第十五話 現れた男
目を覚ました時、私はいつも寝ている寝床に横になっていた。
寝ぼけて今どういう状態なのかが曖昧だ。
そうして少しずつ覚醒してきて意識がはっきりとしてきた。
そしてしっかりと目を覚ましたところで寝る前までの記憶が蘇ってきた。
神殿に立ち寄っていたこと、そこに急に龍が現れたこと、その龍に私が狙われていたこと、そしてその龍を一筋の光が助けてくれたこと。
そこまで思い出したところでハッとして部屋を飛び出した。
龍が現れた時、外からは悲鳴が聞こえてきていた。色々なものが壊れる音もした。
私はその現状を確かめるために神殿の方へと向かっていった。
向かう途中、部屋を経由していくのでその部屋の扉を開けるとそこから一気に景色が変わった。
そこには砕けた建物とその残骸、踏み荒らされた庭、そして多くの負傷者が簡易的に作られたテントの中にいた。
それを見た私の足は止まった。震えていた。
私に気づいた使用人の一人がこちらに向かってきた。
「お嬢さま、大丈夫ですか。どこかお怪我でもされましたか」
使用人がそう言いながら私を心配そうにのぞき込んできたが私は
「大丈夫です。ごめんなさい、この光景を見て少し怖くて震えただけですよ」
私がそう答えたのを聞いて使用人は安堵の様子を見せていた。
そして使用人は何かを思い出したようにハッとして
「そういえばお嬢様にお客様がいらしていましたよ。当主様の大広間にてお待ちしているはずですのでそちらに行かれてみてください」
急に使用人から出て来た私のお客さんだが時にこれといって思いつく人は出てこなかった。
とりあえず私は使用人に
「ありがとうございます。後で行ってみます」
と、だけ答えて止まっていた足を動かして神殿へと向かっていった。
神殿に着いてまず目に入ってきたのは扉が砕かれていて中が丸見えになっている御神体だった。
そしてその周りの廊下や庭には瓦礫が散乱していた。
私は散乱している瓦礫に気をつけながら神殿の中へと入っていった。
そこは私が隠れているときとほとんど変わることのない神殿内部があった。
唯一違うことといえば、天井に円形状の直径二メートルはある穴が空いていること、そして神様の気配が御神体からも完全に消えていることだった。
「神様、いないんですか」
そう呼びかける私の声にもどこからも反応が感じられなかった。
今までになかったことで戸惑いが隠せない私のところに
「今あんまり一人で動かないほうがいいよ」
後ろから声をかけてくる人がいた。
その声の方を振り返ると一人の黒い着物を着た男がいた。
風格は何十年も生きているような強さを感じさせたが、それでも感じた霊気は十数年しか生きていないことがなんとなくわかった。
その男の霊気からは神に近しい気配を感じた。どこかで感じたことのある気配を。
「あなたは一体誰なんですか」
私の警戒心をむき出しにした声にその男は少し殺した笑いを出しつつ
「そう警戒してくれるな。そのことについても話すから一緒に来てくれ」
そう言って男は神殿から大広間に向かっていった。
私は警戒心が解けていなかったが周りのその男に対する態度から少なくとも危険な人ではないと理解し男の後ろについて大広間へと向かっていった。