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愛を凍らせて  作者: かなえ
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「人間がクール化したらすぐに殺害をすることが規則ですがなぜ、檻に?」


無表情に冷たく言うカイト様に神官長さまがたじろいだ。

今まで優しげな雰囲気を出していただけに、神官長もキハルさんもカイト様から少し距離をおく。

私は腕をつかまれたままなので彼から離れることは出来なかった。


「あれは、私の息子なのです。どうか、あなたの力で太陽の神官さま」


祈るように私に頭を下げて近づいてくるのをカイト様が乱暴に押し返した。

カイト様に突き飛ばされた形になった神官長は転びはしなかったが2,3歩よろけて牢屋の鉄格子に手を付く。

ソレを狙っていたようにクールが神官長の洋服を掴んで乱暴に持ち上げた。

唸り声をあげながら神官長の服を掴んで鉄格子ごしに持ち上げ今にも殺してしまいそうなクール。

形は人間だが、顔はすでに原型をとどめては居ない。細い触角のようなものが顔全体に巻かれており、口だけがかろうじて見えている。


「デット。父さんだ!手を離してくれ。お前を元に戻してくれるお方を連れてきたぞ」


目に涙を浮かべながら訴える神官長の言葉も聞き入れず、クールの手はますます乱暴になり、神官長を檻に何度も打ちつけた。

ガタガタと打ち付けられた勢いで檻が音を立てて外れる。


「檻が壊れたわ!」


巫女の一人が叫ぶと、彼女達から悲鳴が上がった。

「早く外へ」

一人ついてきていた騎士が巫女達を誘導し始めたが、戻る通路が狭いため混乱した彼女達は押し合いながらうまく逃げれないようだ。

クールは神官長を投げ捨てて走りだし、カイト様の背に庇われる私たちにには見向きもせずに巫女の一人を捕まえた。


「いやぁ!」


捕まえられた巫女はミカさんだ。

恐怖に顔をゆがませてなんとか逃れようとするが両手で捕まえられ持ち上げられた。

そのままクールの顔の触覚のようなものがミカさんに襲い掛かる。


「ダメよ!やめて!」

彼女はこれから結婚をしようとしている、幸せいっぱいなのにここで死ぬなんてあんまりだ。

私はカイト様の手を振りほどいてミカさんのもとへと走った。


「アイリ!」

カイト様の声が聞こえるが、ミカさんが殺されるかもしれないのをただ見ていることは出来ない。


「ミカさんを離しなさい!」


ミカさんを掴んでるクールの腕を掴んで離そうとするがピクリともしない。


「アイリ様!危ないですわ」


巫女たちが悲鳴をあげながらも私に声をかけてくれるがミカさんが傷つけられるのを黙ってみているわけにはいかない。

なんとかクールの腕にしがみ付くが、後ろからカイト様に抱き上げられた。

左手で器用に私をしっかりと抱きなおすと右手でもっていた剣でクールに斬りつけるが触覚のようなものではじかれた。

クールは今の一撃で機嫌を損ねたのか持ち上げていたミカさんを顔から出ている触角のようなもので襲い掛かろうとしている。


「ダメよ!やめて!」

叫ぶ私にカイト様の私を掴んでいる手はますます強くなり身動きが取れない。


「お願い、ミカさんを助けて!彼女は死んではいけないのよ!」


叫ぶと、体の奥が熱くなり一瞬で体の力が抜けた。




「アイリ!」


懐かしい人の声がする。


「アイリ!」


私を気遣う懐かしい声。愛しい人の、低く優しい声。

懐かしい。


誰だっけ・・・。


真っ暗な闇の中に聞こえる声に意識が浮上する。

誰かが私の頬を優しく撫でている感覚に慌てて目を開けた。


「わっ!」


紫色の綺麗な瞳が心配そうに私を覗き込んでいる。

あまりにも近い距離に驚いて離れようとするが体が動かない。

カイト様が私を横抱きにして抱え注意深く私を見ている。

恥ずかしい、なにこの状況。


「あっ、そういえばクールは? ミカさんは?・・・イタッ!」


クールが暴れていたはずなのに妙にシンとした空間に私の声が響く。

立ち上がろうとすると急激に頭痛と吐き気に立てずにカイト様の腕の中へ。


「覚えておられないのですか?」

カイト様の背後からミカさんが青い顔をして心配そうに覗き込んできた。


「よかった無事だったんですね」


痛む頭を抑えながら、大きな怪我をした様子も無いミカさんにほっとして声を掛けると地面に膝を付いて頭を下げ始めた。



「太陽の神官アイリ様のおかげです。ありがとうございます」

「私はなにも・・・」

否定しようとするとミカさんがゆっくりと首をふった。


「貴方から光が出て、クールがその光に影響されたのか力が弱くなりそのまま息絶えました」

「え?そんなの・・・何かのまちがいじゃ・・・」

「いいえ。間違いなど!アイリ様のお力です。ありがとうございます」

感謝の目で見てくるミカさんに戸惑っているとカイト様が小さくため息をついた。

「・・・・もう言い訳できないね」


呟くように言ってカイト様は私を抱えて立ちあがる。

「あの、下ろしてください。多分歩けます」


原因不明の頭痛と、吐き気は酷かったが、こんな美しい人に抱えられるとか恥ずかしすぎるのでお断りしたい。

暴れる私に、カイト様は一つため息をついた。


「歩けないよね。ここまでの力を使ったら」

「はぁ?」


まるで全部知っているかのような言い方。

カイト様に運ばれながら神官長のおじさんが座り込んでいるのが見えた。

白い布が掛けられている傍らに膝を付いてうな垂れている。

まさかあれはクールになった息子だろうか。

みんなが言うように覚えてはいないが、私の力でクールを倒してしまったのだろうか。


不安になってカイト様の服を握ると、彼はまた、ため息を付いた。


「大丈夫。アイリは彼を救ったよ」

救った? でも死んでいるじゃない。


私の心の呟きがわかるのか、カイト様は私を抱く腕に力をこめた。


「・・・人間として終われたんだ。彼は感謝していたよ」


カイト様がそう言うならそうなのかもしれない。

それならばいいかな。

私は頷いて吐き気と頭痛、そして急激な疲労からかまぶたが重くなる。


「目を開けているのも辛いだろう?少し休めばよくなるよ」


カイト様の声に私は頷いてそのまま意識を手放した。








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