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だい十四話

次に炎珠が目を覚ましたときには、完全に10歳のころの宝珠に戻っていてそれ以降の記憶は残っていないようだった。

家族に囲まれ、とても幸せな笑顔をしている。

確かにあの小さな頃に出会った宝珠だ。

しかし時々襲ってくる発作が痛々しい。

ジョンウォンも婦人のレイレイも、長年行方不明だった娘が帰ってきたのだからとても嬉しそうだ。春欄も姉ができて嬉しいらしく、いつもそばをくっついて歩いている。

セオングはそれからも少しカナクの村にとどまり、時々l鳳フォン家を訪れていた。


「セオング兄様!!」


セオングが見えると満面の笑みで迎え入れてくれる宝珠。

宝珠も10年前のあの日のことは覚えていて、セオングのことを兄と慕っている。

8年間の記憶のない宝珠にとっては最近のことなのだ。

宝珠と話すごとに、炎珠やミジュが夢か幻だったかのように思える。

とても優しく純粋で、そばにいるだけで幸せに感じてしまう、あの日のままの宝珠。


ひとしきり3人で他愛もない話をしていたのだが、レイレイに呼ばれて春欄が出て行き、この部屋にはセオングと宝珠の2人きりになる。


「ふふ…」


ふいに宝珠がセオングを見て笑う。セオングがなぜ笑うのか?という顔をすると


「お兄様は私をいつもじっと私を見つめていますのよ。穴が開くのではないかと思うくらい」


宝珠の笑顔がすぐにふっと寂しそうな、すまなそうな顔に変わる。


「…炎珠さんのこと覚えてなくてごめんなさい。……お母様たちから聞きましたの。本当は…お兄様はその方にお会いしたいのでしょう?私を見ていてもずっと遠くを見ておられますもの」


ふいに炎珠の話を出され、ずばり核心をつかれたようでうろたえるセオング。


「な…何を…そんなことはない…」


下を向き、くすくすと笑いだす宝珠。


「…まだ十のお子様な宝珠とはいえ、目の前で自分の知らない女の事思われるのは嫌なんじゃないかな?」


声のトーンが下がり口調が変わる。炎珠だ。


「まさか!炎珠!!…もしかして…はじめから…?」


セオングはからかわれたようで、少し顔を赤らめながらむっとした表情になる。


「いや…ついさっきだよ。宝珠が目覚めた今、身体の主は宝珠だ。私は宝珠を護るためだけにいるのだから」


そういうと真剣な表情に変わる。


「早速だが私が出ていられるのはわずかだ。お願いがある。

宝珠を連れてここを出てほしい。この家の人たちが危ない…薬を使ってまで私はやつらの元に戻るようにされているんだ。定期的に帰らなければ探しにくる。いくら腕の立つ人達だとはいえここの人たちでは対抗できないだろう。それに朱雀が開放されたのはやつらにも感じられたはずだ。朱雀を取り戻すためならやつらはどんな手段でも使うだろう」


「やつら?」


「ファネル…ソンスの町、奥深くに眠っている魔の一部」


炎珠はその言葉を話すことがつらいようで、暗い表情をする。


「宝珠と朱雀の封印が解かれた今、あいつらはあせっているはず。朱雀を血の穢れによって宝珠の身体に封印し、宝珠にほかの四神の器を殺させ開放することによって自分たちが自由になろうと動いていたのだから…宝珠が取り込まれてしまったら、朱雀も私も手も足も出ない。この身体は朱雀の力ごと完全にあいつに支配されてしまうだろう。私だから…炎珠だから完全に支配されずに今までこれたのだ。」


「私…炎珠は、朱雀が宝珠の一部と朱雀の一部とを融合させてつくった。穢れと称してのファネルのあまりにもむごい仕打ちに、宝珠が壊れそうになっていたから。だから宝珠も共に封印して代わりに私がこの8年間を過ごした。セオング…宝珠を…頼む」


そういいながらセオングの手の上に自分の手を重ねる。


「炎珠…きみは…?」


セオングがそう聞くと”ふっ”と炎珠が笑った。次の瞬間、幼い宝珠の表情に戻り


「…あ…の…セオング兄様?」


宝珠は何があったのかわからずに戸惑い、至近距離で見つめあい重ねている手をみて、目をぱちくりとさせながら自分の手をぱっと離して顔を真っ赤にうつむく。


「…な…何をお話していましたかしら?お兄様?」


炎珠はいつも突然現れ突然消える。セオングは宝珠の顔を見て笑顔を作る。


「今すぐ一緒にハルラに行かないか?私の故郷でもあるし薬草がいっぱい取れる。君にあう薬もあるかもしれない」


宝珠は一瞬考えてから、何かを決めたように、にこっと笑い


「いいですわ。私、お兄様についてゆきます」


ちょうどレイレイが戻ってきて宝珠が話を進めてゆく。

ジョンウォンもレイレイも猛反対だ。それはそうだろう、やっと帰ってきた娘を病気の身でまた一人旅立たせるわけには行かない。

家族でという提案も断られると、怒りの矛先がセオングに向けられそうになり宝珠が


「お父様!お母様!!私…お兄様についてゆきたいんですの」


そういいながらセオングの腕を取りしがみつく。


「私…少し思い出しましたのよ。私とお兄様は…離れちゃいけないんですの。…ね…」 


そういいながらセオングに同意を求める。

何を言い出しているのか?これは宝珠なのか炎珠なのか?複雑だがこの流れに乗ってみるしかない。


「…すみません…お嬢様と一緒に行かせてください」


何を言ったのか自分でもよくわかっていないのかもしれない。

それからも大騒動で、婚約の儀式を済ませろだとか、結婚の儀式をするべきだと思わぬ方向へ話が行こうとしていたところを、宝珠が頑固に今すぐについて行くといってくれたおかげでハルラに行く許可をもらった。

レイレイが昔からこれと決めたことは言い出したら聞かない子だったと呆れ顔で見つめていた。

出発は準備もあり、明日の早朝に出ることにする。

それから夜遅く…宿を引き払うために一旦帰るセオングを宝珠が見送ってくれた。


「…兄様…炎珠さん…とお話したのでしょ?ここを早く出なさいって言われましたのね?…何かあるのでしょ?」


微笑みながら言う宝珠。


「…8年間…何があったのか私は覚えてはいませんが、身体は覚えているようですわ。胸騒ぎがしますの。此処に長居はできないって…本当について行ってよろしいのですか?お兄様にはご迷惑にならないようにしますから…」


セオングは宝珠の頭をポンポンとなでると


「迷惑なんかじゃないよ…私が誘ったのだ。道中は長い…早くお休み。明日の朝には迎えに来るから」


そういうと宝珠は素直に


「はい」


と答え、セオングが見えなくなるまで見送っていた。


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