第1話
最初は三人称、区切りの後は春子という女教師の視点です。
時が流れて。
夜と光星は、神守の一族の一員として、街に害をなそうとする妖怪を退治して回っていた。
高校に通いながら妖怪を退治するための鍛錬も欠かさず、一人前の退魔士として既に中学の頃から働いている。
その日、徐々に明るくなってきたグラウンドで、2人は模擬戦をしていた。
「はあっ!」
「っ…!」
夜が気合いの入った声を上げて光星に斬りかかり、光星は夜が持つ刀を薄く光る結界を展開して防ぐ。
「【使命を果たすために!】」
「あっ!」
夜の力の籠った声と共に発射された球は光星が展開していた結界を削り取り、崩壊させて。
にやり、と笑った夜が刀を振り上げると、刃先に暗い闇が絡みついた。
「【生き残れ!】」
光星の切迫した声と同時に小さな結界が彼を守るように展開され、そこに夜が刀を振り下ろし…、光星が張った小さな結界に防がれる。
戦い始めた当初はまだ模擬戦らしい体裁を保っていたその訓練は、今では実戦もかくやというレベルになってしまっていた。
「2人とも、すごいなー…」
半目で呟く女性の名は、黒川春子と言う。
夜と光星が通う学園で、2人のクラスの担任を務めている若い教師だ。2か月ほど前、ある事を切っ掛けに2人の秘密を知り、仲間として彼らに同行している。
十分後。
「負けた…」
「勝ったー!」
悔しげに肩を落とす少年と、その横で嬉しそうに飛び跳ねる少女の姿があった。
「夜ちゃんも光星君も、ほどほどにね? はい、水分もちゃんと摂ってね」
「「ありがとう、春子さん」」
技の余波でデコボコになってしまった地面に苦笑しながら、春子は2人にスポーツドリンクのペットボトルを差し出した。
「光星ー、地面直そうー?」
「あー…そうだね」
「あ、私も手伝うよ」
■ ■ ■
「あ、もうこんな時間…夜ちゃん、そろそろ人が来る時間だけど」
「じゃあ今日はここまでだねー…着替えなきゃ」
「僕はあっち向いて耳塞いでるからね」
素早く背中を向けた光星にくすりと笑って、夜ちゃんは戦闘服を脱ぎ始めた。
「じゃあ春子先生、また学校で」
「はい、また学校で」
お互いにすまし顔でそう言いあって、私は夜君、光星君と別れた。
目を包帯で覆っている光星君と手を繋ぎ、先導している夜ちゃんの姿は、知っていても少年にしか見えない。
何度見ても少年・夜と普段の夜ちゃんが重ならなかった私に、彼女は仕草と口調をそれらしくするのがコツなんだよ、と笑いながら教えてくれたけれど…。
カラクリを理解していても、あの姿の夜ちゃんはどうしても男の子にしか見えなかった。
夜ちゃんが男装しているのは、光星君のためなんだそうだ。
あの包帯のせいで目が見えない光星君を、付きっ切りで、それこそトイレとかの同性しか入れない場所でまでサポートするために。
…少し前に、大変じゃないのか、と聞いた事がある。
その時、彼女は『わたしのせいで光星に不便を強いる事になったんだから、このぐらいはなんてことないよ』と、どこか嬉しそうに笑っていた。
…今の、光星君が夜ちゃんに私生活を依存せざるを得ない、その状況を、申し訳なさそうに言う夜ちゃんの目の奥が、やはりどこか嬉しそうだったのは。
見ない振りをした方が良い事なのだろう、と私は思っている。
夜は光星のサポートのために外では概ね男装して行動しています。本来の性別は女性ですが普段は男装し男性として行動しています(念押し)
元々容姿が中性的だったーとかではなく、諸々の女性らしさは猛勉強の末に手に入れた「男性らしい仕草」でなんとか誤魔化している、という設定。
ちなみにですが光星の包帯は封印具です。戦闘時は外すので、模擬戦、というか鍛錬の時間も制御訓練も兼ねて付けていません。
彼の能力…超強力な鑑定能力は、ただ見るだけで全てを暴くため、幼少期などはその情報量の多さに昏倒してしまったりする事が多々ありました。そのため、夜がなんとかかんとか作成した能力を封印するための道具(包帯)を普段は付けているのです。
目を覆う形になっているせいで不自由を強いてしまうのは不可抗力であり、夜が光星をサポートするのはその責任を感じて…というのも半分ぐらいはあります。残りの半分は好きな人が自分が居ないと生きていけないという状況への優越感・嬉しさだったり…。