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愛を凍らせて  作者: かなえ
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ジリジリと顔を照らす太陽の光に私は暑さとまぶしさで目を開けた。


「暑い!」


布団を蹴飛ばして起き上がると見たことも無い広い部屋に血の気が引く。


「どこ?ここ」


状況が全く読めず、寝ていたベットを見ると自分がいつも使っているものよりはるかに上質でスプリングが利いている。

広い部屋には私が寝かされていたベッドと木製の机とイス、小さなテーブルセットが置かれており、白い壁に床には赤いじゅうたんが敷かれていた。

部屋を観察しても全くどこだか検討もつかない。

すぐ横にある窓から外を見ると、かなり高い建物の上部に居るのはわかった。

下を見ると蒼い制服をした騎士が歩いている。


私がいる建物の少し離れた場所にいつも家から見えていたお城が見えた。

白い建物に蒼い屋根の先っぽがとんがっている塔がいくつか見える。


まさか、自分は城の一角にいるのか・・・。


何が起こっているのかわからずに不安で胃が痛くなってきた。

なにか、無礼を働いて捕らえられたというわけではないだろう。


「おはようございます。アイリ様」


かわいらしい高い声に視線を向けると、いつの間にかドアを少しあけて茶色い髪の毛の女の子がにこりと笑って頭だけをドアに入れて挨拶をしている。


驚いてみていると、ドアが大きく開き女の子の後ろから50代ぐらいの女性が怖い顔をして少女を押して私の前の立たせる。


「失礼いたします。アイリ様。私、この城のメイド長のテレザと申します。こちらはメイドのエウラと申します。

ほら、挨拶を」



メイド長と名乗る50代ぐらいの女性テレザはよどみなく自己紹介をするとエウラと呼ばれた茶色い髪の毛を一つにまとめた少女の背を押した。


「は、はじめましてアイリ様。私、エウラと申します。17歳になりました。本日よりアイリ様専属のお世話ががりになりますのでよろしくお願いします」


黒いワンピースのスカートを両手でつまんで広げて頭を下げた。

膝まであるスカートに、白いレースのついたエプロン姿は完璧なメイドスタイルだ。


「は、はぁ・・・」


私専用のお世話係?


首をかしげていると、メイド長が私の困惑に気づいたのか口を開いた。


「私どもも話は聞いておりません。アイリ様が本日よりこちらに住まわれるということですのですごしやすいようにお世話をさせていただくまでです。

詳しいお話は、カイト様がお話になるそうですので詳しくお聞きくださいとのことでした」


カイト様とまた会えるなんてうれしいけど、怖い。


この状況は一体どういうこと・・・?


「体調がよろしいようでしたら、お食事の後カイト様がお会いになるそうですが。いかがいたしますか?」


「あ、体調は大丈夫です。寝たらすっかり良くなりました。ので、カイト様にぜひ会いたいです」


ミーハーな女だと思われないように平静をよそおい答えると、メイド長は満足げに微笑んで頷いた。


「かしこまりました。準備と案内はエウラにやらせますので。これで私は失礼いたします」


「は、はい。ありがとうございます」


メイド長が出て行くのを確認してエウラがニコニコと話しかけてきた。


「アイリ様、すごいですね。カイト様とお話できるなんて。

カイト様。すごい綺麗な人ですし、いつもニコニコしててとても軍のお偉い仕事をしている方とは思えないですよね」


「たしかにそうですね」


軍の仕事をしているとは初耳だ。

月の神官をしながらその仕事までしているのか。

カイト様は美しいし、私がなぜ雲の上の存在でもあるカイト様と話せる状態になったのかわからないので頷くと、エルラはまぁ!と声をあげて驚いた。


「アイリ様。わたしに敬語を使うのはやめて下さい」


自分の状態がよくわからないのに敬語をつかうなとは困ったもんだ。

それから、エウラと敬語をやめてくださいと何度も頼まれて仕方なく私が折れた。



それから、エウラがこの城にきてから働いて、初めて専属でつかせてもらったのが私だというエウラの仕事について聞かされながら豪華な朝食をいただき、身支度をそれなりに整えて(洋服はそのままだけど)

カイト様が待つ月の神殿へと案内されることになった。


部屋から出ると、真っ白な廊下に赤いじゅうたんが敷かれており天井も高い。


「月の神殿はちょっと遠いですけど、ご案内しますね」


エウラの先導で螺旋階段を降りて行く。


エウラと同じ洋服をきたメイド数人とすれ違ったが歩いている私に気づき廊下の隅により頭を下げる姿をみてますます不安になった。

私は人に頭を下げられるような人間ではないのだ。

ただの、町医者の娘で25歳にもなって父の手伝いをして結婚相手もいない平凡すぎるぐらいのただの人だった私。

普通ならお城に入ることすらできないはずなのに、なぜここに居るのだろうか。


外に通じる入り口に蒼い制服の兵士二人が立っているがその二人も私を見ると敬礼をしてくる。

兵士に軽く頭を下げて外へと出た。

暑い太陽がまぶしくて目を閉じた。



「あちらが月の神殿です」


エウラが差したさきには少し離れた場所に建つ薄い青いドーム型の建物。

塔の先に十字架が見える。


「対である太陽の神殿は月の神殿の向かい側にあるんですよ」


エルラに言われて反対側をみると、同じ形をした教会が建っていた。

違うところは、太陽の神殿は色が薄い赤い色をしていることぐらいだろうか。


月の神殿へと向かうと、入り口に兵士が私に敬礼をして迎えてくれた。


「カイト様がお待ちです。どうぞそのままお進みください。我々は中に入るのを禁じられておりますが、アイリ様は許可が下りております」


「わぁ、凄いですね。私もぜひ、カイト様にお会いしたいですが我慢します!いってらっしゃいませ。アイリ様」


そういって、エウラが頭を下げた。


「怖いけど、行ってきます」


とにかく、何が起こっているのかカイト様以外は話してくれそうに無いらしい。

勇気を振り絞ってつきの神殿へと入る。


一歩中へ入ると外の暑さは感じられずひんやりと冷たい空気に包まれた。


白く太い柱が並ぶ廊下を歩くとすぐに隊服を着たカイト様が微笑んで立って私を迎えてくれた。


「ようこそ。月の神殿へ。アイリ」

彼が私の名を呼んでくれたことに妙な感激を覚えて心が震えた。

私は彼に名前を呼んでほしかった。


なぜかそう思った。

私はカイト様が一目見たときから恋をしていることに気づいてしまった。

これだけ美しい人で優しい人ならほとんどの人がこの人に憧れそして恋をするだろう。

誰もがあこがれるカイト様が私の名を呼んでくれて私に微笑んでくれている。

それだけで何故か涙が出そうになった。

私ってこんなにイケメンが好きだったかしら・・・・。

優しくて、私を大切にしてくれる人ならどんな人でもかまわないから結婚してもいいと思っていたがどうやら私も他の女性達と同じく美形が好きらしい。


「・・・・どうも」


軽く頭を下げるとカイト様は少し複雑そうな顔をして軽くため息をついた。


「どうぞ、僕についてきてください」


そういってカイト様が背を向けて歩き出したので慌てて付いていく。

軍服姿の彼を上から下まで観察をする。とても正面を見ていたら恥ずかしくてしっかり見れる自信がないが後姿だけでもステキオーラが出ていて心臓がドキドキする。

彼の履いている黒いブーツが白い神殿の床を歩くたびに規則正しい音がなる。

ベルトからさげている銀色の剣が彼が歩くたびに金属がぶる駆るような音が廊下に響いておりすべてが夢の中の出来事のようだ。

廊下をだいぶ進んだところで中庭のようなところが見えた。

程よく手入れされている庭には白い花が一面に咲いており風に揺れているのを見て私は足を止めた。


私の一番大好きな花だ。

もうこんな時期なのかとおもった。最近忙しくて咲いている花に気づくことも無かった。

夏の一番暑い時期に咲く、白い花。小さな花が道端にたまに咲いているのを見るがココまで一面に咲いているのを見るの初めてだ。

よっぽどの山の中に行けば咲いているのだろうが、町ではところどころに咲いているを見る程度だ。


花に見とれていてカイト様に案内されているところだったと気づき慌てて彼に視線を向けると微笑んでいる彼と目が合った。


「その花は好き?」


優しく聞かれて慌てて頷く。

「はい。昔から好きです。でもここまで一面に咲いているのは初めて見ました。凄いですね」


「・・・300年前から咲いている花で一時期は荒れたときもあったみたいで・・・。

僕が神官になってから手入れをさせているから毎年綺麗に咲くようになって、今年は特に綺麗に咲いたね」


彼はそういって目を伏せた。

なにか、言ってはいけない事を言ってしまった雰囲気に明るい声を出す。


「そうなんですか。こんなのを見れるなんて幸せです」


「貴方に見てもらえて僕もうれしいな。きっと喜んでくれると思っていましたよ」


まるで私のために用意したんだとばかりに微笑まれて息を呑んだ。

ドキドキする胸を押さえて再び歩き出したカイト様の後を付いていく。


中庭を通りぬけ再び長い廊下を歩くと広い部屋に出た。

吹き抜けの大きな部屋は礼拝堂だろう。

ステンドグラスが壁に広がっており太陽の光が差し込んでその光がキラキラと壁に当たって綺麗だ。

十字架に大きな三日月がかたどったシンボルが置かれている。

昔はここで誰かが祈っていたのだろう。

少し埃っぽい礼拝堂の中心でカイト様が振り返った。


「300年前の月と太陽の神官のお話を知っていますか?」


突然そういわれて私は頷いた。


「太陽の神官のアイリーン様が人々をクールにしている魔?を体に取り込んでその命と引き換えに世界に平和が訪れたというやつですか?」

「まぁ、そうだね。それから月も太陽もどちらの神官も不在だったけど、5年前僕が神官になった。

なぜだかわかる?」


紫色の瞳が私に問いかけた。


「神官としての能力があったから?」

私の言葉にカイト様は首を振った。


「能力よりもこっちのほうが大きいかな」


そういってカイト様が礼拝堂の奥へと歩き出した。

慌てて私も着いていく。

小さな扉を開けて廊下を出てまた奥の部屋へと入っていく。

真っ白な小さな部屋の中に大きな絵が飾られておりその描かれている人物を見て息を呑んだ。

カイト様そっくりな人が描かれたその絵は明らかに年代を感じさせる古い絵に違和感を感じる。


「その絵は300年前の月の神官のカイ」


「まさか・・・この絵、カイト様にそっくりですけど」


壁に掛けられている大きな絵とカイト様を交互に見る。

絵の中の300年前の神官カイという人物は目の前のカイト様と瓜二つ。

違うのは、髪の毛の長さぐらいだろう。

絵の中のカイは短い髪の毛だが目の前のカイト様は胸の下まである長い髪の毛を三つ網にしている。

その髪の毛のせいか絵の中よりも中性的な雰囲気がする。


「この絵が僕にそっくりだから僕が月の神官になったんだ。城に出入りしている一部の人間しかこの絵のことは知らない。クールが出始めたころ顔がそっくりな僕を月の神官にと無理やりさせられたわけで別に何ができるわけではないんだけどね」


そういってカイト様は布が掛けられている隣の絵に近づいた。

「そして、こっちが太陽の神官アイリーンの肖像画」


カイト様が布を引き現れた絵に私は声をあげた。

私に瓜二つの顔がそこに描かれていたからだ。

違うのはカイト様と同じく髪の毛の違いぐらいだろうか。

絵の中のアイリーンは腰までの長い髪の毛に前髪が目のところで切りそろえられている。

私は胸までの髪の毛に前髪は左右に分けておりおでこが丸見え状態。

それでも私と瓜二つな顔にショックを受ける。


「本当にこの人がアイリーン様?」

「そう、月の神官カイと太陽の神官アイリーンが僕と君とそっくりなんてね。どういう意味だろうね?」


そういってカイト様は冷たい笑みを浮かべた。
















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