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黒猫のオリフィス  作者: くろのわーる
目覚めと鬼ごっこ

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18/27

18話






俺の朝はいつだって変わらない。


いつもと変わらない安宿で代わり映えしない朝食を食べて、いつも愛用している安防具を身に付ける。


仕事を受ける為に外に出てもいつもと変わらない街並みにいつも通りの道を冒険者ギルドへ向かう。


途中、顔馴染みの冒険者と鉢合わせるのもいつもと同じ。


俺の毎日は全く変わらない日々にただ流されるのみ。俺だけじゃない、他の底辺の奴らもきっと一緒だ。


誰もが思っているはずだ。

何か変化が起きないかと・・・そんな都合の良いことは起きないんだが。


だから冒険者ギルドの入り口をくぐればいつも通りの光景が広がっているはずだった。


「本日より!!Eランク以下の冒険者限定で特別クエストが発行されましたぁー!!」


ギルドホールの中央には台箱が置かれ、その上にはいつも受付で見かける憧れの女性クレアが冒険者達からの視線を一身に浴びて、声を張り上げ叫んでいた。


「報酬は!金貨10枚にランクアップです!」


「おいおい、マジかよ?!」

「受ける!俺は受けるぞっ!」

「なんでEランク以下なんだよ!」

「頼む!俺と付き合ってくれぇー!」


Eランクの報酬じゃなくても破格な報酬に冒険者達の間にどよめきが起こる。


いつもとは違う朝。


変化を求めていた俺は俺達は先を争い、受付へと殺到した。

この依頼で変われるかもしれない未来の自分に期待して・・・。


少なくとも俺はそのひとりだ。






◇◇◇






路地裏を全力で駆け抜ける影がひとつ。

その後を必死の表情で追い掛ける複数の冒険者達。


表通りにも誰かを捜すように冒険者がうろつき、街中は普段とは少し違う様相を呈していた。


「はあっはあっ、クソッ!獣人だけに逃げ足が早えぇ!」

「俺が捕まえる!退けぇ!」

「待ちやがれ!黒猫のガキィ!」


後方から聞こえてくる威勢だけはいい悪態。

クラスや身体能力の違いから距離は開いていくので捕まる気は全くしないが数が多く追手を撒ける気もしない。


原因はおのずと悪態を叫ぶ、馬鹿な冒険者達だ。


奴らが大声で叫ぶせいで次から次へと追手が引き寄せられてくる。


俺を先頭に続く列はまさに冒険者トレイン。


道行く人や街の人々からは奇異な目で見られる。

せめて俺の事を犯罪者だと勘違いだけはしないでもらいたい。


相変わらず、追い掛ける冒険者達はお互いに足を引っ張り合い、おかげで逃げる側としては楽ではあるが鬱陶しいことには代わりない。


路地裏を抜けて、表通りを経由してはまた路地裏へ。

俺を追い掛ける足音がまた2つ増え、追手は増える一方だ。

現在、追手は足音からして30人といったところか。

戦って全員を気絶させるのは無理だな。


逃げに徹して入った路地裏の先には運の悪いことに俺を捜していたであろう冒険者。

こちらに気付くと満面の笑みを浮かべて駆け出してくる。


俺も走る速度を速めてからの格闘スキルLv:6の飛び蹴り。

見事にブーツの裏で間抜けな冒険者の顔面を蹴り抜き、撃沈すると勢いを殺すことなくまた猛ダッシュ。


今だから思う。格闘技を習っていて良かった。


時刻は正午をとっくに過ぎ、陽が暮れるまで3~4時間といったところか。

別に朝一から逃げている訳ではないのでまだまだ体力には余裕がある。


俺は今日から始まった捕獲依頼に対して、ある程度の備えをしてから挑んでいた。


陽が昇る前に仕度を整えて、宿の人に無理を言って別料金で昼食を作ってもらい。


陽が出て街の人々が活発になる頃にはすでに人目がつかない場所に潜んでいた。

そして、見つかったのがほんとについ先程だ。


俺を見つけたのは4人で形成されたパーティーだった。

奴らは朝一に冒険者ギルドで俺を捕獲する依頼を受けると他の奴らに負けじと必死に捜したのだろう。


だが昼を回っても俺は誰にも見つからなかった。


俺を捜す冒険者達には焦りと苛立ちがあったはずだ。


現に俺を見つけた冒険者達も苛立ちを口にして、街中を徘徊していた。

それにしても苛立ちから道端に落ちていた石コロを奴らが蹴り、それがまさか俺に当たるとは誰が思ったか・・・。


思わず、「いてぇっ!」って声を上げてしまい、隠密の効果が飛んでしまったではないか。


そこからは喜びの声を上げて騒ぐ馬鹿に引き寄せられて、あれよあれよと砂糖に群がる蟻のようにわんさか湧いて来やがる。

全く持って、切りがない。


何か良い方法はないだろうか・・・。




こんなことを考えながらも危なげなく、追いかけっこ1日目は終わりを迎える。


陽が完全に落ちたので報告の為に冒険者ギルドへと向かう。

俺を追い掛けていた冒険者達も今日『は』諦めたのか少し前に散り散りに何処かへと去って行った。


例外的な馬鹿を除いて。


歩いて冒険者ギルドへ向かう為に走る速度を緩めれば、ヘロヘロな足取りで追い付いてきた冒険者が2人。


「はぁはぁはぁ、黒猫のガキがはぁはぁ、やっとはぁはぁ、観念したかはぁはぁ」


最早、単なる変態にしか思えない。


「観念も何も今日はもう時間切れだよ」


「うるせぇ!はぁはぁお前は俺に大人しく捕まればいいんだよ!」


うるさいのはお前だとつっこむのも馬鹿らしい。

こういう輩が出ることは勿論、俺もギルマスも想定済みで対応策も話し合ってある。


右足に力を込めて、一瞬で懐に踏み込みと渾身のボディーブローを放つ。


「ぶほぉっ!!」


対応策その1。

有無を云わさず、とにかくぶちのめす!


地面にうずくまる馬鹿冒険者。さらに脇腹に追い打ちのローキック。


「がはぁっ!!」


白目を剥き、気絶したのを確認すると馬鹿冒険者の冒険者カードを回収する。

この冒険者カードを報告のついでに受付に渡せば、ギルドから呼び出しが掛り、ルールを破ったペナルティーとしてダウナー教官から丁寧な再教育が行われる手筈になっている。



残りはひとり。

簡単に捕まえられると思っていた対象者からのまさかの反撃に逃げ腰になっている。


それでもルールを守らない馬鹿に遠慮などする気はさらさらないし、明日以降も現れるであろう馬鹿達への牽制と見せしめを兼ねてこいつもボコボコだ。


ビビって腰が引けている相手に近付くと足払いを掛けて、尻餅を着かせる。


「ひぃっ!?」


何やら俺の顔を見て、短い悲鳴を上げたが構わずに覆い被さるように跨がり、マウントポジションを取れば、後は殴るのみ。


対応策その2。

情け無用、徹底的にボコボコにする!


拳を振り上げて力任せに降り下ろす。


「ち、違うん、ぎゃあ!」


ただただ拳を振り上げては降り下ろす繰り返し。


「か、勘弁っ!ひぎゃあ!」


相手が泣き叫ぼうが降り下ろす拳は止まない。


「だ、だずげ・・て・・ぐふぉっ!」


拳を振り上げること数回、気を失ない大人しくなったところで胸ポケットから冒険者カードを抜き取る。


カードを確認すれば、二人ともランクは納得のEランク。

EランクからDランクに上がるには試験官の前で実技試験があり、そこで認められる必要がある為に冒険者にとって一つの壁と言われているらしいがコイツらは間違いなく、何年もくすぶってる奴らだろう。


まあ、これを機に教官の指導を受けて一皮剥けることを祈っておこう。南無。


なんだか清々しい気持ちになった俺は足取りも軽くスキップしながら冒険者ギルドへと帰るのであった。







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