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13 良かった、闇落ち聖女なんていなかったんだ

 俺の地元出身の俳優、夜羽竣は有名人だ。

 彼が登場する大河ドラマは俺も見たが、まるで本当にその時代その立場の人間であるかのような真に迫った演技に関心したものだった。更に「かっこいい」に分類する顔の造形をしているらしく、同僚の(特に女性社員の)話題に頻繁に登り褒めそやされていたから、そういった部分も含めても大した人物に違いない。


 その夜羽が地元の駅前で白昼堂々心霊現象に遭ったという。

 彼は突然苦しみだし、何かを振り払おうともがきながら衰弱していき、しまいには失神してしまった。そして駅の監視カメラや野次馬のカメラは彼に取り憑こうとする悪霊の姿を捉えたわけだ。


 真昼間、衆人環視、証言が多く証拠映像もある。格好のネタで被害者があの(、、)夜羽竣とくればニュースにならないはずもなく。

 彼には悪いがおかげで悪霊の行方が知れた。


 巴はニュースを見て心配そうにしていた。

 彼女が所属する事務所は夜羽の事務所の系列で、撮影の仕事で顔を合わせた事もあるという。全く知らない仲でもない。

 顔を知っている程度の相手をを全て気にかけるのは注意力の分散や心労の蓄積の観点から言って健全でないと思うが、巴の意見は違うらしい。


「こんな理由で帰省したくなかったけど」


 と言いながら巴は久しぶりに地元に帰る事に決めた。当然、俺もついていく。

 巴が追う悪霊は地元に現れ、俺が助けなければならない少女も同じ場所にいる。目的地は一致した。偶然の一致なのか必然の一致なのかは分からないが。

 精神的に追い詰められ不安定な状態にあるマリアが悪霊の噂を聞いてもっと変な方向に行きはしないかが一番心配だ。


 巴は律儀にも俺の分の新幹線のチケットも買い、一路地元へ向かった。走るよりも新幹線を使った方がちょっとだけ早いらしい。

 新幹線の方がちょっとだけ早いなら仕方ない。モデル業ではなくスポーツの道を選んでいたら目を疑う世界新記録が量産されていたと思うとちょっとだけもったいない。


 地元の駅に到着すると「関係者以外立ち入り禁止」とプリントされたテープで駅前の一角が隔離されていた。通行人が立ち止まって怖々と、あるいは面白そうにはしゃいで写真を撮っているが、警察はハケている。

 俺は難しい顔をして現場を睨んでいる巴に声をかけた。


「何か感じるか? 悪霊の痕跡を? 霊感があるんだろう?」

「うーん。私は警察犬でいうと走ったり噛みついたりするの得意だけど臭いを辿るの苦手なタイプだから」


 そう言いながら鼻をひくつかせ、しゃがみこんで地面の匂いを嗅ぎ始める。

 が、すぐに首を横に振って立ち上がった。


「ダメだぁ、わかんないや。くっそう、鼻も鍛えてればな」

「鍛えてどうにかなるものではないだろ」

「なるよ?」

「なるか?」


 ならないだろう。いくら巴でも流石に……いやでもただの鍛錬であり得ない筋肉を手に入れた実績がある。

 残念ながら現場から得られる手がかりはない。被害者の夜羽から話を聞けるだろうか。巴と彼は一応顔見知りではあるし、聞けない事もなさそうだ。

 それともまた東京でやったような虱潰しの捜索網を敷くか? 悪霊が世界各地で狩場を点々とする方針を取るなら無限に続く鼬ごっこだ。せっかく再捕捉したこの機会を活かしたい。なんとかして追い詰めたい。


 巴はひとまず心霊現象現場の検証を保留にして実家に帰り、家族に顔見せをした。

 家族から「幼馴染の清明くんが事故で亡くなって……」という話を聞く巴はその話している横に漂う俺をチラチラ見ながら曖昧に相槌を打っていた。


「お線香の一つでも上げに行ってあげなさい。きっと喜ぶわ」

「喜ぶかなあ?」


 母親に言われ、巴が疑わしそうに俺を見る。


「いや、俺は喜ばない」

「喜ばないと思うけど」

「そんな冷たい事言わないで」

「だって本人が」

「ん?」

「あ、いやなんでも……」


 巴は言葉を濁し、これもご近所付き合いだから、という言葉に押され線香を上げに行く事になった。

 息子の幼馴染の来訪を俺の両親は歓迎したが、迂闊に俺との思い出話をして涙腺を破壊してしまい、気まずくなった巴はひとしきり慰めてからそそくさと家を出た。その足で悪霊の探索に行こうとする巴を引き留め、マリアの様子を見てもらうよう頼む。


「彼女の家はここから近い。少し様子を見て話してくれるだけでいいんだ、頼めないか? 巴がいてくれれば俺の言葉が彼女に伝わる。巴がほんの数分時間を割いて俺の言葉を伝えるだけで救われるかも知れないんだ」

「んん、そうかな? 悪霊退治の依頼を受けてるのに別の依頼に手を出すのは……でも数分ぐらいなら……んー」

「もちろん悪霊の危険性は分かる。放置して別の案件に取りかかるわけにもいかない。それには同意する。また一人憑き殺されそうになったしな。でも少しだけだ、頼むよ。悪霊は放置できない、しかし彼女も放置できない」

「まあそうだね。ちょっとだけだよ? 悪霊優先だから」


 少し悩んで了承してくれた巴はマリアのいる西暮家を訪ねた。

 だが、マリアは不在だった。少なくとも応対に出た母親はそう言って追い返そうとしてくる。当然だろう。知り合いでもなんでもない赤の他人だ。

 面識のない不意の訪問者に警戒しているマリア母に巴は馬鹿正直に「東京の事務所でモデルをやっていて~」と自己紹介した。

 悪霊退治に来た物理系霊能者ですと言うよりは余程マシではあるものの、これで警戒が解けるはずもない。正直過ぎるのも考えものだ。

 だが、警戒は解けた。なぜか少し焦った様子でそわそわと言い訳がましく弁解する。


「言っておきますけどね、ウチの娘が夜羽さんを連れ回しているんじゃありませんからね。夜羽さんの方から娘の身辺警護は任せて欲しいって言ってきたんですよ」

「え? すみません、何の話ですか?」

「え? 芸能事務所の方なんでしょう?」

「そうですけど」

「ですよね? とにかく、夜羽さんの連絡先は知りません。娘と一緒にいるみたいですけど、あの子ったらいっつもスマホの電源切ってて。だから夜羽さんについて聞かれても困ります」

「…………」


 キッパリ言われ、困惑しきった巴が目線で俺に助けを求めてくる。

 これは妙な話になってきた。

 関係ないはずの俺と巴の事件に予想外の繋がりが見えてきた。これは一体どういう事なのか。

 俺が首を横に振ると、巴は慎重に言葉を選んで事のあらましを尋ねた。


 マリア母の話によると、マリアはある日突然夜羽竣を家に連れてきて、彼と一緒に旅行に行くと言い出したらしい。夜羽は誠実に旅の最中の娘さんの警護と世話は任せて欲しいと言い、マリアも両親と一緒ではなく彼と一緒がいいのだと主張した。


 娘は私に似て可愛らしい、夜羽に誑かされているのではないか。身の安全を保障するから任せろなんて信用できない、間違いが起きたらどう責任を取るんだ……心配の種は尽きない。

 結構な口論になったものの、結局はトラック事故以来自殺するのではというぐらい暗かった娘の気分が変わるなら、という事で最後には渋々旅行を認めた。


 以来、マリアは一カ月と少しの間傷心旅行をしているのだという。夜羽もそれに付き合い、芸能活動を休みがちだ。

 つまりマリア母は夜羽が所属する事務所が夜羽を連れ回しているマリアに苦情を言いに来たのだと勘違いしたらしい。


「娘は近いうちに帰ると言っていましたし、夜羽さんもそろそろ復帰されると思いますよ。娘は時々連絡をくれますし、旅行先でできたっていう新しい友達の話なんかも……でもあれは友達というより……」

「友達というより?」


 何かが引っかかったのか、言葉を途切れさせたマリア母に巴が促す。


「いえ、なんでも。気のせいだと思います。とにかく夜羽さんはお元気そうですし、今何をされているのか、どこにいらっしゃるのか知りません。例の幽霊騒ぎがあったでしょう? そちらとしても心配でしょうけど、心配なのは私も同じです。むしろお話を聞かせて欲しいのはこっちですよ。実績も立場もある立派な大人が学生を旅行に連れ回すなんて、本当どうなってるんですか?」

「それは確かに。会った時に言っておきます。では私はこれで」


 雲行きが怪しくなってきたのを敏感に嗅ぎ取った巴は、少し不審そうなマリア母に見送られそそくさと退散した。

 道を歩きながら巴は考え考え言う。


「変な事になってるみたいだけど、元気は元気そうだったね?」

「そうだな」


 俺は頷いた。

 若い男女が親の反対を押し切り二人で旅行。これはもしかしたら駆け落ちなのかも知れない。

 不健全ではあれ、死を悼み執着し嘆き続ける不健康非効率極まりない日々を過ごすよりはずっと良かろう。俺が何かするまでもなく彼女は自力で立ち直ろうとしていた。


 安心する。彼女はもう大丈夫そうだ。

 蘇生黒魔術も墓荒らしも若さゆえの過ちだったのだろう。俺にも学生時代の過ちにはいくらか身に覚えがある。子供ほど単純でなく、大人ほど道理もない青春時代は何かと極端な言葉や手段に訴えがちだ。

 夜羽がそういう青春時代の落とし穴に嵌ったマリアを旅行に連れ出し正してくれたのなら感謝しなければ。細かい事情は分からないが。


 マリアの問題は自然に片付いていた。

 すると悪霊問題が残る。

 俺が始末をつけるべき問題を解決してくれたと思しき夜羽も毒牙にかかった以上、これは巴だけの問題ではない。

 俺は改めて巴と共に悪霊問題を解決する決意を固めた。

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― 新着の感想 ―
[気になる点] >巴は律儀にも俺の分の新幹線のチケットも買い 乗車人数以上の「指定席券」を買うのは規約違反だけど「乗車券」ならOK?
[気になる点] (以下、読み返し後の感想) >良かった、闇落ち聖女なんていなかったんだ いるよ~っ! 思いっきりすぐ近くに!!
[気になる点] あっ…… [一言] コレあれじゃん、ホラゲーとかのルートが決定的に分岐するポイントじゃん、絶対…… 選択肢で「とりあえず一目見るまでは彼女を探そう」と「気になるから夜羽竣についてもう少…
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