第一話
ここはソンスと呼ばれる都。
とても大きな都で、ここ何百年もの間平和に栄えている。四方を山に囲まれていて、守りがしやすく、外からの攻撃に強いためだ。
そして大昔から四神の伝説があり、各山に四神が住んでいて、このソンスの都を護っているというもので、人々はそれを信じ、朝に、晩に、山に向かって祈りをささげる。
東の山ハルラは青龍、南の山ボングファングは朱雀、西の山ホランギは白虎。北の山ヒョンムは玄武が護っているのだ。
イーテオンの都の東側に位置しているここハルラと呼ばれる山は、高くそびえ、豊かな緑がたたえられている。
今日は風が強く、木々がざわめきまだ緑色の葉が枝から離れ飛ばされていく。
ハルラ山の中、青年になったセオングが剣を握り、後ろを振り返りつつ走ってゆく。背が高く、やせてはいるが筋肉質でしなやかな身体つきをしている。
後ろからは何人か、黒尽くめの男たちが追ってくる。手馴れた攻撃で追い立てて遊んでいるよぷにも見える。
セオングは怪我をしているらしく左腕からは血が流れている。
矢が飛び交い、剣で払いつつ、すり抜けた矢が肩に刺さり、前にのめり倒れるが、すぐ体制を整え走る。
深く刺さった矢は、動くごとに痛み、そこから血が流れ出る。
気絶しそうな痛みをこらえ、必死に意識を保ちながら岩場まで来ると、大きな岩に身体を預ける。
すぐに3人の男に囲まれる。絶体絶命状態。囲んでいる男たちの輪が縮まり始める。
すでにもう限界は超えていた。動くことができず、男の剣がセオングのわき腹を貫く。とおのく意識のなか、目の前に白い影のようなものが男たちと青年の前に立ちふさがるのが見えた。
”新手の追手?”
そう思ったがもう意識を保ち続けることが出来ない。
”死ぬのか?…”
真っ暗な意識の底へと落ちてゆく。
この出来事の少し前・・・・・同じハルラ山だがもう少し山頂に近い所・・・
旅の途中の数人の剣士たちが、覆面をした男たちに囲まれている。このあたりの盗賊のようだ。
剣士たちが剣を抜き、戦い始める。
その中でもひときわ美しく舞うように戦っている一人の白い着物の男。小柄で色が白く美しい顔立ち。何人もの盗賊たちを、ほとんど一振りで相手を死に至らしめている。
かなりの腕のようだ。それが目にはいった盗賊の一人がその剣士の前に立つ。
大きな身体、もりもりの筋肉。力任せに剣を振り下ろす。白い着物の男はそれを受け止めようとするがあまりの力に剣がはじかれる。
何度か振り下ろされる剣を軽い身でかわし、剣が飛ばされた場所まで来て手に取り、振り返るとそこは崖のすぐそば。振り下ろされる剣をよけきれず右腕をかすめる。そのときバランスを崩し崖から落ちてしまう。
気がつくと、右腕からは少し血が出ていたが、落ちたところが枯れた草の折り重なったところらしく、数箇所打ち身のような痛みはあるが、ほかには何の傷もなかった。上を見上げると、今までいた場所はかなり上。追ってはこないだろう。
仲間とははぐれてしまったが、一人が心地いい。
はぁ〜
ため息のような安堵のような声をだし、枯れ草の上で大の字になる。空には白い雲が浮かんでいて、その下を大きな鳥がぐるぐるとまわっている。先ほどの研ぎ澄まされた緊張感とは打って変わった平和を感じる時間。
そのとき、人の気配を感じた。
”追手か?”
剣を左手に取り気配のするほうへ様子を伺いに行く。
そこで見たものは一人の男が黒ずくめの男たちに囲まれ腹を刺されているところだった。思わず剣を抜き割り込んでゆく……
セオングが気がつくとどこか岩場の洞窟の中のようなところ。
朦朧とした意識の中辺りを見回すと白い着物の男が目に入る。
はっとして剣を探す。
「動いてはだめだ」
そういいながら身体を押さえられる。
それを跳ね除け、飛び起きると近くにあった刀を抜き、男に切りかかる。
するとその男は鞘のついたままの刀で受け止める。
「動くな!!傷が開く」
刀をきりつけたままにらみ合う。とても綺麗な顔立ちをした男。細身で折れそうな身体で、力強く受け止めている。
どこにそんな力が隠されているのか・・・
「私は追手ではない。お願いだから刀を下ろしてくれないか?」
男がそう言うのと同時に傷が開いたのか、白い男の着物が血で染まり、また意識が遠のいていき、男の身体へと倒れこむ。
「まるで傷を負った獣だ。」
白い服の男はそうつぶやくと重い男の身体をまた横たえさせ傷口を塞ぐべく布を解き始める。
「…何をやっているんだろうか…わたしは…」
”縁もゆかりもない男を助け、追手と間違われ切り付けられそうになり…手当てをしているなんて…”