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愛を凍らせて  作者: かなえ
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「アイリ。やっぱりなんかやらかしたんじゃないの?」


次の日実家に帰ってきた私は、早速父と母からのお小言をいただいた。

私が何かをしてしまい帰されたと思っている両親。何度も違うと言っているが信じてもらえない。

明日は太陽と月が交わる日だ。

きっと両親と会うのも最後になるかもしれないと思い会いに来たのにあんまりだ。

近所の人は私が太陽の神官になったことを喜んでくれたが両親は心配だ、何かやらかしたんじゃないのかやらお前には無理だったんだとずっと言われており少々疲れた。

診療所もかねている私の実家で久々に羽を伸ばせるとリビングでごろごろしているが、父も母もごろごろするな、もっと太陽の神官に選ばれたのだからそれなりの行動をしろだのと交代で言ってくる。


「だから何にもしてないって。今日はたまたまお休みだからゆっくりしておいでとカイト様が言ってくださったのよ」


わざわざ実家まで送ってくれたカイト様を見て母親は顔を赤くして仰天し、父も驚いていた。

そのときにカイト様は「もう、もどらなくていいよ」と一言言ったせいで父も母も心配しているというわけだ。

「せっかくいいお役目もらったのだからがんばって死守しなさいよ。このままカイト様と結婚してくれればお母さんうれしいなー」


お茶とお菓子を私の前に出しながら母が浮かれように呆れてしまう。


「そんな事あるはず無いでしょ。今日の夜には帰るからね」

出されたお菓子をつまんで言うと母は少し寂しそうだ。

「そう。寂しいけど、お役目がんばってね。早く孫の顔がみたいんだから」

「だから、何の話よ。太陽の神官と関係ないでしょ」


こんな話が出来るのも後少しかもしれない。

そう思うと泣きそうになるが、両親には心配させたくないので無理に明るく振舞う。

占い師たちが太陽と月が交わるときに私が身を差し出すだろうというウワサを母は聞いていないのだろうか。

一切その話はしてこないのはありがたい。

ふと窓の外を見ると綺麗な夕焼け空。

美味しいスープの匂いに台所に行くと、母親がホワイトシチューを作っていた。

「夜には帰るんでしょ。今日は暑いけど、アイリの大好物だから作っちゃった。ちょっと早いけどご飯にしましょ」

「はーい」

なんだかんだ言っても母親だ。

一番好きなメニューを作ってくれるなんてうれしすぎる。

ウキウキしながら父親を呼びにいき、家族3人で食卓を囲む。

「いただきます」


母親の作ったシチューはまろやかで味も濃くてパンにつけて食べるのが私は大好きだ。

早速一口食べると、懐かしい味に笑顔になる私を両親が微笑んで見ている。

「おいしいー」

「あら、よかったわ」

「戻ったら、カイト君に迷惑をかけるんじゃないぞ」

パンをちぎりながら言う父に私は頷いた。

「わかってますよ」


答えたときに、外から女性の悲鳴が聞こえる。


「何?」

窓に駆け寄って外を見ると、女性が倒れていた。

町外れなのでそれほど人通りも多い道ではないが、悲鳴を聞いた人たちが集まってきていた。

「病気かもしれないな」


母が持ってきた医療用具が入ったカバンを持ちながら玄関に向かおうとした父の洋服を掴んで止めた。

「待って。クールかもしれない」

「確かに、クールは最近多くなってきているが・・・」


私の言葉に父も思うところがあるのか、その場にとどまって窓から外を眺めた。

すると倒れて動かなかった女性の頭が持ち上がり、見覚えのある触覚のようなものが口から見え隠れしている。女性の体の回りには黒い霧のようなものがだんだんと濃くなっているのが見える。

きっと黒い霧は私にしかみえないのだろう。

「クールだわ」

私の呟きに父も母も驚いたように私を見た。

父と初めてクールを見たときは、怖がっていたが何度かクール化した人間を見た私は落ち着いたものだ。


「多分、今ならなんとかなるかもしれない」


走り出した私を今度は父親が止める。


「危ないだろう」

「大丈夫、私太陽の神官ですから」


お役目をしっかりやりなさいといった手前父も母も太陽の神官という言葉を出されたのでは止められないようだ。

ため息をついて手を離してくれた。

「私も行こう」

そういう父親に私はやんわりと断る。

「大丈夫、お父さんは危ないから家から出ないで。助けが欲しいときは呼ぶから。これも太陽の神官のお仕事です」

「・・・・わかった」


心配そうにしていたが私の仕事を理解してくれた父に私は頷いて外に飛び出した。


「クール化した」

「こ、怖い!」


心配そうに倒れた女性を救助しようとしていた人たちが異変に気づいて後ずさりしている。

ゆらりと黒い霧を体にまとわり付かせて立ち上がった女性はゆっくりとクール化しているようだった。

口からチロチロ出ている触角を見てまわりに居た人たちがますます距離をとった。

家から飛び出した私は、クール化した女性に後ろから飛び掛って抱きしめた。


「アイリちゃん!危ないよ!」

「離れなさい!」


近所の人たちは小さいころから私のことを知っているので近づこうとした私を心配して静止の声をかけてくれる。


「大丈夫よ!」


本当はちょっと怖いけど、女性にぎゅっと抱きついて黒い霧を体の中に入れるイメージを固めるべく目を瞑った。

黒い霧が体に入ってくる感覚に内臓が痛くなり、気持ち悪くなってくる。

でも、もうちょっと。


「おぉ、クール化が収まってきたぞ」

「アイリちゃんはそういえば太陽の神官様だったな」

「さすがだねぇ」


私たちを心配そうに見ていた周りの人たちが安心したように呟いているのが聞こえる。

よかったクール化は抑えられたんだ。

グルグル回る意識の中で、安心して体から力が抜ける。


「アイリ!」


遠くでお父さんが心配そうに私を呼ぶ声が聞こえるが返事は出来そうにない。

足に力が入らず地面に座りそうになったときに後ろから力強い腕に支えられた。

お父さんとは違う手。



「何をやっているんだ。黒いのを取り込むのは辞めろといっていたはずだ」


低いカイト様の声がすぐそばで聞こえた。

瞼が重かったがなんとか開けるとすぐ近くに綺麗なカイト様の顔が。

紫色の瞳が心配そうに私を見ていた。


「私にしか出来ないことだから」


呟くように言うと紫色のカイト様の瞳が悲しそうに細められた。

「キミはいつも・・・・いつもみんなの為だね。自分の為だけに生きてほしいのに」


「アイリ、大丈夫?」


カイト様の後ろで心配そうにしている母親の顔が見えた。

父も私の様子を見ようと、すぐ近くまで来ていた。

カイト様に抱えられたまま父親は私の体を診察している。


「体は大丈夫なようだが・・・疲労か?」

心配そうな父親にカイト様は頷いた。

「・・・多分そうでしょう」


カイト様と父の会話を聞いて母は心配そうにしている。

なんとか笑ってみんなに問題ないことを伝えようと立ち上がろうとするがやはり力が入らない。

「もう、大丈夫。少しよくなった」

「いや、城に戻ろう。ここは危ないからね」


そういってカイト様が私を抱き上げて立ち上がった。

「娘をよろしくお願いします」


母も城のほうが安心だと思ったのだろうカイト様に深々と頭を下げた。


「えぇ、ご心配なく」

見事な笑顔で言うカイト様。

「実家に帰れって言ったくせに」

呟いた私に、カイト様も小さく呟く。

「事情が変わった。午後からクール化した人たちが増えている。今では城が一番安全だ」


彼はどうしても私が黒いものを取り込むのも見たくなければ、ましてや明日の正午にアイリーン様のようになるのを避けたいらしい。

この世で一番安全な場所へと私を連れて行こうとする。

本当は嫌だが、体に力が入らない。

カイト様に抱き上げられながら彼の馬に乗せられた。

カイト様が当然のように私を抱きかかえてゆっくりと馬が歩き出す。

それに続くように彼が連れてきたであろう隊の人たちもゆっくりと動き出した。

近所から出てきた人たちが私に感謝の言葉を言っているのが聞こえる。



「さすがだねぇ、これが太陽の神官様のお力か」

「これでクール化しても安心だ!おびえることは無いね」


馬に揺られながら、まだ日が落ちていない空が良く見えた。

夕映えの雲がとても綺麗でなぜか泣きたくなった。







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