第四話 気づかれ気づく
「星影、お前の目には何が見えているんだ」
急に葉山が言ってきた言葉、それに俺は驚きが出ていたがそれを悟られないようにいつもどおりを保って
「急にどうしたんだ。別になにか変なものが写っていたとかそんなんないぞ」
俺がそう答えるが葉山は納得せずに
「お前は明らかになにか普通の人には見えない何かが見えているようだったぞ」
的確な指摘をされて少し冷や汗が出ていた。
「隠していることはあるが今は話せない。いずれ話せるようになったら話すよ」
僕はそう言い残し教室を逃げるように出ていった。
校舎を出てグラウンドを走り抜けて校門を向けたところで息が切れて足が止まった。
全力で走って来ていた。
別にあんなに必死に逃げるようにする必要はなかったのに。
僕は胸にある痛みに倒れそうになった。
その痛みの原因はわかっていた。
昔のトラウマが遠く離れたこの地でも自分を蝕んでいた。
自分のこの力が他に人にばれば普通の生活が崩れていくような気がしていた。
怖かった。憧れていた普通の生活が壊れることが。
怖かった。またあの時と同じようにいじめられることが
怖かった。また僕が自分を嫌いになることが。
胸の痛みを我慢しながら近くの公園まで歩いて行った。
そこにあったベンチに座り、夕焼けに赤く染まる空を見上げながら一人考え続けていた。
考えれば考えるほどに怖かった。
今まで仲良くしてくれていた人が自分を忌み嫌うようになることが。
そうしていると不意に声をかけてきた人がいた。
「あの、何をしてるんですか」
その声の方を見るとそこには月白天が立っていた。
僕は驚いて距離をとろうとしたが彼女からさっき感じたオーラはなかった。
むしろ今の彼女からは包み込むような優しい雰囲気というかオーラというかそんな感じがした。
学校の彼女とは全く別人の様だった。
「学校の帰りだよ。月白こそなにしてるの」
僕が聞き返すと
「家のやることが終わって重荷が下りたから少し散歩してるの」
「重荷って何してるの」
僕の質問に彼女は少し暗い顔をして
「うちあのお屋敷なの。それでうちって代々神事をしてる家系なの。そして私は今の代の巫女なの。だから月に一度お祈りの日があるの」
屋敷の方を見ながら話す彼女の姿は俺にはまるで自分の感情を隠すように感じたのは僕の気のせいだったのだろうか。
近くの自販機で二つカフェオレを買ってベンチに座り日が落ちて辺りが暗くなる頃まで喋っていた。
そうしていた僕は彼女の印象が全く別のものになっていた。
今までの彼女の印象はいつも微笑んでいたけどそれは作り笑いの様にも感じられてみんな彼女とはどこか距離を感じていた。
彼女の本心は全く違うところにあるような感じだった。
でも今の彼女は全く別人で自然な笑い方で自分を全てさらけ出しているようだった。
でも彼女は時折暗い顔をしていた。
僕はそれが少し気になったがそのことに関して聞くことはできなかった。
暗くなったからと彼女は帰った。
「話聞いてくれてありがと。カフェラテご馳走様」
そう言って彼女は僕に手を振って帰っていった。
日が沈んですっかり暗くなり灯りは公園の中の照明一つで少し暗いベンチに僕は一人で残っていた。
いつの間にか胸の痛みは消えていた。
それでも怖いという気持ちは消えていなかった。
僕はカフェラテを飲み干して公園を出た。
明日からどう接しようか、このことをどう話せばいいか悩みは大きかったがそれでも学校を出た時よりは帰る足取りは軽いものだった。