第十三話
医者からもらった気休めの薬を飲ませると、少し呼吸が楽になり熱も下がってきた。
炎珠が目を覚ますと、レイレイは看病疲れか炎珠のそばで眠っていた。
炎珠はまだ体がふらつくのだが、レイレイを起こさないようにゆっくりとベッドを降り、服を着替え部屋を出て行く。
扉をそっと閉めると戸の後ろでセオングが壁にもたれて立っていた。
「どこに行くんだ?そんな身体で」
身体は悲鳴を上げているはずなのに無茶をしてわざと痛めつけているように見える。
そんな炎珠にため息とも呆れとも取れるような言い方。
炎珠は表情をひとつも変えずに、進行方向を向いたまま答える。
「お前には関係ない」
そのままセオングの横を通り過ぎ、出ていこうとした宝珠だが、立ち止まり、振り返ってセオングをキッとにらみつける。
「私に何をした」
怒りの篭った口調でセオングに向かい胸ぐらをつかむ。熱があるせいで頬が紅潮している。
「眠らせていたのに…あの子には耐えられなかった。自分が魔に穢れてゆくことは…だから…封印していたのに!!」
とても悔しそうにセオングをにらむ。
「あの子??」
あの子とは誰なのかを聞こうとした時
「宝珠?…?」
扉が開きレイレイが炎珠を見る。
一瞬レイレイを見て泣きそうな顔になり、顔をそらしてその場を走り去ろうとするが、セオングに腕をつかまれる。
「はなせ!…帰らなきゃ…帰らなきゃいけないんだ!」
振りほどこうと暴れる炎珠。セオングは掴んだ手を離そうとはしない。
「はなせ!!帰らなければ…皆さんにご迷惑がかかってしまいますわ。」
不安定な表情、声のトーンが変わってくる。
鋭い視線の炎珠から幼い表情へとくるくると変化する。
「宝珠!宝珠!あなたは宝珠なのでしょう??」
レイレイが泣きながら暴れる炎珠の後ろへ抱きつく。
一瞬凍りつく炎珠。
「ち…がう・・・違う!」
再び激しく暴れだし、レイレイは跳ね飛ばされ床に倒れこむ。
どうしても帰るんだと暴れる炎珠を仕方なく当身で眠らせ、騒動に駆けつけたジョンウォンに8年前、宝珠という娘が誘拐されたこと、それがどうやら炎珠のようだという事、長年の薬のせいで発作を起こしていたのだということを聞く。
あどけない顔をして眠る宝珠。8年の間にいったい何があったのか。
宝珠という名前を聞きセオングは懐から赤いリボンを取り出す。
ハラ・・・・とリボンが床へと落ちる。少し色あせたリボン。レイレイがそれを拾い上げセオングに手渡そうとしてまじまじと見つめる。
「小さな頃…宝珠がこのような赤いリボンを頭に結んでいましたのよ。とても気に入っていて…そういえばいつの頃か誰かにあげたとかなくしたとか…」
レイレイはそういいながらセオングにリボンを手渡す。
セオングは ふっ と口の端を上げにっこりと笑い
「ええ…たぶんそのお嬢様のリボンです。本土から来られたときボンファングを見渡す原っぱで休憩されたでしょう?そのときにお嬢様が行方不明になりませんでしたか?」
「…そのとき私は出会ったんです」
懐かしい思い出。その子の周りだけのんびりとした時間が流れているような、幸せで平和の塊のような少女宝珠。
しかし、その少女と、諸刃の剣のような危なさを秘めている炎珠では、どうやっても結びつかない。
あの子を封印…とは?朱雀の封印とは?炎珠とは宝珠とは何者なのか?
懐かしい少女に再会し、うれしいはずなのだがセオングは複雑な気持ちだった。