9話
地獄のようだった訓練が修了を迎えて、訓練場でひとり佇んでいるとやり遂げた達成感がじわじわと込み上げてくる。
これで俺の冒険者ランクはFに上がり、一緒に研修を受けた新人達よりも頭ひとつ抜きん出たことだろう。
出世頭ってやつだな。
優越感に浸りながら訓練場から出る。
教官との訓練で衣服がぼろぼろになってしまったので新調しようと受付があるホールを過ぎた時、声を掛けられた。
「おい、お前俺達と一緒に研修を受けた獣人だよな?」
振り向くと確かに見覚えのある4人の青年達が立っていた。
「お前、研修の時と違ってなかなか酷い格好だが頑張っているみたいだな」
自分の姿を爪先から確認して確かに酷い格好だと認識してから彼等の格好を見渡すと流石に装備一式を揃えるにはまだ時間が掛かるようだが研修の時にはしていなかった皮の盾や皮の軽鎧があった。
「俺達も結構頑張って依頼をこなしてな、今度Eランクに昇格するだぜ」
・・・な、なんだと?
「せっかく、同じ研修を受けた同期だからな。お互いに頑張ろうぜ!じゃあな」
俺の聞き間違いだったのか今度、Eランクに昇格する?
俺と一緒に研修を受けた奴らが?実技研修を受けることが昇格への最短コースじゃなかったのかよ!
晴れやかだった気分は何処へやら忘れかけていたお腹も再び痛み出してきた。
今日はもうポーション飲んだら宿に帰ってゆっくりと寝よう。
それにしてもあいつら、俺を除け者にしてパーティー組んでたんだな。別に寂しくなんてないんだから!
◇◇
訓練が修了した翌朝。まだ、身体に痛みは残っているが昨日に飲んだポーションが効いているようでここ最近では一番体調が良いと言える。
ぐぅ~
体もお腹が減ったと訴えている。昨日は宿に帰ってからポーションを飲んでもなかなかお腹の痛みが引かず、夕食が食べられずに寝ていた。
教官に付けられた切傷はポーションで綺麗に治ったのにだ。
絶対に内臓を痛めていたと思う。やっぱりあの教官いかれてやがる。
恨みは尽きないが過ぎたことをくよくよ言っていてもどうしようもないので朝食を食べに行くとする。
朝食が終われば、今日の予定だが切り裂かれぼろぼろになった服を新調して、冒険者ランクの更新に読み書きの勉強と大まかにこんなところだろう。
今日は何が何でも依頼を受けないと決めている。あれだけ休日もなく酷使されていたのだ。今日一日休んだとしても誰も咎めない。
冒険者ギルドに行くのは混み合う時間帯が終わってからなので疲れていたせいですぐに寝てしまって、全然確認していなかったステータスを見て時間を潰す。
【名前】:オリフィス
【種族】:猫人種[黒猫]
【レベル】:1
【クラスⅠ】斥候Lv1
【クラスⅡ】格闘家Lv1
【スキル】20P
聴覚強化Lv5、暗視Lv5、危険察知Lv3、短剣術Lv1(new)、格闘技Lv5、身体強化Lv2(new)、回避Lv2(new)、自然治癒Lv1(new)
「おやっ?」
代わり映えしたスキル一覧に目が釘付けになる。
変わったのは危険察知と格闘技のレベルが上がり、新しく4つもスキルが増えていた。
正直、教官と訓練をしていてスキルを覚えたような感覚はあったがこうして目に見えて増えているのを見るとあの地獄のようなシゴキも許せそうだ。増えた理由は訓練で間違いないが今後のことも考えて覚える条件が気になると思っているとメニューが開く。
なかなかの親切設計に感謝しながら新しく覚えたスキルの説明を見てみる。
[短剣術Lv1]
・スキルレベルに応じて、短剣の扱いが上手くなる。
※一定数以上、短剣を振り続ける。
無難な習得条件だ。
[身体強化Lv2]
・スキルレベルに応じて、身体能力を強化していく。
※クラス【格闘家】の状態で2週間以上続けて、肉体の限界を超える。
身体強化はラノベでは定番と言えるスキルな為、かなり使えるだろう。
[回避Lv2]
・スキルレベルに応じて、回避が上手くなる。
※一定数以上、回避し続ける。
回避スキルは一対一で教官とやりあっている時に取得した感覚があった。このスキルがなかったら訓練では何回か死んでいたかもしれない。
[自然治癒Lv1]
・スキルレベルに応じて、回復力を高める。
※10日以上の間、体力が全快することなく、瀕死の一撃を受けて生き残る。
かなり貴重なスキルだとは思うんだけど、この鬼のような条件はなんなんだ?下手したら死ぬじゃん。瀕死の一撃って、絶対に最後の教官からの腹パンだろうし。やっぱりかなり危なかったんじゃねーか!あのやろう!
地獄のような特訓を鑑みるに新スキル4つは妥当なのか?よくわからない。
それでもスキルの取得条件がなんとなくわかってきたので今後に役立てられるだろう。
そして、問題なのがなぜか増えたスキルポイント。俺はてっきりレベルアップする度に貰えるものだと思っていたのだが他にも条件があるのか。まずはレベルを上げてみてからかな。
まだ、レティシアさんに会いに行くには早いのでとりあえず、冒険者らしい服でも買いに行こう。
服のお店がやっていれば、いいのだがはたして。