第十話 そこから見た屋敷の姿
週末になり僕たちは予定通り山へと登っていた。
天気は快晴となり、けっこう暑い。
汗を流しながら山道を登っていくとしばらくして開けた場所に出た。
ここまではけもの道のような道だけがあり、人の手が入った後が全くなかった。
だがこの場所は用意されたベンチに手入れされた木々、しっかりとした鉄柵、自販機などここが展望台であると言えるしっかりと整備された場所だった。
そしてその展望台のような場所からは僕たちが住んでいる町が一望出来ていた。
そして目的としていた屋敷も全貌がはっきりと見えていた。
「え、」
僕はその屋敷の姿を見てあることに気づいた。
そしてそのことに葉山も気づいた。
「おいあれはどういうことだよ。近くから見た時と全然違うじゃねえか」
そこから見えた屋敷は近くで、塀越しに見た時と全く姿が違った。
本来ならば神社の境内のような建物が一つ、そしてそれを隠すようにして五個程度の建物があったはずだ。
が、そこにそんな建物はなく、一つの大きな五重の塔のような建物を中心にしてそれを囲うように平安時代にありそうな建物が四角く建てられていた。
持ってきた写真と比べてみると一目瞭然だった。
「これは予想外すぎるぞ。どうしたらこんなことが起きるんだよ」
葉山が驚愕の顔を見せていた。
考えられる可能性は多くても二つ。
「可能性として考えられるのは偶然光の入り方や建物の並びなんかの要因があって見えない部分があった可能性」
僕がそういうが
「結構な時間をかけて調べたんだ。その可能性は薄いだろ。お前が考えるもう一つの可能性って龍に関わることか」
葉山がそれを否定してもう一つの可能性を聞いてきた。
「まあそうだね。僕もこっちのほうが可能性が高いとは思ってる。それは何かしらの結界が作用して近くからは偽った姿が見えていたのかもしれない」
僕が考える可能性に葉山は目を閉じて考えていた。
「それが可能性としてあったとしたらそれはこの場所があの屋敷に、龍に係る場所の可能性があるってことだぞ。こんな離れた場所にそんなことがあるのか」
葉山の言うことには一理ある。
この場所は町からここまでバスで三十分ほど乗って来る距離がある。
わざわざこんな離れた場所にしなくとも町にはもっといい場所がたくさんある。
「とするとここにしなければいけない理由があったんだと思う」
僕が考えたことを口に出し、葉山に伝えると
「まあそう考えるのが妥当かな」
と、返してきた。
二人の考えは一致し、そこから二人で手分けして周辺の探索を行った。
あの屋敷にまつわるものがないか、龍に関わる何かがないかなどを調べて回った。
そうして僕は木々の間を抜けているといつの間にか木々のない開けた場所に出ていた。
そこは不思議な空間だった。
広さはうまくわからないほどに平坦に広がっていた。
木々が囲むようにしてこの場所を隔てていた。
僕がそこに感じたのはただ、ただ不思議で、どこか知っているようで、体がすくむ感覚だった。
その空間には一つ、一軒家があった。
今の世界なら当たり前にある瓦屋根の木造建築のような建物だ。
でも今ここにいる僕にとってはどうしようもないほどに異質で不思議なものに感じられた。
あの建物の中にはなにか調べていることの手がかりがある。
そう直感的にわかり、そこに近づこうとした。
そして一歩を踏み出した瞬間、その恐怖は僕の体を駆け巡り、それ以上近づかせようとしなかった。
そしてその感覚は始めて感じた感覚ではないと感じた。
だがそれを考え、思い出そうとしてもうまく思い出せない。
少し考え、冷静さを取り戻した僕は一度葉山に電話をかけようとした。
携帯を取り出すためにバックを漁ろうとして僕は後ろのこの場所まで来た道がなくなっていることに気づいた。
気づき、そこで葉山に連絡を取ることを諦めた。
なぜならここが完全に僕達が生きている世界とは隔絶された場所であることがわかったからだ。
そして僕に残された道は一つしかなかった。
「あの家を探索するしかないのか」
この空間にたった一つだけある家を見ながらそう呟いた。
そうして恐怖と体のすくみを感じながらゆっくりと一歩ずつその家へと向かっていった。