第九話
・・・・・・・8年前・・・・・・・
宝珠たちがボンファングのふもとに引っ越して来て2年の月日がたとうとしていた。
宝珠が10歳の誕生日を迎えた日のこと。
祝いの席が終わり、祖父と一緒にいつもの話を聞きに、祖父の部屋にいた。
その日の祖父は、いつになくまじまじと宝珠を見つめ、愛おしそうに頭をなで、話始めた。
「朱雀の器の話覚えておるか?」
「もちろんですわ。それにちゃんと約束も護って、誰にも話してませんのよ。小さな春欄にも。」
そういいながら微笑んで祖父を見つめる。
「そうか…」
宝珠がかわいくて仕方がないのだろう、ずっと微笑んでいる。
「今日は器の交代の話だ」
穏やかに落ち着いた調子で話していく。
「器は天寿を全うする時に、次の器に朱雀を手渡すのだ。次の器となるものの身体にはしるしがあってな。宝珠には胸に鳥の羽のようなあざがあるだろう?それがしるしなのだよ」
「わたし?私のことですの?」
びっくりする宝珠。
「すまないな…もう時間がなくてな…長く話をすることはできんようじゃ。朱雀の器の話は次の器が出てくるまで内緒じゃぞ。お前が結婚して子供を生んでそのまた子供ができてその子に何かしるしがあるはずじゃ…」
祖父の息遣いが荒くなってくる。苦しそうだ。
「おじい様…大丈夫ですの?だれか!!」
祖父の様子を心配して人を呼ぼうと大きな声を出す。
それをさえぎり真剣な面持ちで宝珠の瞳を覗き込む。
「これから何があっても驚くでないぞ。朱雀が完全に中に入るまでじっとしているのじゃ。わかったか?」
そういうと祖父は手を胸に当て目を瞑る。
祖父の胸から炎のような光が漏れる。その炎は翼を広げゆっくりとそのまま祖父の身体から出て宝珠の胸に入り込んでゆく。
身体に衝動を感じ、のけぞる宝珠。
「!!っぁ!!」
自分の身体が破裂するのではないかと思うくらい膨張しているような感覚。全身が炎で包まれ燃えてしまうかのように熱い。すべての朱雀のエネルギーが宝珠に入り込むと祖父は倒れてしまう。
「おじいさま!」
自分の体がまだ熱く燃え、粉々に砕けそうな身体を自分で押さえながら、倒れた祖父によろよろとひざまずき起こそうとする。
すでに力なく息をしていない。
「おじいさま!!」
倒れそうになりながら部屋を出て必死に壁を伝い、祖父の助けを求めに母たちのいる広間に向かおうとする。
「だれか・・・だれか!!」
必死に叫ぼうとするが体が熱く意識も朦朧としかけていて声も出ていない。
宝珠があせり動いているせいで朱雀が完全に同化できなくて赤い炎が宝珠からもれている。
侍従が宝珠を見つけ触ろうとするが熱くて触れない。
ふと空から黒い煙のようなものが降りてくる。
その煙は形をとり始め、人の形になる。
侍従はそれを見てひざまずき挨拶をする。
「ファネル様!この子供が朱雀の器です!」
そのとたんファネルと呼ばれた人型を取っているものはにやりと笑い
「ご苦労…」
というと侍従の首を刎ね、その首を持ち宝珠に血をかける。
滴り落ちる血が宝珠の顔から身体からを染めてゆく。
「はぅっ…」
とたんに朱雀が黒く染まり、燃え盛る火のように揺らめいていたものが固まり凝縮し、いきなり宝珠の中に入った。
一瞬の出来事に、何が起こったのかわからない宝珠。一点を見つめ気を失い倒れる宝珠。
ファネルは宝珠の体を軽々と持ち上げ闇の中へと消えてゆく。
「きゃぁぁぁ〜」
死体を見た侍女の叫び声で、ジョンウォンもレイレイも声のするほうへと走る。
侍従が首を切られて殺され、レイレイの父が死んでいた。
そして祖父と一緒にいるはずの宝珠の姿がなくなっていた。
ジョンウォンはパオロンに屋敷の警戒態勢を取らせ、まだいるかもしれない賊に家族を守るためレイレイと春欄を警護のできる部屋へと連れて行く。
レイレイは狂ったように宝珠の名を叫び屋敷のなかを探そうとする。
悲しい母の叫びがいつまでも屋敷の中に響いていた。
それから方々手を尽くし、探し回ったが宝珠を見つけることはできなかった