ。もう君にしか頼めないんだってぇ」
情けなさを煮詰めた喋り方をする天晴に、げんなりとした態度を隠さず舌打ちをついた。
熱心な神の祈りを捧げる信者に見えなくもない姿を晒し、因縁深い“北風”の能力に縋るのだから、相当の理由を引っ提げてきた──のであれば良かった。
「うぜぇな! 何度言えば分かんだよ。テメェのふざけた問題のために“北風”の能力なんか使わねぇ!」
「そこをなんとかしてよぉ。僕の“太陽”の能力じゃてんで駄目だったんだよぉ。むしろ状況が悪化しちゃったぁ……。ご先祖様はこの力で“旅人”の服を脱がせたのにさぁ」
「いつの時代の話だよ。てか服脱がせてどうすんだよ、この犯罪者予備軍が」
へばりついてこようとする天晴を振り払う。うっすらと涙を浮かべている同年の男に、ますます気色悪さが増した。“能力”を馬鹿げたことにしか使おうとしないのは、いつの時代も変わらないのかもしれない。
「第一お前のやってることはストーカー行為だからな? 毎日毎日惚れた女が通勤経路から通りすがるのをじっと見つめやがって。バレてねぇからセーフって問題じゃねぇぞ」
「でも話しかける勇気がないんだよぉ。なんとか振り向いてくれないかなって“太陽”の力で照り付けたら、日傘差しちゃってぇ……ますます顔が見えなくなっちゃったんだぁ」
「いや当然だろ。ただでさえ酷暑が続いてんのによ」
足りない知恵に苛立ちが募り、ポロシャツの上ポケットに忍ばせた煙草に手が伸びる。しかし制するように天晴が手を掴んできた。
「だから北見くんの力で日傘を吹き飛ばしてほしいんだぁ! そしたらあの子の顔だって見えるし、僕が傘を拾ってあの子と会話もできるでしょ? 名案じゃない?」
「だからやらねぇって!」
異常な熱さを持つ手を叩き落とし、口をすぼませて風で天晴を吹き飛ばした。
「強引な能力合戦なんかすんなよな。好きなら好きってストレートに勝負しろよ、天晴」