最悪だ。
「『わからないことぶっ飛ばして、君と僕の弱い所も隠しちゃえばバレないさ 誰が君を憎もうと、僕だけは君のそばで笑うよ』!!…………っふう。」
曲のラストまで歌いきり、息を吐く。
スマホの時間表示は昼三時。単純計算で六時間くらいこもっていたことになる。
そういえば腹も減った気がする.一度意識してしまうと、途端に空腹が気になってきた。
「…帰るか、そろそろ…」
扉のノブに手をかけようとすると、突然がちゃっと扉が向こう側にずれる。そのせいで手が宙を切り、結果的にその手がその人の持っていたスマホにぶつかり、叩き落としてしまう。
「すいませんっ!」
「すいません、部屋間違……」
部屋を間違えたらしい誰かが突然台詞を切る。
…それに、嫌な予感がした。……この声、聞いたことあるわ。
「要君っ…なんでここに??!」
「……カナメッテダレデショウワタクシデハゴザイマセン…」
しらをきってみた。
「それで誤魔化されたら僕は大分馬鹿じゃぁないかい?要君?」
「で、ですよねー。」
最悪だ。最悪中の、最悪だ。
歌ってるとこ、知り合いに見られた。
「ああああぁ゛ぁ゛……」
すっげえ恥ずい。てかさっき歌ってたの地味に恋愛系だったりする。
あまりの衝撃に、脱力し、しゃがみ込む。「?」
ふと、何かが地面で光った。先輩のスマホだった。そういやさっき落としちまったんだった。
俺のせいだし、と拾おうとして…表示されていた一文に、目が止まった。
『歌い手グループ募集。本気でやれる人しか受け付けません …すばる」
ん?!?!
ちょっと待て、うん。……ん?!?!?!
「あっごめんそれ返してくれないか?」「……蓮先輩…って、…………もしかして、『すばる』…さん?」
すばる、というのは昨日その歌い手グループの募集をかけていた人で…俺がコメントした時対応してくれた人だった。
ちなみに、歌が上手いか(チャットでは)わからないので、「歌ってみた」一本送ってくれと言われて、送った
「いや、違うよ?僕別に歌い手グループ作ろうなんてしてないよ?」
「嘘つくの下手くそか。」
思わず突っ込んだ。突っ込んでから、俺もだと気づいたが、その時にはもう、先輩は顔を真っ赤にして目を逸らした。
それが肯定のようなものだった。
つまり俺は、「すばる」さん.…蓮先輩に「歌ってみた」を聞かれたってことで、つまり。
部屋間違えられなくてもとっくにバレてんじゃねえかっ!!!あまりの恥ずかしさに、地面に沈みたくなった。
「………場所、変えようか。」
「…ですね。」