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第三話

セオングは山を降り自分の屋敷へと帰った。


ここは李家。李家は代々ハルラ山のふもとで町の治安を守っている。この辺りでは大きなお屋敷だ。

セオングの母はこの家の侍女で、この家の主人に見初められ妾として李家に入った。セオングが生まれたあと、男の子であったために正妻にいじめられ、心労が絶えなく、数年前になくなってしまった。それ以来セオングは屋敷の隅の物置の小屋のようなところに追いやられ、いとこやその母親に色々つらい仕打ちも受けるが、それでもここにいるのは、優しい父がいるからだった。

今回襲ってきた刺客もいとこの母親が仕掛けたものだろう。帰ってきた姿を見て驚いた表情だった。年々行動があからさまになっていく。


屋敷へ帰って数日が立ち、いつものように食事を運ぶため、侍女が部屋に入ってきた。


「失礼いたします。お食事をお持ちいたしました」


2人の侍女が入ってテーブルの上に酒と食べ物を置いていく…

ふと見ると一人は顔を見た覚えがない。


「新しい侍女か?」


セオングが声をかけると顔を伏せ気味に答える。


「はい。ミジュと申します。今日よりお屋敷にお世話になることになりました」


ミジュは顔を上げ、セオングと目をあわす。

一瞬ぴたっと目が合い、止まる。

白く透けるような肌に赤い唇。黒いつややかな長い髪の目が魅力的な美人だ。

すぐにミジュのほうから焦り気味に目をそらし


「よろしくお願いします」


とにっこりと深く頭を下げた。そして出てゆこうとしたとき・・・


「君…どこかで会わなかったか??」


とセオングがたずねた。 なんとなく面影があの炎珠に似ているのだ。


「いいえ」


そう一言だけ言って部屋を出て行く。


部屋を出たミジュは驚きの表情を隠しきれない。

小さくほっと息をつくと、部屋を振り返り、もう一人の侍女の後をついていく。


「あの…セオング様はこの家のお坊ちゃまでいらっしゃいましたよね?」


少し年のいったその侍女は


「2番目の坊ちゃまよ」


そういいつつ、少しかわいそうなものを見る目で振り返る。その目は今出てきた部屋へと向けられている。


ここは離れ…屋敷の奥まった場所にあり、静かで…物置小屋でもおかしくないような簡素な場所だ。

とてもお坊ちゃまのお部屋になるような場所ではない。

何があるのかはわからないが事情があるようだ…一瞬気になったミジュだが自分にはやるべきことがある。


「あまり近づかないようにしなくては…」


小さくつぶやきその場を去る。



ここ李一族はハルラの山すそにあり、大昔から代々町の治安を守るほかに、ハルラ山を密かに守ってきた。ハルラ山の護り主、青龍のご加護で栄えてきた家だ。


ハルラ山を護る力というのを青龍から受け継ぐ。それは龍の器になるということ。龍自体を身体の中に取り込むのだ。

その器になれる者は必ず身体のどこかに印を持って生まれれる。

その事実は龍と龍の器しか知らない。それは各ボングファング、ホランギ、ヒョンムを護っている一族にも言える事だ。


なぜ四神がこの地を囲むように護っているのか、その中に何が隠されているのか。それは代々力を受け継ぐものにしか知らされない。


龍の器が誰であるか、そのほかの四神の秘密などを李家で探ること…それがミジュの今回の任務なのだ。


その日から、ことあるごとに色々な場所を探ろうとするが、なぜかその先々にセオングがいる。

少しずつあせりを感じるミジュ。探りを入れることができない。どうやらミジュを見張っているようだ。

ある日、わざとセオングの目の前に現れ、ぶつかって倒れこむ。

セオングがすっと手を差し出し、床に倒れこむのを支える。


「も…申し訳ありません。ありがとうございます」


よろよろとよろめきながらセオングの肩に倒れ掛かる。


「大丈夫か?」


落ち着いた低い声。

ミジュは顔を合わさぬように話しかける。


「あの…私…何かセオング様に失礼をしたのでしょうか?」


「え?」


「いつも私をにらんでいらっしゃいます」


それを聞いてどうすればいいかわからない表情を浮かべるセオング。


「いや…にらんでなど…ある人に似ている気がして見ていただけで…決してにらんでるわけじゃ…」


戸惑いぎみに答えるセオングに少し笑いを抑えるミジュ。


「私はセオング様にはこのお屋敷に来て初めてお会いしましたわ」


「…あ…いや…そう…だよな…すまない勘違いだ」


ばつが悪そうにそう答えるとその場を去って行った。


セオングはミジュという侍女のことが気になっていた。

炎珠に似ているからというものでもなく、もっと遠い昔出会った、あの宝珠という少女のことも思い出させる何かを感じていた。

しかしどこか宝珠とは違った影のようなものが宿っていた。目の奥にセオングと同じむなしさを感じるのだ。


セオングはあの日出会った少女のことを忘れてはいない。

懐から少し色あせた赤いリボンを取り出す。あの日、宝珠が枝に結んだリボンだった。

南のボングファングの麓に行くときには、いつもあの少女を探している。会ってどうするわけでもないのだが、気になるのだ。

小さな頃の苦しかった日々、母との思い出以外の優しい、美しい、思い出なのだ。


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