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黒猫のオリフィス  作者: くろのわーる
目覚めと鬼ごっこ

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15/27

15話




~~ダウナーSide~~




 俺の生まれは広い帝都のはずれ、ごくごく普通の家庭だった。


 父親は名の通った冒険者でランクはB。


 高ランクとあり、稼ぎは悪くなかったようで冒険者らしく羽振りが良く冒険者仲間からも人望があったみたいだ。


 そんな父親を見ていたせいか物心ついた頃には俺も父のような冒険者になるんだと言っては、いつも冒険譚をねだっては話をしてもらっていた。


 俺が6才になった時、父親から剣の扱い方から冒険者の心得を教わるようになった。


 俺はそれが楽しくて仕方がなかった。


 幼少から鍛えられていた俺は10歳で冒険者登録をすると父親譲りの剣の腕前でメキメキと頭角を現し、20歳になる頃にはCランクになり、冒険者ギルドではちょっと名の通った若手として持てはやされた。

 それでもおごることなく研鑽を積み重ね、帝都のダンジョンに潜り続けること5年、ついに父親と並ぶBランクに到達する。


 年齢的に体力も技術も全盛期を謳歌していた俺は更なる昇格を目指して、我武者羅にダンジョンへと挑んでいった。

 結果、幾度もの無理な挑戦で俺のパーティーが手にした魔術書は帝都のダンジョンで3冊。

 しかし、魔術書は高価で売れば当分の間、遊んでくらせるとあってパーティー内の話し合いで2冊は売却となり、また残りの1冊は帝都に蔓延る有力クランからの圧力によって、嫌々手放すことになった。

 結局はAランクになる為に必要な魔術書を手に入れることは叶わなかった。



 それでも諦め切れない俺は帝都から離れ、傲慢なクランのしがらみがない地方都市のダンジョンへと活動の場を移つした。


 地方都市へと移り、活動すること10年。


 ダンジョンで手に入れた魔術書は3冊だったがやはりここでも俺の手元には1冊も来なかった。


気付けば、俺も30半ば。

全盛期は過ぎ去り、若手冒険者達からはロートル扱いを受け、パーティーを組むのも昔に比べれば難しくなっていた。


転機が訪れたのは俺がいた冒険者ギルドのギルドマスターが入れ替わったことだ。


新しくやってきたギルドマスターは俺が帝都にいた頃によくパーティーを組んでいた元仲間だった。


奴はBランクに昇格するや冒険者を早々に引退するとギルド職員に転職し、持ち前の要領の良さであっという間に幹部職員へと成り上がったという。

しかし、組織というものには何処にでもしがらみがあり、こいつの場合は派閥争いだったらしが嫌気が差していたタイミングで運の良いことに地方都市のギルドマスターから引退届けが出ていた為、自ら名乗り出て左遷(本人は栄転だと言っている)を受けたらしい。


俺達はたびたび顔を合わせては酒を飲み、昔ばなしに華を咲かせていると急に若手育成の為にと教官になることを勧められた。


その頃の俺は魔術書を手に入れては度重なるパーティーでのイザコザに辟易しており、肉体の衰えを感じては限界を覚えていた為、ギルマスの申し出を受けることにした。


何気なく引き受けた若手育成の仕事。


当初は無鉄砲で威勢がいいだけの若者との衝突が絶えなかったが繰り返す内に幼き日の父親との稽古の日々が蘇り、懐かしくも充実した時間が過ぎていった。


昔と違うのは俺が教える側になったことか。


久しく感じなかった充実した日々も気付けば、5年が経っていた。

俺が指導した冒険者の数は50人を超え、右も左もわからなかったような奴らもCランクになる奴まで現れた。


そんな矢先、帝国の南で他国と戦争との知らせが届く。


この帝国では戦争の規模にもよるがDランク以上の冒険者達には強制依頼として戦争への参加が求められる。


南部の地の戦争になぜ遠い北部の冒険者達までが参加を強要されなければならないのか俺は国に対してもそれについて強く言わない冒険者ギルドにも憤りを感じずにはいられなかった。


だが無情にも戦争は回避できないと判断した国から強制依頼は発動され、俺が指導した教え子達のほとんどが派兵された。









そして、教え子で無事に帰ってきたのはジャン唯ひとりだった。


他国を退けることができたので戦争には勝ったらしい。だが俺の心は抉られたように悲しみに満ちていた。


多少は手荒かったかもしれない。それでも手塩にかけて、どんな状況でも生き残れるようにと育てた若者達。


しかし、結果はジャンのみが生き残れただけ・・・。


俺の指導方法は間違っていたのだろうか。思い悩む日々が続いた。




そんなある日、いつものように新人冒険者達の講習を行っていた俺は奴に出会った。


講習を受けにきた新人達の中でも一際、小さな身体。


名前は『オリフィス』。


猫獣人らしく頭部から突き出た耳が印象的な何処にでもいる12歳のガキ。


この帝国では亜人は差別の的として、肩身が狭い思いをしていてどいつもこいつも辛気臭い顔をしているもんだがオリフィスにはそんな悲壮感はなく、時折見せる大人な雰囲気がなんともチグハグな印象を与えていた。


指導するにあたり、最初は何も期待していなかった。いや違うな。

過剰に期待すれば、また何かあった時に嫌な気分になるから期待したくなかったのだろう。


オリフィスは今まで指導してきた奴ら同様に遅刻して訓練場へとやってきた。


いつも通り、今後の訓練をスムーズに進める目的できっちりと上下関係を解らせた上でぶっ倒れるまで走らせるのが俺の指導方法であり、同時にやる気がある奴とない奴を振るいに掛ける。


やる気がない奴をいくら指導しても無駄だということは5年間の教官生活で実感したことだ。

初めての指導が終わる頃には息も絶え絶えでこの調子なら3日持てば良いくらいだと思っていた。


だがオリフィスは俺の斜め下の予想をいく、2日続けての遅刻をかましてきた。


俺があれだけ脅したにも関わらず、2日続けての遅刻は教官になって初めての経験で矜持を傷付けられた気分だった。


その日からの訓練には熱が入った。


しかし、潰すつもりで鍛えても文句は言うくせになんだかんだと最後までやり遂げる根性には見込みがある。


今までにないくらいに訓練は日を追うごとにエスカレートさせていくが食らいついてくる。

久しぶりに歯応えのある教え子に心が踊ったのがわかった。


気付けば体力作りだけで1週間の研修は終わりを迎えようとしていて、無理矢理もう1週間延ばしてやった。


あの時のアイツの絶望した顔はなかなか面白かったな。


1週間が経つ頃、オリフィスは文字の読み書きを習いたいと言ってきた。俺は内心では高位冒険者でもないのにわざわざ覚えたいとは愁傷な奴だなと思いつつもギルドにいる司書のレティシアに話を通してやった。


オリフィスは俺との訓練を忘れるくらいに読み書きに熱中しているようで後日、レティシアに聞いたら覚えもかなり良いらしい。


ただ、また訓練に遅刻したことを俺は忘れないがな。


立ち合いでは根性以外に走り込みでは解らなかった光るものを見せた。と言ってもダガーの扱いはド素人だったが素手や蹴りでの格闘戦は悪くなかっただけだが。


2週間にも及ぶ訓練で感じたのはオリフィスには冒険者の才能がある。いや、生き残る才能というか生存本能といった方がいいか。とにかく、斥候(スカウト)として大成するかもしれない。

しかし、追い詰められなければなかなか実力を発揮できないがそれも経験不足によるものだろう。


 最後の立ち合いでは良いパンチを腹に貰い、思わず本気になってしまったがアイツも生きていたことだし別にいいだろう。

 流石にあの時はちょっとマズイと思って、ギルドで長年放置されていたポーションをこっそり飲ませたのが良かったのかもしれん。


 まあ、これについては俺の心の中に閉まっておく。


 オリフィスとの訓練が終わってから数日後、休暇を取っていたジャンがギルドに顔を出して、俺に会いにきたので一緒に飲みに誘った。

 いろいろと教え子の最後や戦争についても聞きたいことがあった為だ。


 馴染みの飲み屋へと連れていけば、酒もそこそこにジャンは戦友達の最後を語り出した。









 ジャンからの話は酷いものだった。


 俺は飲んでいた酒の木製カップを気付けば、握り潰していた。


 国からの強制とはいえ、戦争へと赴けば、待っていたのは下らない貴族共の派閥争い。


 北部と南部の派閥の違いからジャン達北部の冒険者はもっとも危険な最前線に配置され、馬鹿な貴族に無謀な突撃を命じられて無惨に散っていったとのことだ。

 挙げ句のはては生き残った北部の冒険者達を無能と蔑む南部派閥の貴族達。


 ジャンは悔しさから手の平に爪がくい込み血が流れ、俺は怒りで震えが止まらなかった。


 俺達の会話は熱を帯びるあまり声が大きくなっていたようで飲み屋の中は静まりかえっていた。

 言いたいことは沢山あるが店の雰囲気を悪くしてしまったことに謝罪の意味を込めて、みんなに俺から1杯奢る旨を店主に伝えて話題を変える。


 咄嗟のこともあり、俺はオリフィスについて話し始めていた。



 店に迷惑をかけてしまったこともあり、オリフィスの話が一段落つくと店を替えることにして退店する。


 街を抜ける夜風が熱くなっていた体を優しく冷ましていく。

 そんな夜風に紛れて不自然に移動する影がひとつ。


 眼を凝らせば、それはオリフィスだった。


 一目で斥候としての技術を磨いているとわかったがジャンには不審者に映ったようで絡んでいた。


 その後のあいつらのやりとりはなかなかに愉快で見入ってしまった。

 ジャンと2人きりではまた剣呑な話になってしまいそうだったので無理矢理オリフィスを加えて、飲み屋に移動する。

 ジャンとオリフィスは気が合うのかすぐに打ち解けて、強さについての話をしていた。


 その後は簡単だ。


 俺が教官の権限で訓練場を開放して、ジャンを交えての立ち合い。

 ジャンも俺からオリフィスの話を聞いていた為、興味があったようだ。


 しかし、そこでオリフィスはまたもや俺達の斜め下をいく行動をとる。

 あのくそガキ、俺達から文字通り尻尾を巻いて逃げやがった。しかも、暴言まで吐いて・・・。


 確かにオリフィスは斥候だからいざとなれば逃げるという選択肢に間違いはないだろう。だがこれはあくまで訓練であり、してや相手は俺達だ。


 相変わらず、俺を(たぎ)らせる。


 一瞬とはいえ、呆けた俺達を見事に撒いた手腕はおそらくジャンに打ちのめされている時から考えていたのだろう。

 少し見ない間に斥候らしく成長していた様に嬉しくも思うが見逃すかどうかは別だ。


 ジャンに跡を追わせて、俺はギルドの受付で依頼の手続きを行う。


 依頼の内容は『オリフィスの捕獲』。


 逃亡というものがどれだけ辛い事か俺が解らせてやる。


 手続きを進めていると俺達が出した大声でギルマスが起きて階下に降りてきた。


 ギルドマスターは有事の際に直ぐ様対応出来るようにとギルド内に部屋が置かれている。

 寝惚けまなこのギルマスは俺から話を聞くと悪ノリしてきた。

 そう言えば、こいつ昔から寝起きが悪かったなと思いつつ、面白くなってきたので止めない。


 話し合いの結果、オリフィス包囲網が出来上がった。


 俺達の会話を聞いていた当直の職員は顔を引くついていたがどうでもいい。


 依頼内容はこうなった。


『黒猫人オリフィスの捕獲』


・参加資格:Eランク以下

・条件:生きたままギルドに連れてくる。また、法律通り街中での武器の使用は禁止。


・報酬:金貨10枚+ランクアップ


 かなり破格な報酬に皆飛び付くだろう。


 ここまでやったのだ。オリフィスが簡単に捕まっては面白くないので言い含めておかなければな。









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