10話
ステータスの確認を終えた後、服を購入する為に出掛け無事に買うことが出来た。
冒険者が多いこの街では当然のように冒険者に狙いを絞り商売している人達がいる訳で早朝から対応してくれるところがいくつもあったのだ。
そこで着心地はハッキリと言って悪いが丈夫な服を購入して、ついでに防具屋にも寄って防具を購入した。購入したといっても全身の防具は買わず、皮製のすね当てのみだが。
理由としては俺の戦闘スタイルが蹴り技を多様するのと俺に合うサイズの皮鎧が少なかったのと実際に着けてみたところ、動きがかなり阻害されたので皮鎧は控えることにした。今後は着けるとしても軽鎧に分類される胸当てくらいだろう。
それよりも腕を守る防具の方が重要だ。
腕を守る小手あたりはその内、もっとお金に余裕ができたら良い物を買おうと思う。
買い物も終わり、ちょうどいい時間になったのでレティシアさんに会いに行く。
資料室は相変わらずでレティシアさん以外に人はいない。
そもそもこの世界は識字率が低いらしく、文字の読み書きができるのは貴族や役人に商人くらいのもので俺みたいに若い頃から読み書きを覚えたいという奴は珍しいとのことだ。
じゃあ、他の冒険者達はどうしているかというと依頼ボードの傍に翻訳の人がいるからその人が勝手に翻訳してくれるらしい。
まあ、長年依頼を受けていれば少しは覚えるらしいがそれで不自由に感じないのか不思議だ。
「その分、オリフィス君は将来有望ですね」
「そんなことないですよ~」
どこかの頭のネジが飛んでしまった教官とは大違いで褒めてくれるレティシアさんは最高だ。
「冒険者で読み書きを勉強するなんて、その歳ですでにBランク以上を目指しているのかな?」
「ん?」
「あれ?違ったの?」
レティシアさんの言い方だとBランク以上は読み書きが出来ないと成れないように聞こえる。
「レティシアさん、Bランク以上って読み書きが出来ないとなれないんですか?」
「えっと・・・読み書きが出来ないとBランク冒険者になれない訳ではないけど、Bランクからは高位冒険者として扱われて交渉や契約が必要な依頼が出てくるのよ。だから出来ないと大変だって聞いたけど、オリフィス君知ってて勉強してたんじゃないの?」
なんてこった。てゆーか、読み書き『も』って他にも条件があるのか?ちょっと、その辺を詳しく聞いてみる。
「Aランクになると男爵位と同じ権力が得られることは知ってる?」
「はい、知ってます」
これは教官が研修の際に話をしていたので知っている。ちなみにSランクは伯爵相当とも言っていた。
「冒険者で貴族に匹敵する権力を持っちゃうと中には権力を悪用しようと考える人も当然出てくるから色々な国と冒険者協会が話し合って、Aランクに昇格する為の最低限の基準を設けているのよ」
ここからはレティシアさんの話を要約していく。
まず、Aランク以上の冒険者には国からの依頼を受けるに値する品性が求められるようで文字の読み書きは当然で国立の学校で学び、卒業する必要がある。
その時点で俺からしたらマジかよである。学校があること自体知らなかったし。
まあ、Bランクになって見込みがある奴は職員が申請を行い、冒険者協会から推薦状が送られてくるらしいが普段から素行が悪い奴には絶対に推薦状は来ないとのことだ。。
理由は推薦された者が問題を起こした場合、推薦した者も処罰を受ける為に推薦した側も慎重で脅しや賄賂は通用しないらしい。
ちなみに試験を受けて合格すれば、自分の意思で学校へ通うこともでき、今いるAランク冒険者の半分以上は自主的に学校へ行って資格を得た口らしい。
そして、次にAランク資格最大の難関である攻撃魔術もしくは回復魔術が使えること。
またしても、「えっ?」である。冒険者は高位になれば成る程、戦闘能力も求められるのでAランクともなれば、魔術が使えないとお話にならないとのことでAランク資格、最大のネックらしい。
レティシアさんは俺が唯一知っている高ランク冒険者、元Bランクだがダウナー教官のことにふれて教えてくれた。
曰く、教官は読み書きも学校も出ているが肝心の魔術書に巡り合うことが出来ず、Aランクを断念して冒険者ギルドの教官になった経緯があるとのこと。
そんな過去があったのかと思う反面、あの人格が崩壊している教官で品性に問題がないとされているのなら楽勝に思えてくる。
そこでまた疑問が芽生える。Aランクでそこまで条件が厳しいのならSランクはどんな無理な条件を提示されるのだろう。
「ちなみにレティシアさん、Sランクに昇格する為の条件って知ってます?」
俺の質問に少し困った表情を見せる。
「Sランクは本当に人智を超えた怪物のような人がなるランクで正直、詳しい条件はわからないわね。でも、魔導以上は使えないと話にならないらしいわ」
「魔導?」
「そう魔導よ。帝国で有名なのは『紅蓮のリンドール』様かしら。オリフィス君でも聞いたことがあるわよね?」
「?」
なんか名前を言われたがさっぱりである。
「えっ?!まさか知らないの?」
「すみません。ずっと、田舎にいたので聞いたことないです」
「『紅蓮のリンドール』様は通り名にもなっているけど、世界で唯一の紅蓮魔法を使えるのよ」
「魔術じゃなくて、魔導とか魔法ってなんですか?」
「あ~、まずはそこからなのね」
魔術と魔導と魔法の違いがわからず、呆けている俺の顔を見てレティシアさんは魔術の次に強いのが魔導、魔導の次が魔法であり、魔術や魔導よりも魔法の方がとんでもなく凄いことを資料室にあった本を開きながら丁寧に教えてくれる。
・火の魔術書
・炎の魔導書
・紅蓮の魔法書
・水の魔術書
・氷の魔導書
・蒼蓮の魔法書
・風の魔術書
・雷の魔導書
・翠蓮の魔法書
・土の魔術書
・地の魔導書
・金蓮の魔法書
「魔法書は神の力の一部にして、この世界を創造した神の象徴である『蓮』の字がついているの」
「どうして、『蓮』の字がついていると神の力の一部だと?」
「それはね、魔術書と魔導書はたまにダンジョンから見つかるんだけど、魔法書はそれぞれ世界にひとつしか存在せず、魔法を持つ者を不老に変えるのよ」
「不老に変えるって・・・その『紅蓮のリンドール』様は・・・」
「そう『紅蓮のリンドール』様は不老でさっきも言ったけど、世界にひとりしかいない紅蓮魔法の使い手よ」
なんだろう。さらに色々な疑問が湧き出してくる。
「そんな凄い魔法を持ってて国は何も言わないんですか?」
「国が何か言うもなにも実力で支配しているこの帝国の現皇帝だから誰も何も言えないわ」
「・・・皇帝陛下ですか」
そりゃー、何も言えねぇわ!
「そうよ。田舎から出てきたとはいえ、皇帝陛下を知らなかったことは他の人にはあまり言わないようにね。下手したら不敬罪に問われないとも限らないから」
「はい」
改めて知らないって恐ろしい。
「でも、そんな凄い人が皇帝で不老なら帝国は安泰ですね」
「ん~、そうでもないのよ。オリフィス君はつい最近、帝国の南で国同士の戦争があったのは知ってる?」
どこかで聞いたような話だと思っているとふと俺を奴隷として買った商人が話していたのを思い出した。
元々、俺自身が奴隷として南の地に向けて売られそうになっていたんだったな。
「はい。聞いたことがあります」
「その戦争の原因がそれぞれの国が持つ魔法を巡る戦いなのよ」
「それぞれの国が持つ魔法・・・」
「オリフィス君は読み書きも出来るようになったし、次は歴史や常識を学ぶ必要がありそうね」
俺も必要だと思うし、知っておきたい。
「ちなみにレティシアさん、魔導書っていくら位するんですか?」
「確か最低でも金貨5000枚はしたはずよ」
「金額が大き過ぎて、想像がつかないですね」
「そうね」
こうして、レティシア先生の授業はこれからも継続となり、まだまだ終わりを見せない。
いつになったら冒険者らしい冒険が出来るのか。




