第2話
最後は夜視点ですが、それ以外は春子視点です。
「春子先生、ちょっといいですか?」
お昼休み、そろそろ教室に戻らないと、と少し速足で廊下を歩いていた私の元に、そんな涼やかな声が聞こえてきた。
聞き覚えのある声に振り返ると、そこには困ったように微笑む夜君が佇んでいて。
「どうしたの?夜君」
「……妖怪退治に出なくちゃいけなくなったんですが、ちょっと強いやつみたいなので…」
申し訳なさそうに目を逸らす夜君に、ああ、と私は納得した。
「私の力をアテにしたい、って事?」
「はい。…すみません、ぼくの力が足りないせいで」
しょんぼりと眉を下げるその姿は、いつ見ても少年にしか見えないし、言動も同様で。
いつになっても夜ちゃんの男装バージョンには慣れないなあ…と、少し遠い目になった。
「先生?」
「は、いや、なんでもないよ? そういう事なら喜んで。どこに行けばいいのかな?」
「光星が訓練も兼ねて迎えに行きたいらしいので、普通に待機しててくれれば。夕方の5時になっても光星が来なかったら、この地図の場所に」
「ん、了解」
■ ■ ■
私の力…それは、魔力をオーラとして見る事が出来る、という力だ。魂と言い換えてもいいかもしれない。
魔法を使う時は燃え上がるように揺らめき、殺意を漲らせている時は赤黒く染まる。
それから、保有している魔力の量によってオーラも変わるため、魔力が枯渇しそうだ、とかも判る。
双子に初めて会った時は、その魔力量に驚いたものだ。
物心が付いた時には既にあったこの力は、この現代日本、魔法の存在は架空のものとされているこの世界では役に立たないものだと思っていた。
それを信じてくれているのはあの双子と、オカルト話が好きらしい親友だけだ。
■ ■ ■
「春子さん」
ひょこ、とドアから顔を出した光星君に、私はにっこりと笑った。
「私の出番かな?」
「うん。…ごめんなさい、僕が弱いせいで無理をさせて」
「ふふ、それ、夜ちゃんも言ってたよ? いつも言ってるけど、私は無理とかはしてないよ」
光星君なら判るでしょ?と笑顔を向けると、包帯を取って夜ちゃんそっくりな顔を晒している光星君は微妙な顔をした。
「確かに判るけど…笑顔で心を読むのを勧めるとか春子さんってわけわかんない…」
「え、なにそれ。褒めてる?」
「…まあ?」
「なにその反応…って、とわっ」
話ながらも滾っていた光星君のオーラが落ち着いて、あ、終わったかな?なんて思った、次の瞬間だった。
カクン、と足場がズレて、慌てて転ばないようにバランスを保つ。
周りの景色は既に、美しい草原へと変わっていた。
「ちょっとズレちゃったな…。春子さん、大丈夫?」
「うん、ちょっとカクッってなってビックリしただけだから大丈夫」
頷くと、「なら良かった」と光星君は笑った。
「光星、春子さん。妖怪はもう閉じ込めてあります」
光星君がここに転移する時に夜ちゃんを目印にしたのだろう、光星君の直ぐ横に戦闘服姿で佇んでいた夜ちゃんはそう言って歩き出そうとした。
「あ、夜ちゃん!私は魔法が使われそうになったら伝えればいいのかな?」
「うん、それでいいよ。奇襲はもしかしたら、ぐらいだから、頭の片隅に入ってれば充分だと思う」
「了解」
■ ■ ■
「この町は神が守護する町だ。ちょっかいを掛けるのは止めてもらおう」
背筋を伸ばし、毅然と言い放つ。
(思いっきり戦闘して拘束して何言ってるんだ!だって)
後ろに待機する光星からの思念に苦笑して、キイキイと喚きたてるサルに刀の切っ先を突き付けた。
「止めないなら、消滅してもらう事になるけど?」
上等だ!と言いたげに睨まれたので、光星が呆れているのを感じつつ、わたしは刀を仕舞った。
きょとんとするサルにニヤリと笑いかけて、私は魔力を活性化させた。
「【神守に害成す者を退けるが我が役目。神の力を受け消滅せよ】」
出現した光で出来た円錐…きゅいんきゅいんと物騒な音を立て回るそれにサルが顔を引きつらせるが……もう遅い。
「ふう…」
「お疲れ様、夜」
怪我はない?と見つめてくる光星から、心配そうな感情がびしばしと伝わってきて、わたしは思わず笑った。
「大丈夫だよ。かすり傷1つない」
本当だよ?と笑いかけると、嘘が無い事を理解したのかわたしの感情が伝わったのか、光星はほっと安堵の息を吐いた。
…ちなみに、だけど。
さっきの言葉は威力を上げるためのもので、わたしの趣味ではない。
誰が神守を守るのが役目だっつうの。わたしが守りたいのは光星だけだ。あと、一応神様。
補足コーナー
双子は双子的な何かによってお互いの大まかな感情が読める、という力があります。テレパシーはそれの応用ですね。
光星がサルに呆れてるのを感じたり、夜を心配しているのがバッチリ伝わってきたりですね。逆もあります。
あ、それと、光星は鑑定能力の関係で嘘を見抜いたり心を読んだり出来ます。
春子の能力は本文で言った通りです。今回双子が彼女を頼ったのは、その力で魔法を感知する事が出来るからですね。
発動する前に気づける、というのは安全の面ですごくありがたいらしいです。