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額もなく、縁もなく  作者: 東東
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 ──『ぴーす』と書かれた文字が、掲げられている。



 大通りから一本どころか二本ほど裏に入ったような、細くてあまり人気がない、周りには人が住んでいるのかいないのか微妙な一軒家、もしくは空き地があるだけの場所に、この店は建っていた。

 薄汚れているわけではないけれど、立地の所為なのか何なのか、何となく、影が差していそうな印象を与える店だが、実際には本当に日の光が差さない、薄暗い店、というわけではない。

 一般的に日が当たる時間帯なら、ちゃんと店先を日が照らしていて、一応、明るいのだ。

 そしてその明るい店先の硝子が填め込まれたそこは、何も考えずに通り過ぎる人の視界の端に入っただけだと、一見、当たり障りのない絵画が飾られているように見える。少し興味を持って近づいてじっくり見てもらえれば、それが絵ではないことはすぐに分かるのだが。

 この店・・・、俺が祖父から継いだ店は、美的センスがほぼ壊滅的な俺が継いだだけあって、滅多に人が来ない画廊とかではないのだ。


 ここは、ジグソーパズルの店だった。


 ジグソーパズル専門店、『ぴーす』・・・、何かの誤解が生まれそうな、でもある意味、誤解でもなさそうな名前が、この店の名前だ。

 祖父が始めた、つまり祖父が決めた店の名前。

 生まれる可能性がある誤解の種類は二種類で、カタカナ変換を忘れたのだろうという誤解と、平和を主張している謎の店という誤解だ。

 ジグソーパズルなんて平和の極みだと思えなくもないので、後者の誤解は間違いでもないのかもしれない、と思ってみたりもするのだが、ここはお店です、という主張であるはずの看板が、主義主張の方の主張だと思われてしまうのなら、やっぱり誤解を招いていると言えるのではないのかと思えるわけで・・・。

 なんでこんな名前にしたのだろうと、実は幼少期よりずっとずっと抱いている思いなわけで。


 でも、その問いを一度として発しないまま時は過ぎ、店主であった祖父は亡くなってしまった。


 そして残されたこの店と、店の商品である無数のジグソーパズルと、その他諸々をどうするのかという親族会議があった際、今となっては話の流れが分からないまま、俺が継ぐことになってしまったのだ。

 勿論、流れは分からなくても、そこに何らかの俺の意思があったことは確かだろうけど。

 ただそれでも、『只今、無職でございます』という主張をした、その一点以外の流れは全く思い出せないまま、まだ二十代前半という若い身空でありながら、一国一城の主となっている今日この頃。



 もう二度と店の名前の由来さえ問い質せないまま、今日も俺はぼんやり、カウンターの裏に座っている。

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