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愛を凍らせて  作者: かなえ
8/24

「とてもお疲れですわね」


朝一番、にエウラの一言に私は頷いた。

あれから三日間太陽の神官として最低限必要な祈りの言葉を暗記したのだがら朝から顔も疲れているだろう。

昨日も遅くまで暗記をさせられた。

なぜなら今日は、他の神殿に太陽の神官として挨拶に行くからだ。


「私、物覚えが悪くて・・・。キハルさんにもあきれられるほどなのよ。でもなんとか覚えたから今日は大丈夫・・だとおもう。」

「朝からお疲れのようですのでこれを。我が家に伝わる秘伝の元気になる飲み物ですわ。一気に飲んでください」


力なく笑う私にエウラは心配そうに緑色の飲み物を渡してくる。

青臭くてニンニクやらの匂いが鼻をついて思わず顔をしかめる。


「飲んでくださいって・・凄く臭くて飲めないわよ」

「一気に飲むんですよ。こうやって鼻をつまんで」


エウラは私の鼻をつかむと一気に緑色の液体を私の口に押し込まれ一気に飲み干すが器官にも入り咳き込こんだ。

「なんてことするのよ!」

咳き込みながらもなんとかエウラに抗議をするが彼女はニコニコと笑ったままだ。


「もう少ししたら私に感謝しますわよ。凄い元気になりますから」


口の中に残る青臭さと臭みにエウラに文句を言おうとおもったが彼女は私のためにしてくれたことだ。

ため息を一つついて青臭さを消すために水を飲んだら幾分楽になった気がする。


それから急いで支度をしてキハルさん迎えの元集合場所へと向かうと私が最後だったようで整列をして待機していた青い隊服を着た騎士の人たちの視線が痛かった。



「すいません。遅れたようで・・・」


待っていた人たちに頭を下げると何処から現われたのかカイト様がにこやかに答えてくれる。


「いえ、まだ時間より早いからお気になさらず」


今日も長い金髪を三つ網にして前に垂らしている騎士にしては長すぎる髪の毛だがそれでも美しいカイト様。

紫色の瞳に見つめられるだけで鼓動が早くなる気がする。


「今日は少し遠い神殿まで向かいますのでその間の警護班の隊長としてそして、月の神官としても同行しますのでどうぞよろしく」

そういってニッコリ笑うカイト様の姿に黄色い声が飛ぶ。

私と同じような白いワンピースを着た女の子数人がカイト様を見て盛り上がっているようだ。


「彼女達は太陽の神殿の巫女達です。5名ほど本日は同行いたします」

私の視線に気づいたのかキハルさんが教えてくれた。


一応挨拶ぐらいしておかねばと思い、巫女さんたちの前に行き軽く頭を下げる。


「あの、何も判らない不束者ですが、どうぞよろしくお願いします」

彼女達が私を見て微妙な雰囲気で頭を下さげた。

多分、何も知らないくせにぽっと出の女がずっと不在だった太陽の神官になったら誰だって歓迎はできないだろう。

彼女達もあわよくば太陽の神官になれればと思いこの巫女に立候補して勉強をしてきたのだろうから。


私たちの微妙な様子に気づいたのかカイト様が私の肩に手を載せて巫女さんたちにニッコリと笑った。


「アイリはきっとすぐに太陽の神官を辞させられるから、そんなに畏まらなくてもいいんじゃないかな」

彼の言葉に巫女さんたちがギョットした顔をする。


「僕も月の神官になりたかったわけではないし、アイリもなりたくは無かったでしょ?

たった一回偶然が起きただけだしね」


カイト様はそう言って冷たい顔で私をチラリと見る。

彼の言うとおりなので私は頷いた。


「私にはとても出来る役目とはおもえませんし、能力などはないので・・・・」


能力が無いのは認めるが、多分それだけで太陽の神官になれたのではないことはなんとなく判る。

きっとあの300年前の私にそっくりの太陽の神官アイリーンと同じ顔をしているということもあるのだろう。

もしかしたら波風立たないようにカイト様はこんなことを言っているのかもしれない。

なんて優しい人なのかしらと思ったがやはり本気で私のことを認めていないようだ。

綺麗に微笑んでとんでもない事を言った。


「そうだね。僕はアイリが太陽の神官は向いていないと思うし、今でも太陽の神官としては反対だよ」

そういって去っていた。

憧れのカイト様に冷たい言葉を言われた私を気の毒そうな顔をした巫女さんたち。


「誰でも太陽の神官にったらそうなると思いますわ。私たちもお手伝いいたしますから」

「そうですわよ。あまり落ち込まないで今日はがんばりましょう」


先ほどとは打って変わった巫女さんたちの態度にやっぱりカイト様のおかげかしらと思ってしまう。

5人いる女性たちは私よりもだいぶ年下のようだ15~18歳ぐらいだろうか、その中の一人がポツリといった。


「カイト様があんな方だとは思いませんでしたわ」

「あぁ、ユミナはカイト様に憧れていましたものね」


判る!私も同じ。

「カイト様は美しい方ですものね。判ります!」

私が力をこめて言うとユミナも頷く。

「はい。憧れています。巫女になればカイト様とお近づきに慣れるかと思ったのですが。姿を見ることも難しくて・・・。今回、初めてお傍で見れて感激していたのですけど太陽の神官になった方に対してあんな言葉を言うとは・・・・」


そりゃ、ショックよね。

シュンと落ち込んでいるユミナはまだ16歳ぐらいだろうか。

かわいらしい整った顔をしているが、少し幼さを残している少女だ。

赤茶色の髪の毛を一つにまとめている。

ユミナの薄い赤毛はキハルさんと同じ色で顔も何処となく似ている気がする。

私が口を開くより前にキハルさんがユミナの背中を押した。


「私の娘です。どうしても巫女になりたいといって・・・」

「だって、カイト様とお近づきになりたかったんだもの」

ユミナの言葉にキハルさんはため息を付く。

多分、キハルさんのコネ的なものを使って入ったのだろう。

娘に苦労しているのねと思ったところで父親の顔が浮かんで私もため息をついた。

なんとなく父が私に言うお小言の意味がわかった気がする。


用意された馬車に私とキハルさんユミナともう一人巫女の子が乗車し、残りは後ろの馬車だ。

馬車の先頭には白い馬に乗ったカイト様とその補佐らしきおじ様。

私たちの馬車を守るように後ろに数人の騎士が黒い馬に乗っている。

数日前まで町医者の娘で、嫁にも行かず家事手伝いのようなことをしていた人生を迷っていた私がまさかこんなことになるとは人生どうなるかわからないというものだ。


「アイリ様は太陽の神官になりたくなかったのですか?」

馬車の中で一番聞きにくいことをズバリと聞いてきたのはユミナちゃんだ。

正面に、ユミナとキハルさん親子が座り私の隣には巫女さんのミカさんが座っている。


「まぁ、なりたいと思ったことは無かったけど・・・。私にはなんの力もないですし・・・。それに、クールを見たのも初めてで・・・。アレをどうにかする力なんて私はとてもないですし・・」


「そうなんですか?クールを太陽の神官の力で退けたと聞きましたけど」

ユミナの言葉にミカさんも頷いている。

「あの時は、初めてクールを見て驚いて・・・。お恥ずかしい話なんですけど、カイト様と始めてお会いしてこんなステキな人が居るのに死にたくないって思ったら一瞬変な力が出たみたいなんですよ。私も良くわからないんですけど」


「やっぱり!アイリ様は太陽の神官になるべく力がありますわ。私たちはどんなに努力をしてもクールを退ける力などでないんですもの」


力説するミカさんに私は慌てて手を振って否定する。


「まぐれですから。もう出来ません」

「そのまぐれだって出来ないんでよ。それにカイト様とお近づきに慣れるしうらやましいです」

ユミナがキラキラした瞳で私を見つめてきた。

「たいしてお近づきにはなれていないんだけどね・・・。なんかむしろ太陽の神官として否定されているのでちょっと心が折れそうですけど」

でもたまに優しいんですけどね。と心の中で加える。


「カイト様は美しいし、見た目からも凄く優しそうなのに・・・。まさかそんな方だとは思いませんでした」


心底がっかりした様子のユミナにキハルさんがため息を付いた。


「本当に娘には困ったもので。カイト様の憧れが度を過ぎてて・・・」


「私も似たようなものですから・・・。綺麗な人ですしね。みんなそうでしょ」


と、恋愛感情とは違う憧れのようなものだというように同調しつつ、隣のミカさんを見るとクビを傾げられた。

「別に私は、確かに綺麗だとは思いますけど、恋とかは別に・・。私ももうすぐ20歳になりますし。もう少ししたら結婚をするので巫女の仕事は降りるんですよ」


「えーー。私より5歳も年下なのに結婚するんですか?」


しっかりしているなとは思ったけどまさかの5歳下の上に結婚するという爆弾発言に驚いて声をあげるとミカさんはニッコリと笑った。

「はい。この馬車の護衛をしている騎士の一人なんです」


「へぇぇぇ。そうなんですか・・・」


みんなちゃんと人生を考えているんだなと思うと、ちっとも脈がなさそうなカイト様に憧れている自分がすこし惨めに思えてため息をついた。


馬車の外を見ると、白い馬にまたがっているカイト様の後ろ姿が見えた。

後姿だけでもやっぱりステキだ。彼の周りがキラキラ光っているように見えるから不思議だ。

これが恋というやつなのだろうか。

馬車にゆられながら彼の姿を見つめてそっとため息をついた。


「ようこそいらっしゃいました」


山を越えてたどり着いた小さな村の白い神殿の前に私たちの馬車が止まる。

私たちと同じようなワンピースを着た女性が数人と60代ぐらいのおじさんが出迎えてくれた。

私が馬車を降りるとすぐにカイト様が私の斜め後ろについて歩いてくる。

なんとなく守られているような気がしてにやけてしまう顔をなんとかごまかしつつ一番偉そうなおじさんの前で立ち止まり頭を下げた。


「あぁ、貴方が太陽の神官のアイリ様ですか。お噂はかねがね・・・。私はここの神官長でございます」

太った体のせいか額に出た汗をハンカチで拭きながら恐縮したように言うおじさんに私はもう一度頭を下げた。

「えぇ・・・まぁ・・・・」


自ら太陽の神官だと名乗るのも嫌なので愛想笑いをしながら答えると一瞬ぽかんとした神官長のおじさん。

誰もが憧れる太陽の神官になったのだからさぞ喜んでいるだろうとこの人も思っていたに違いない。

後ろでキハルさんが小さくため息をついた。

カイト様がちらりと私を見てニッコリと笑って神官長に騎士の礼をする。


「今回こちらで至急太陽の神官に来て欲しいということですが、なにかありましたか?」

「い、いえ。それが・・・・・」


そんな話は聞いていないと思いつつ神官長のおじさんを見ると言い難そうに何度か口を開いて額の汗を拭いている。

「いえ、私たちにはどうしようも出来ない事態が・・・。とにかく直接見ていただければ・・・」


そう言っておじさんが歩き出した。

私とキハルさんがクビをかしげながら顔を見合わせる。

どうしようかとカイト様を見ると彼も不思議そうに首をかしげて私たちを見回した。


「とりあえず、僕ともう一人一緒に来い。後は待機で。アイリと他の巫女も全員神殿の中へ」


テキパキと指示を出すカイト様に従い私たち巫女は神殿の中へと入った。

城にあった神殿ほど立派ではないが、それなりに大きな白い神殿は太陽と月どちらも飾られており女性も男性もどちらの姿もみれた。


「こちらへ・・」

汗を拭きながら先導して歩く神官長のおじさんは顔色が悪い気がする。


「なんでしょうね」

隣を歩くキハルさんに小声で聞くとキハルさんも嫌な予感がするのか表情が硬い。

「何かあったにしても、なんの説明もなく太陽の神官であるアイリーン様を呼びつける行為はよくはありませんね。あとで抗議いたしますわ」


そういって前を歩く神官長の背中を睨みつけている。 さすがキハルさんは巫女長として仕事熱心だということが良くわかった。

白い神殿の中には入らず裏に回る。 

少し離れた場所に地下へと続く階段へと向かった。

階段を降りると薄暗くひんやりとした空気に思わず両肩を摩る。


「寒い?」


気配を消していたのか闇にまぎれるようにカイト様がいつの間にか私のすぐ後ろにいた。

近すぎる距離に驚いて離れようとすると腕をつかまれて引き戻された。

先ほどよりも近い距離に顔が赤くなる。

蝋燭の明かりだけなので他の人に見られなくて良かった。

カイト様が私にだけ聞こえるようにそっと耳元で呟いた。


「僕が嫌いなのはわかるけど、離れないで。嫌な予感がする」


誰が誰を嫌いだって?

いつそんなことを言ったかしら?首をかしげていると、ガシャンと金属が叩かれる音と低い唸り声が聞こえた。


「こちらを・・・・」


神官長が指差した先は、蝋燭の明かりに浮かび上がった鉄格子。

さび付いた鉄格子を叩いているのは人間だ。いや、人間だったといっていいだろう。

何度か目にしたクール化した人間の姿が。


「な・・・なんで」


ここ数日で学んだことは、ある日突然クール化した人間は決して元の人間に戻ることは無い。

そのために人権を守るため早々に殺すこと。

そう決められていると。

それがなぜここに居るのか・・・。


神官長のおじさんが青い顔をしながら私を見つめる。


「お願いします、太陽の神官様。どうか、この者を貴方の力で人間に戻してください。

あなたは、光の力でクールを浄化したとの事。お願いします。どうかどうか、この者を救ってください」









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