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三題噺 「うまい棒・中毒・花粉」

作者: 雄獅瑠琥姫

サァァァァと春の香りがする風が吹き抜けていく。


「覚悟は出来てんだろうな…」

「ああ、もちもんだとも…」


2人の少年は互いに見合って対峙している。


「どうしてこうなったんだろうな、タダスケ…」


よく外で遊んでいるからか、肌が小麦色に焼けていている。半ズボンから出ている脹脛が立派についているのはサッカークラブに入っているからだろう。よほど努力をしているようにうかがえる。


「知らんよ、そんなこと…。さっさと決着をつけようぜ、カイ…」


スポーツ刈りのタダスケと呼ばれた少年は、少年野球チームのエースとして有名人である。

両者ともに右手を握り締め、その手を後ろに引いていく。

その2人を端っこでマスクをしている少年が見ていた。


「くしゅんっ」

少年のそのくしゃみを合図にタダスケとカイは引いていた手を突き出したーーーーー


************************************************


サァァァァと春の香りがする風が吹き抜けていく。


「くしゅんっ」

「おい、女みてぇなくしゃみすんな」


春香る風は陽気なものだけでなく厄介な奴まで一緒に連れてきてしまう。


「しょうがないじゃないか?今年はよく飛んでるってテレビで言ってたから」

「花粉症の方は辛そうですね〜、俺らはそうじゃなくてよかったな」


タダスケとカイは初めての花粉症で苦しんでいるタイシに向かってイジワル言ったが、タイシはさも気になどしていないかのようにいつものようにボーっとしていた。

タダスケとカイは決してタイシをいじめているわけではない。小学6年の彼らはよく3人で遊んでおり、タイシは普段から言葉を出すことは少ない。


「……鼻が痒い…」


決して喋れないわけではないが。


「そういや、今日は新しいウマイ棒の発売日だったよな…。食べてみようぜ!」

「そうなのか?じゃあさタダスケ、タイシ、これから駄菓子屋のおばあちゃんのところに行こうよ」


3月中ば、もうすぐで中学へ進学する。そんな彼らは午前中に授業が終わり、午後を何かしらで遊んでいる。


「これからか…」


タダスケは首をかしげ、ある提案をした。


「一旦帰ってからにしないか?そっちの方がラクだろよ」

「そんなんじゃ売り切れちゃうよ」

「そんなこと言ったって、俺金ねぇーし…」


愚図っているタダスケを横目にスッとタイシがポケットから何かを取り出した。


「そっ、それは……!」

「じゅ、10円じゃねえか。しかも、4枚もある」

「な、なぁ…、タイシ…?これでさ…」


カイは猫なで声でタイシに申し出た。


「俺らに買ってくれまいだろうか…」


するとタダスケも続けてタイシに申し出た。

タイシは、スッと出した40円を巻き戻しのようにポケットに戻そうとした。


「あああ!待った!!!」


カイが静止させるために慌てて声を出した。


「今度きちんと返すからよ、な?」


タダスケはタイシの肩を組み、再度頼んだ。


「………」


永遠のように感じられる短い沈黙の中、カイとタダスケはタイシの顔を覗き込んで顔色を伺った。するとタイシはプッと笑いこう言った。


「……冗談。行こう………」


そうして、スタスタと先を歩いて行った。


「おどかさないでくれよ〜」

「全くだぜ…」


少しばかり惚けていた2人だが、すぐに我にかえってタイシのもとに駆け足で追った。

彼らが向かっている駄菓子屋は近年ではなかなかお目にかかることが難しい、昭和を思わせる造りになっている。


店に並んでいる商品も大人が懐かしむようなものから最近のものまで取り扱っている。そのため、利用者はほとんどが子どもなのだが、中には懐かしむかのように昭和生まれの人やご老人たちも来店するほど人気がある。


「おばあちゃん、こんにちは〜」

「ちぃーっす」


カイ、タダスケは挨拶をしタイシはぺこりと頭を下げて挨拶をした。


「はい、こんにちは。カイ君、タダスケ君、タイシ君」

「新しいウマイ棒ってどこにあります?」

「それなら、ほれ。あそこだよ」


おばあちゃんが指差したところには「新発売!中毒になるほどウマイ!」と書かれたポップがケースに貼られていた。


「なか…どく…?なぁ、なかどくってなんだ、カイ?」

「ちゅうどく!えっと、毒のせいで体に悪い影響があること、だったっけ…。このときは一度食べたらやめられないほど美味しいってことだね。もうすぐ中学生なんだから、ちゃんと勉強した方がいいよ」

エヘヘ〜、と苦笑いをし誤魔化した。


タイシは残っていた1本10円のウマイ棒を4本全てを買った。


「はい、ちょうどいただきます」


タイシたち新発売のウマイ棒を持って、いつも遊んでいる公園に行った。


「早速食べようぜ!どんな味がすんだろ…」

「まあまあ、落ち着けって。別にウマイ棒は逃げないから」


ん、とタイシは1本ずつ2人に渡した。


「では…」

「いただきます…」


カイとタダスケは丁寧に袋を開け、同時に一口食べた。

タイシはハムスターを彷彿させる食べ方をしていた。


順調に短くなっているタイシのウマイ棒とは違い、カイとタダスケのウマイ棒は一口食べた時のままで2人は止まっていた。しかし、突然動き出し残り全部を頬張った。


「んっっっっっまぁぁぁぁぁぁ…!!!!!!」


数秒間、タイシの食べる音だけが響いていたが、2人の叫び声がその沈黙を破った。叫び声は空高く鳴り、どこまでも飛んでいった。


「なんじゃこの味!!」

「旨すぎでしょ!!」


2人はまたも叫びながら立ち上がった。

一方タイシは、特に変わった様子は見てとれない。ただ黙々と食べ続けている。

ウマイ棒の美味しさを数分間語っていたが、カイがあることに気がついた。


「あれ?」

「ん、どうした?」

「もう一個、余ってるよな…」


この一言で場の空気が凍るように静まりかえった。


「わかっているかタダスケよ…」

「わかってるさ…」


カイとタダスケの2人は公園の中央に移動し、対峙した。


「いざ、尋常に勝負!」


同時に叫んだ後、同時に腕を体の側面に引いた。


「ひくなら今だぞ?」

「バカなこと言うんじゃねぇよ…」


再びの沈黙が訪れた。

サァァァァと風が吹き抜けていく。


「覚悟は出来てんだろうな…」

「ああ、もちもんだとも…」


聞こえてくるのはサクサクという咀嚼音と通り抜ける風の音だけである。


「どうしてこうなったんだろうな、タダスケ…」

「知らんよ、そんなこと…。さっさと決着をつけようぜ、カイ…」


今度は静寂だけが残された。

タイシは2人の行動をただただ眺めていた。


「くしゅん」


タイシの女のようなくしゃみを合図に2人が同時に腕を突き出した。


「じゃんけんぽん!」


掛け声と共に両者グーを出した。


「なかなかやるな…」

「お前もな…」


あいこだったので、再び腕を体の側面に引いた。すると公園の隅の方からカサ、サクサク、という音が聞こえてきた。


「さぁ、続きを…っておい!」


カイは4本目をサクサクと食べているタイシに向かって言った。


「これは、僕が、買った」

「喋るか食べるかどちらかにしなさい!てか、なんで食った!?」

「僕が、買った、から…。それに、鼻がつまってたから、さっきの味、わからなっかた…」


コクンとすりつぶしたウマイ棒を飲み込み、言い放った。


「…そ、そっか……」

「買ってもらったんだから…文句は筋違い、だね…」


そう無理矢理2人は納得した。


「うん、おいし…」

おちゃらけた、ただのSSです。

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