#2 『森に』
其処は元々何も無い原野だつた。一度ど真中に立てば、地面以外にはもはや空しかないといふほど途轍もなく広大だといふ点を除くと、やはりただの原野であつた。
しかし何者もその緑の境界線を歩み越えることは決してなく、背が低く揃った草の緑の大地をただただ風が、颯爽、走り抜けていく見晴らし。また、「何も無い」とは言へども、当然、其処に虚無が漂つてゐるワケでもなく、背の低い草が青々と青々と広がってゐるのとたまに少し大きな岩が散見されるすがすがしい場所であつた。
或るきつかけを境にそこに大木が根立つ。何処からか水も湧き流れ、生キ物もやつてきハジめた。初めに来たのは鳥か何かの生キ物だつたのではないかと思われる。
生き物にとつて水といふものは身を守るものであり、体の柔を担うものであり、血液の源でもある。全く、生キ物というのは水が無ければ原野に転がる石も同然である。
原野には木が殖え、生キ物が殖え、そこは森と成った。
☓ ☓ ☓
―久方ぶりに草の実が食べたい。あの、赤黒い艶のある奴、ぴちっと弾ける奴、瑞々しいのがいい。
容赦なく降り注ぐ光が度々木の葉の合間を抜けて眼を焼く。右腕をかざして遮るも、辺りの鮮やかな景色に反射されて眩しいのに対処しきれない。もう片方の腕は頭が千切れた蛇を掴んでいて余裕がない。鮮やかな川。鮮やかな葉。鮮やかな草。踏みしめる土すらも輝いているかの如く白く感じられる。冷静に見れば土らしい茶色をしているのだが。
どうにも気分が良くなる。訳も分からぬまま心の臓が心地よく鳴る。煩わしい。
心の中で悪態をつきながらも『ソレ』は森の中を足取り軽やかに歩いて行ったのだった。