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銀灰の魔術師リル・リスタは歩きたい  作者: 清水薬子
未知の魔物と魔法解明
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風紀改善に向けて


 フィオナ姫に連れられ、いくつか廊下を曲がり、あまり立ち寄らない準備棟に入る。

 ここは授業用の備品を管理する場で、学園側の雇った警備員が常に目を光らせ、出入りの際に名前が記録される。


 案内されたのは生徒会室。

 生徒会室というが、長テーブルが部屋のほとんどを占め、壁に設置された棚にはびっしりと紙の資料や丸められたポスターが入っている。


 テーブルの上に広げたポスターにペンで書き込んでいた生徒が顔を上げる。

 見覚えのある顔だ。

 喧嘩の仲裁を求めてきた生徒会執行部の一人。



「あ、リルさん、先日はどうも」


「あなたは生徒会執行部の……ええと……」


「プルジェスと申します。『基礎学』クラスの『魔術学派』です。生徒会の掲示板作成や、庶務を担当しています」



 茶髪のお下げを揺らし、プルジェスは小さく頭を下げる。

 年齢はおよそ十八ほどだろうか。

 姉のルチアよりも大人びていて、やや幸薄そうな雰囲気がする。


 プルジェスにフィオナ姫が話しかける。



「リルとお話がしたいのですが、椅子を借りても?」


「どうぞどうぞ。ようやく作業が終わったところなので」



 プルジェスがポスターを丸める。

 どうやら学園内の記事を作成していたようだ。

 食堂のメニューや生徒の活躍などを纏めた、ごくありふれた平和な内容。



「それで、ベルモンド教授はどういったものが好みなのでしょうか。社交界にも姿を見せないので、趣味嗜好がさっぱり分からないのです」


「……ベルモンド教授に媚び諂うのはおすすめしません。それよりも、あの人が喜びそうな提案を持ちかける方が、興味を引く事ができるでしょう」


「予算でしょうか」


「姫の一存で学園の予算が動かせるのですか?」



 フィオナ姫は苦笑いを浮かべる。

 学園長を祖父に、国王を父に持つ彼女が訴えれば、予算が融通される可能性はある。だが、それは諸刃の剣だ。



「私の権限はあくまで学園内でしか通用しません。生徒会長としての権力内に留まります」


「なら、その権力を使って、イベントを起こすんです」



 前世の記憶を思い出す。

 生徒会の執行部だった学生の頃、校内のイベント管理を主な業務としてこなしていた。後から知ったが、他の学校と比べて独特なシステムだったらしいが、その経験が役に立ちそうだ。



「これまでの学園内で行われてきたイベントは『魔法主義』をターゲットとしたものが多かった。その事にベルモンド教授をはじめとして、活躍の場が限られた生徒たちは不満を抱いています。なので、『魔術学派』をメインとしたイベントを開催するのです」



 私の言葉にフィオナ姫は目を瞬かせる。

 少し考え込んだ末、彼女は問いかけた。



「具体的には、何を?」


「博覧会────エクスポ、魔法・魔術以外による作成物の展示を一つのイベントとして開催するんです」


「……それは、イベントとして成り立つのですか?」


「いくつかの部門に分け、優勝者に賞品を渡す形で募集要項を作れば参加者は必ず現れます」



 フィオナ姫は私の顔を見て、それから悪どい笑みを浮かべた。



「ああ、なるほど。その賞品に学園の施設の利用許可を吊せば、必然的に生徒たちは本気になりますね」


「ものづくりに必要な財力・コミュニケーション能力・スケジュール管理を全て持つ生徒はいません。優勝する為には、必ず派閥やクラスを越えて協力する必要があります」


「ふふ、それなら私の手の届く範囲で融通できますわ」



 上から目線で仲良くしろと訴えても、生徒たちは反抗する。

 ならば、そうなるように環境を整える。

 自主性に訴えるよりも、手を取り合う方が選択肢は広がるのだと教えていくしかないのだ。



「ルールを詰める必要があるという理由であれば、魔術の権威たるベルモンド教授との面会を希望してもなんらおかしくはありません。あの人も話を聞きたがるでしょう」



 ベルモンド教授のワインレッドの瞳を思い出す。

 会議ばかりで退屈だと語っていたあの人なら、間違いなくこのイベントに食いつくはずだ。

 そして、そのイベントの為に校内の治安を取り戻す必要があると知れば率先して動くだろう。



「リル、貴女って本当に面白いですね。あの皇太子が気にかけるのも分かりますわ」


「エルサリオン殿下のことでしょうか」


「ええ。あの御方、お茶会でずっと貴女の事ばかり話すんです。『リルと魔物討伐してる方が有意義だ』って」


「わお……」



 他人の口から告げられる友だちの意外な一面。

 彼もお茶会に参加するらしい。

 たまにお茶会をサボっていると聞いていたから、てっきり貴族の付き合いも抜け出しているのかと思った。



「招待状もなく現れ、主催者の魔法を躱し、お茶を一杯啜ると消えてしまう謎のハイエルフとして有名ですよ、彼は」


「な、なるほど。それはとても、愉快ですね」



 ただの不審者じゃないか、というツッコミは飲み込んだ。

 ひとまず今後の方向性と詳細を詰め、ベルモンド教授に話を持ち込む。


 ベルモンド教授が賛同してくれる要素を集めたが、果たして上手く行くだろうか。

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