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04 普通の幽霊の暮らし方

 お菊さんが墓場からふわふわと街中に彷徨い出たので、俺も後ろについていく。

 彼女の足取りに迷いはなく、どこかに向かっているようだ。


「言っとくけどね、アタシはマリアちゃんの助け方わかんないよ! なんせ手も足も出ないからね!!」

「役に立たないな」

「こらっ!! 言葉に気をつけな!! 大丈夫!! 大船に乗ったつもりでいなって言ったろ!! アタシにゃ分からないけどね、知ってそうな連中に聞けばいい!! なんせアタシゃ顔が広いからね!!」

「ほう。察するに、幽霊はそれなりの数がいるようだが」


 幽霊は生者と会話できない。しかし幽霊同士が会話できるのは今この会話で証明されている。『知ってそうな連中に聞く』はつまり『知り合いの幽霊に聞く』という意味だろう。単純に霊と話せる交霊能力者と知り合いなのかも知れないが。


 俺がある程度の確信をもって尋ねると、お菊さんは駅方面の雑踏をまっすぐすり抜け突き抜け進みながら軽く振り返り、頷いた。


「そうさね!! ええと、ひい、ふう、みい、よぉ……んん、アタシの知り合いは五十人ぐらいかねえ!!」

「そんなに」


 いや『それだけ』か。彼女は言葉の端々から江戸時代の死人だというのが伺える。江戸の終わり頃に死んだとしても150年は幽霊をやっている計算になる。150年で50人。3年に1人のペースだ。

 この大都市の年間死者数を思えば新しい幽霊の発生率は極めて低いと言えるだろう。


「今からその知り合いのところへ?」

「そうだよ!!」

「教会? それともお寺? 神社とか?」

「そんな退屈なとこよう行かん!! 墓参りかお参りの時ぐらいさね!! みんな学校とか駅とかにいるよ!!」


 幽霊がいる学校、駅。学校の怪談や都市伝説でありがちだ。

 なるほど幽霊は普通そういうところにいるのか。そのあたりは探していなかった。


「最近じゃネットカフェに入り浸る子も多いよ!!」

「…………?」

「今から行くのはキャバクラだけどね!!」


 それは分からない。幽霊とネットカフェ、キャバクラにどんな関係が?

 思った事をそのまま尋ねると、お菊さんは我が意を得たりと頷いた


「人が集まるとこで趣味の合うオキニの人間探してついてくのさ!! そうすりゃ長い長い余生も退屈しないだろ!!?」

「ああ、そういう」


 道すがらお菊さんは一般的な幽霊の過ごし方について教えてくれた。

 人は死ぬとたまに幽霊になる。幽霊は寿命がなく、歳を取らず、病気にもならず、眠らない。とにかく暇だ。死んですぐは家族や友達を気にするが、段々疎遠になっていき、退屈しない好みの面白そうな人間にとっかえひっかえ取り憑いて暇を潰すようになるのがセオリーなのだとか。

 お笑い芸人やタレント、話し好きのお喋り、テレビやネット・漫画漬けの毎日を送っているニートなどが幽霊スタンダードな人気憑依先なのだとか。


「プライベートの覗き見は悪趣味だ」

「まあまあ、細かい事いいなさんな!! 絶対気付かれないなら覗いてないのとおんなじさ!! なんも悪い事なんてない!!」

「幽霊が人に取り憑くと……なんだったか。れ、霊、霊害? 霊障? 霊病? そういうのが出て苦しいという話が」

「ないよ!! そんなもんは!! そういうのできる霊もいるって噂あるけどね!! アタシは見た事ないね!! さあここだよ!! 入んな!!」


 お菊さんはそう叫んで、まだ夕方だというのにもう派手なネオン看板をビカビカ光らせているキャバクラの壁をすり抜けて中に入っていった。俺も玄関を箒で掃除している店員さんに会釈して入口をすり抜けて入り、後に続く。


 中に入ると開店したばかりの店内に壮年の男性の幽霊がいた。毛髪の後退が進んでいると年齢の推定が楽で良い。

 お菊さんは俺に手招きして壮年の男性を紹介すると、他の知り合いに当たってみるからこのおじさんと話してな、と叫び、壁をすり抜け去っていった。


 笑顔でお菊さんを見送ったおじさんは表情を消し、俺を睨みドスの利いた声ですごむ。


「おい小僧。お菊さんに色目使うなよ。調子に乗るな」

「?」

「とぼけた顔しやがって。いいか、あの人に笑いかけられると男は誰でものぼせ上がって勘違いする。でも俺には特別優しいんだ。お前の出る幕はねぇ。大人しくしてろ」

「……なるほど? 察するに彼女は『美しい』あるいは『可愛い』のか」

「あ? 見りゃわかるだろ」

「分からない。しかしそういう評価がされているなら、そうなんだろう。教えてくれてありがとう」


 俺は納得し、また一つ脳内の「優れた容姿データフォルダ」を増やした。参照データが増えるほど美人/美少女という概念の解析が進む。良い事だ。

 一人で頷いて納得していると、おじさんは毒気を抜かれたようだった。


「ああ、まあ……分かったんならいいんだ。分かったんならな。うん。それで……そう。マリヤとかいう彼女のために情報集めてるんだって?」

「マリアだ」

「ああそうだった。ンー、お菊さんほどじゃあないが、俺もまあまあ古株だ。話してやれる事はある。そうだなあ、とりあえず一つ、注意しとけ。最近この街は物騒になってきてる」

「物騒というと」


 お菊さんから幽霊は無敵で無害という話を聞いたばかりだ。幽霊に物騒な事なんてあるのだろうか?

 首を傾げると、おじさんは声を潜めて恐ろしそうに言った。


「実はな、この街に退魔師が来たんじゃないかってウワサがあるんだ」

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[良い点] 清明、お菊さん、おじさんの例から考えられる幽霊の行動傾向が一般幽霊のノンリスクストーカーと一致してて面白い。 [気になる点] 清明はお菊さんが最初の幽霊として計算してるけど、お菊さんが清明…
[気になる点] 幽霊になってもモテないムーブは悲しい [一言] 美醜を他人の感覚に任せるってのは主人公情緒欠落しすぎ問題な気が
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