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黒猫のオリフィス  作者: くろのわーる
目覚めと鬼ごっこ

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17/27

17話






会議室へと連れられた俺はダウナー教官とジャンさんに挟まれて、ギルマスと向き合うかたちで座っている。

二人がわざわざ俺を挟んでいるのは逃走させない為にだろう。


会議室の中は華美な装飾品など何もなく、10人くらいが囲める大きめなテーブルにイスのみのなんとも殺風景な部屋だった。

まあ余計な備品など置いていても粗雑な冒険者に壊されるだけか。


ちなみにみんな心配だったと思うが俺の腕はなんとか無事だ。


ドアがノックされ、普段は受付をしている女性が4人分のお茶と茶菓子を運んでくる。

会議室の中は変な空気だからか女性はお茶を置くとそそくさと部屋から出ていった。

その際、俺に向けられた視線には憐れみが含まれていた気がする。


「さて、お茶も来たし君を呼んだ理由を説明しようか」


ギルマスはお茶をどうぞと手で進めてくるので茶菓子をむさぼり、お茶をすする。

茶菓子は小麦粉と少々の砂糖を捏ねて、焼いたような物でハッキリと言って旨くはないがこの帝国では砂糖は貴重なので食べ続ける。


「今回呼んだのは君にぜひ協力して欲しい強制依頼があってね」


強制依頼なら協力もくそもないだろうがという文句はお茶と一緒にとりあえず飲んでおく。

まずは話を全部聞いてからだ。


「で、その強制依頼というのがダウナーから出された君の捕獲依頼なんだ」


ぶぅー!


俺がお茶を吹き出した音だ。


「はぁ!?俺の捕獲依頼?」


意味が解らない。俺の捕獲依頼なのに俺が協力するとかあれか?有望な冒険者に査定値を稼がせるためのデキレース的なものなのか?そもそも教官は何を思って依頼なんか出してんだ?


ギルマスは胸ポケットからハンカチを取り出すと顔にかかったお茶を拭っているが気のせいかな、こめかみ辺りがピクピクしてる。


お茶を吹き掛けたことは気にせず、茶菓子が盛られた器を自分の近くに寄せて貪る。


「おい!俺達の分も残しておけよ!」


ひとの右腕を折ろうとした奴の言葉など聞こえない。


「最初は単純にダウナーが君を捕まえる為だけに依頼を出していたんだけどね」


ギルマスはテーブルに両肘を突いて手を組んで不敵な笑みを浮かべる。

所謂、司令ポーズだ。


「それだけじゃ、面白くないだろ?」


何言ってんだ、こいつ?

追われる側の俺としては面白い面白くないの話じゃないんだが。

むしろギルマスなら暴走している馬鹿教官を止める側の人間だろうがと言いたいところだが相手はギルドマスターだ。まだ、大人しく茶菓子を食べていよう。


「そこで低位ランクの冒険者達の訓練も兼ねて君に頑張ってもらおうかと思ったんだ」


「ちょうど斥候技術を磨いていたようだし、俺達の訓練からも逃げるくらいなんだ。お前にぴったりな役割だろ。どうだ、嬉しいだろ?」


教官まで何を言ってるんだ。

てゆーか、こいつ俺に逃げられた事をどんだけ根に持ってるんだよ。


「勿論、無料タダとは言わないよ。1日逃げ切るごとに銀貨2枚を払おう」


俺の冒険者ランクから考えて、1日逃げ切るごとに銀貨2枚はそんな悪くないように聞こえる。

が俺はその程度の金額でのせられたりはしない。


「金貨1枚だ」


ピクッ!ギルマスの眉が僅かに動いた。


「勿論、1日ごとにだ」


「おい、オリフィス。調子にのるのも大概にしておけよ」


さっきから教官がうるさいが今、俺が交渉しているのはギルマスなので相手にしない。


「それからその依頼が有効な時間の指定をさせてもらう。時間は陽が昇ってから陽が落ちるまでの間だ」


「てめぇっ!」


教官を制するようにギルマスが手を伸ばして制止させると先程よりも一段低くなった声で問い掛けてくる。


「君は自分が一介のFランク冒険者だとわかって言っているのかい?」


ギルマスの目つきが変わり、教官やジャンの兄貴に劣らない圧力が放たれるがこの程度で屈する気などない。


「俺がただのヒヨッコ冒険者だってことは当然わかっている。その上でこの依頼自体、俺がやる気を出さない限り成り立たないこともちゃんと理解しているさ」


これは交渉だ。


そして、相手は商人や役人などではなく、圧力から考えて恐らく冒険者上がりのギルドマスター。

舐められたら終わりだ。弱気な態度は見せられない。

例えギルマスから放たれる圧力に押され、背中が滝のように汗を流していたとしてもだ。






訪れた沈黙。その間も決してギルマスからは目をそらさない。





「くっくっく!なるほど・・・ダウナーが目を掛ける訳だ」


俺的には教官には目を掛けてもらっているより目をつけられているといった感じなのだが当人とそうじゃない人の差なのか、見方が違うようだ。


「いいだろう」


ギルマスの返事を聞いて、どうやらなんとかなりそうだと安堵する。


「ただしっ!こちらがここまで譲歩したんだ。簡単に捕まって俺達をガッカリさせんじゃねぇぞ!」


俺は黙って頷くと今まで見守っていたジャンの兄貴が口を開く。


「話はまとまったみたいだな。それにしてもオリフィス。ギルマスの脅しに負けないとはお前なかなか度胸があるじゃねーか!それに低ランク冒険者が相手とはいえ、400人以上いるのにな」


「えっ?!」


今なんと?400人以上?


「そ、そんなにいるの?低ランク冒険者って・・・」


「お前、あれだけ強気にギルマスと交渉しておいて知らなかったのか?まったく呆れた奴だぜ」


ギルマスと教官を見れば、二人ともしてやったりといった様子だ。


クソッ!嵌められた!


「この後に手配用の似顔絵描くから帰らないでね」


そう言うとギルマスは会議室を出ていった。


「オリフィス、明日からの鬼ごっこ楽しみだな!はっはっは!」


頭を抱えてテーブルに伏せる俺を悪魔教官が実に楽しそうに笑ってる。


「そう落ち込むな、交渉内容については悪くなかったぜ!特に時間帯を指定したのは良かったな。指定しなかったら四六時中襲われていた訳だからな」


後悔先に立たず。明日からどうなることやら・・・。


ギルマスの横暴と思える説明についカッとなって勢いで決めてしまった部分がほとんどだがよくよく考えれば、拒否することは不可能だっただろうし、最適ではないが無難な条件まで持っていけたと思っておこう。


会議室に戻ってきたギルマスはひとりの職員を連れてきて、俺の似顔絵を描かせていく。

これが張り出されるとはほんと逃走犯みたいだ。


似顔絵を描かれている間にギルマスから依頼書を見せてもらった。



『黒猫人オリフィスの捕獲』


・参加資格:Eランク以下

・条件:生きたままギルドに連れてくる。

依頼は陽が昇ってから陽が落ちるまでの間有効。

また、法律通り街中での武器の使用は禁止。


・報酬:金貨10枚+ランクアップ



「そうそう一応、依頼書には武器の使用は禁止とは書いてはあるが相手は血気盛んな冒険者達だからな当然、武器を抜く馬鹿も出てくるだろうから気をつけてくれたまえ」


当然てなんだよ!気をつけてじゃねーよ!そこはしっかりと依頼を受ける冒険者達に言い聞かせるように念をおしておく。


似顔絵を描く作業は30分程で仕上がり、そっくりに描かれていた。

その作業が終わるのを黙って見ていた教官は終わるなり、勢いよく俺の肩を叩いてくる。


「よしっ!明日から始まるオリフィスの逃走生活を祝して今から飲みに行くか!」


「行かねーよ!」


会議室に俺の叫びが響いた。








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