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銀灰の魔術師リル・リスタは歩きたい  作者: 清水薬子
未知の魔物と魔法解明
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歩み寄る者たち 後編


「アタイはエルフのオーリだ。将来の夢はドレス職人になって、花嫁の婚姻衣装を作る事だよ!」



 赤い髭と髪を編み込んだ幼女は朗らかに笑った。

 ミーシャが視線で訴えかけていている。


 エルフとドワーフの定義って、なんだっけ。


 たしかエルフは背が高くて耳が尖っていて、ドワーフは骨太な骨格をしているらしい。

 だが、それはあくまで一般論だ。



「エルフのオーリさんですね。私はリルといいます。こちらは友だちのミーシャです」



 ミーシャは制服のスカートを摘んで、優雅に淑女の礼をした。

 オーリは恭しく一礼を返す。



「お二人の美しさを飾り立てる衣服を、ぜひともアタイに作らせて欲しい。腕に自信はあるんだ」



 ミーシャと顔を見合わせる。

 ミーシャの目はキラキラしていた。貴族というのは常に誰かにドレスを選ばれる。制服だとオシャレの幅が限られる。

 表情が物語っていた。

 話だけでも、聞いてみたいと。



「どんな衣装なのか、お話を聞いてもいいですか?」



 オーリは満面の笑みで快諾し、鞄から資料を取り出す。

 職人的な気質が現れているのか、服装のテーマごとに冊子を分けて紐で結んでいる。



「これはアタイが今まで作ってきた工房や醸造場の制服なんだけど、機能性を損なう事なく美しい見た目やスタイリッシュさを高めるデザインが最も得意で」



 オーリの描いた画集を眺める。

 確かにその作業場で必要な保護具を外す事なく、制服のデザインを引き立てる要素として活用している。



「ねえ、リル。アタシたちが作ろうとしている補助具について、話を聞いてみたらどうかしら?」


「なるほど。確かに、これほどのセンスの持ち主なら、何か良いアイディアが貰えるかも」



 私は手に持っていた歩行補助具の草案をオーリに見せる。



「私たちも博覧会でこういう魔道具を作ろうとしているんです。歩行や動作を補助するもので、関節部を覆う構造になってしまうので、制服の上から着用するのがかなり難しくて……」


「なるほど、なるほど」



 オーリは私の渡した資料を眺め、紙を新たに取り出して鉛筆で描き始める。



「制服の上から着用するのは確実に無理だね。女子のスカートなら問題はないけど、ズボンの場合は確実に無理だ。なら、その補助具を服にしてしまえばいい」



 鉛筆の黒鉛が、人の形を描き上げ、その上から服を纏わせる。脚部を大胆に露出したデザインだ。



「座っていても邪魔にならないように、裾に切り込みを入れて短めに、このデザインなら燕尾服のジャケットみたいにして、立った時の姿が映える事を意識するなら立襟にして……」



 オーリは補助具の大まかな形を描き込み、最後にお洒落な帽子を頭に被せてデザインを仕上げ、端にサインを書いた。



「ざっとこんなもんだね。これでよければ、詳細を詰めていくけど、どうだい?」



 覗き込んでいたミーシャが目を輝かせる。

 どうやら数々のドレスを見てきた彼女の目から見ても、オーリのデザインは洗練されているらしい。



「素晴らしいデザインです。良ければ、一緒に博覧会を盛り上げましょう」



 私の差し出した手をオーリは握った。

 ミーシャとも握手を交わす。



「あ、あの〜……」



 オーリとミーシャと私で盛り上がっていると、先ほど他に話を聞きに行ったはずのアグノールがいた。



「もしかして、もう枠は埋まったのかな?」



 眉を八の字にしながら、アグノールは恐る恐る話しかけてきた。オーリを気にしているのか、チラチラと見ている。



「いえ、鍛治職人はまだ見つかっていませんよ」



 私が気を利かせてまだ枠に空きはあるとアピールすると、アグノールは顔を輝かせて近寄ってきた。



「先ほどの補助具なんだけど、もし良かったら僕に作らせて欲しいな」



 もちろん歓迎するよ、というよりも早く、オーリが口を開いた。



「おいおい、エルフを鍛治職人として採用するつもりかい?」



 私とミーシャが気にして言葉にしなかった一言を、オーリは何の躊躇いもなく口にした。

 アグノールが目を開く。



「えっと、僕はどこからどう見てもドワーフだよ」


「いや、エルフだろ」


「違うよ。ドワーフの女だよ」


「いや、エルフの男だって。エルフの里で育ったアタイが言うんだから間違いない」



 二人は少しずつヒートアップしていく。

 まずい。そう思った瞬間に、アグノールが声を荒げた。



「そういう君だって、ドワーフの女の子じゃないか!」



 オーリの顔が真っ赤に染まる。

 どうやら、二人はお互いの地雷を踏み抜いたようだ。

 ミーシャの頬に冷や汗が伝い落ちるのを視界の端で確認する。

 どうする?

 いきなり喧嘩が始まってしまうのは避けたい……!



「あっ! 私、王国から出た事がないんです! お二人の出身地のお話、聞いてみたいな! ね、ミーシャもそう思うよね!」


「えっ、あっ、そ、そうね! 聞いてみたいわ!」



 敢えて空気を読まずに、会話の流れを無理やり変える。

 アグノールとオーリは、お互いに睨むのをやめなかったが、喧嘩を続けるつもりはなかったらしい。


 ひとまず、お互いの話を聞けば、なんらかの誤解が発覚して仲が改善するかもしれない。

 そんな淡い期待を込め、お喋りの場を設ける事に成功したのだった。

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