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プロローグ

プロローグ


後ろにはボンファングの山、ここはその山を見渡す広い原っぱ。

少女が所々に咲いている花を摘んでいる。


「宝珠!!宝珠!!あまり遠くには行かないでね。」


木々の茂った木陰で少女の両親だろうか…旅の途中と見られる一行が休んでいる。

母親の腕には赤ん坊が抱えられすやすやと眠っている。

父親はその隣で従者にこれからの指示を出しながら水を飲んでいる。


宝珠と呼ばれたその女の子は8歳くらいだろうか…白く透き通る肌に赤みの差した健康的な頬、長い髪を一房後ろに赤いリボンで結んでいる。

すぐそばには侍女が花を入れるためのかごを抱えている。

その侍女も出発の準備に呼ばれいなくなってしまった。


それからしばらくたっただろうか花を摘みながら歩いて行くうち少し遠くまで来たようだ。山を見渡す原っぱの反対側の道に出てしまったのだ。

ここは故郷と違い、宝珠の見たことのない花が咲いているので珍しさと母親を喜ばせたいの一心だった。

もう両親の姿は見えない。それでも少しも不安な顔を見せずまだまだ先へと歩いてゆく。手には山のように花を抱えて。


そのうち大きなお屋敷が木々の向こうのほうに見えてくる。

ボンファングを見渡す原っぱはもうまったく見えない。


わぁぁ〜〜 


屋敷の方で声がする。どうやら子供たちの声だ。少女は興味に駆られ少し小走りになって声のするほうへと向かう。

すると剣の練習だろうか…子供たちが棒を持ち振り回しながら10歳くらいの一人の男の子に飛び掛ってゆく姿が見えた。

その男の子は転び傷だらけになりながらも何度も立ち向かっていく。その一撃が年上の男の子のほほをかすめ傷をつける。

痛みにほほをぬぐいその血を見て男の子が叫ぶ


「生意気だぞ!!妾の子のくせに!!」


その言葉を投げかけられた男の子はキッと睨みつけ棒を握り締め構える。


「ホジュ兄様!!やっつけてしまいましょう!!」


宝珠と同じ年くらいの女の子が言い出す。

すると何人かの男の子たちとその女の子が円陣を組み一人の子を囲む。

そのときだった…

どこからともなく花が空から降ってくる。

みんなの気が一瞬空中を舞うその花へと向かったとき…


「喧嘩はいけませんわ」


円陣の真ん中、囲まれている男の子の前にいつの間にか宝珠が立っている。

そして一人ひとりに花を手渡してゆく…


「お花は心を和らげてくれますわ。どうぞこの花に免じて今日は終わりになさいません?」


最後に驚きはしているがまだぎゅっと拳を握ったままの男の子の手を取り


「はい、あなたもどうぞ」


と満面の笑みで手渡す。

あっけに取られて宝珠を見るみんな。

完全に毒気を抜かれた。

続けて宝珠はいじめの中心であろう、先ほどホジュ兄様と呼ばれていた男の子に向かって


「いつも私の父上はおっしゃっておりますわ。優しさこそが真の強さなのだと。そう思いません?」


すっかり毒気を抜かれてしまっているその男の子は少し咳払いをし


「帰るぞ!!」


と一言のこし、去っていく・・・その後ろをついてゆく子分のような男の子たち。


「ホジュ兄様ったら!!」


後ろを振り返りぶつぶつと文句を言いながらついてゆく女の子。


子供たちが去ったあとには剣を握りしめたままの少年。


「大丈夫ですか?」


宝珠が少年に声をかけながら、顔中に残る傷と手の傷を見て、自分の服をびりびりと破り血をぬぐおうと手をほほに近づける。とたんに少年は大きな目を見開き、びっくりして後ろへよける。

そんな態度にも気にすることなく


「傷の手当をしますわ」


と言いながらにっこりと笑う。


「お前にそんな事をしてもらういわれはない…第一お前はどこの誰だ??」


突然現れてマイペースで進めていく宝珠をにらみつける。

宝珠はそういわれはっとした顔をして


「忘れていましたわ。私は宝珠。お父様たちと一緒にボンファングのふもとのお爺様のもとまで旅をしてきましたの。…傷の手当をしてもよろしいでしょうか?」


まっすぐと少年の目を見つめ少し頭を傾ける。見た目の年に似合わずかなり丁寧な言葉使いをする子だ。

じっとまっすぐ見つめる宝珠の目はまぶしくてすぐに目をそらす。


「自分でする…」


と自分の袖でほほをぬぐい着物の裾で手の血をぬぐう。


「ちゃんと手当てをしなきゃ…小さな怪我を侮ってはいけませんのよ」


宝珠は少年のほほと手の血を拭き、土を払い、もう一回新しく服を破り少しかがんで手に巻き始める。


「そういうお兄様のお名前は?」


視線は慣れた手つきで、するすると巻く布を眺めつつ


「……セオング…」


そう一言だけつぶやく。


「セオングお兄様ですのね。…はい、できましたわ。」


包帯を巻いた手を握りセオングを見つめにっこりと微笑む。が・・・傾いた日を見てようやく両親のことを思い出した。


「あ…いけない…そろそろ帰らなきゃ。お父様たちきっと探してるわ。…じゃ…失礼いたしますわ。」


そういって立ち上がり


「…あ…先ほどの人たち…相手にしてしまうと同レベルですわ。冷静に観察し見極め普段から戦術を練って一矢報いる。・・・じつは私はまだ小さくてその意味はわからないのだけれど…」


にこっとしながらそういう宝珠。

宝珠の父親は相当な剣術使いなのだろう。小さな子にここまで教え込んでいるとは。

セオングは宝珠を見る。のほほんとした幸せいっぱいの平和の塊のような少女。言葉使いが育ちのよさを感じさせる。


「どこへ帰る?」


ぶっきらぼうに聞く。

宝珠はにっこりと笑い


「よくわかりませんの」


と答える。


「この場所に来る前はボンファングを見渡す原っぱで旅の途中の休憩を取っていましたの」


そう答えるとセオングは少し考え眉をひそめ少し目を大きくした。


「ここから十キロはあるぞ…」


そして宝珠はにっこりと笑顔で


「あらそうですの?…お母様と妹にお花を摘んで喜んでもらおうと思ってちょっと遠くにきすぎてしまいましたわ。」


と答える。


「ちょっと待っててくれないか…馬で送るよ」


そういうと宝珠の答えも聞かず屋敷のほうへと駆け出す。ちょっと走って端に大輪の花が咲いているのが見えた。

その花を摘むと宝珠のほうへともう一度駆け寄りつっけんどんに目の前に差し出す。


「…その…摘んだ花を全部ばら撒いたから。」


目の前に大きな花を差し出され、少しびっくりした目をしながら宝珠は花を見つめ受け取る。そしてその表情は笑顔へと変わってゆく。大人の中で育った宝珠にはこんなプレゼントのされ方は新鮮で心の中に何かふわっとしたものが広がってゆくのだった。


「ありがとうお兄様」


その言葉を聞くか聞かないかのうちに、セオングはもと来た方へと走ってゆく。


セオングといれ変わるように父の部下がやっと探し当てた安堵感からか馬から飛び降りながら笑顔で駆け寄り


「宝珠様!!」


と呼びながら抱きかかえる。宝珠が小さな赤ちゃんの頃からまるでお兄さんのように優しくかわいがってくれているパオロンだ。


「パオロン!!」


「心配いたしました…こんなところまで…」


「ごめんなさい。でもとても楽しかったわ。お友達・・・お兄様もできましたしお花までいただきましたのよ」


満面の笑みをたたえて少し興奮気味に宝珠が報告する。


「本当に困ったお方だ。ご主人様が女の子にしておくのはもったいないとよく言われるわけがわかります。」


ため息混じりだが、表情はなぜかうれしそうなパオロンだった。


「さあご主人様のもとへ帰りましょう。心配しておられます。」


「でも・・・セオングお兄様が送ってくださると・・・」


少し困った顔をして宝珠が答える。


「早く帰らねば日が暮れるまでにお屋敷につけませぬ」


少しの間考えて思い立ったように笑顔でパオロンに向かって


「ちょっとまってて・・・」


そういうと先ほどセオングの手当てをした木の下に行き髪を縛っていたリボンを解き木の枝に結びつける。


「お花をありがとうセオング兄様・・・またきっとお会いできますわ。」


そうつぶやくと後ろのほうからパオロンが急ぐように木の下まで来て宝珠を馬に乗せ、自分もまたがり去っていく。


セオングが馬に乗りもどるとそこには誰もいなく、傾きかけた日がまぶしく光るだけだった。

ふと先ほどまで宝珠がいた場所を見ると、木の枝にひらひらと赤いものがひらめいている。


「あれは…」


馬に乗ったままでリボンを解き手に取るとそれは宝珠の髪でひらめいていたリボンだった。


「…まだ傷の手当の礼も言ってない…」


セオングは追いかけようと馬のたずなをしめた…がそれを緩め屋敷のほうへと馬を引き戻す。

なぜかまた会えるような・・・いつかどこかで何度も出会う…そんな気がしたのだった。

リボンを簡単にたたむと懐に入れ馬の腹を蹴りスピードをあげる。

懐に手を当てたままのセオングの顔には少し笑顔がこぼれていた。


そして10年の歳月を経て二人は再び出会う。

ゆっくりとゆっくりと運命の歯車は回り始める。


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