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愛を凍らせて  作者: かなえ
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結局、ミカさんや他の巫女さんの手前白い花のコサージュを作ることになってしまったため部屋に持ち帰りエウラに説明をして道具を追加でそろえてもらった。

エウラは、この儀式を知っていたがあの日落ち込んでいた私を見ていることもあり、言い出せなかったそうだ。


「よし、でーきた」


1日かけて作った白い花のコサージュはユミリが作っていたものよりかなり小さいものだ。

みんなの話だと、毎年アイリーン様のお誕生日に白い花を贈る儀式のときはカイト様には沢山の女性から白い花が送られるらしいがすべて断っているらしい。

あの笑顔で。

私も断られる可能性はあるが、もしかしたら太陽の神官からだと断らずに受け取るかもしれない。

女性から送られたコサージュを受け取った男性方は身につけてしばらく過ごすらしい。

白い花を模ったものを送るというものらしいので、コサージュが人気らしいが皆それぞれ考えて作っているらしい。

私ももしかしたら受け取ってくれるかもと思い、小さなものにした。

カイト様は軍服姿が多いのでどこかにちょっと付けれるように・・・・。

そこまで想像して自分が作ったものがカイト様が身につけてくれるだけでも幸せすぎて悶絶しているとエウラが小さくため息をついた。


「アイリーン様。やはりカイト様がお好きなら好きと、認めてアピールして言ったらいかがですか?」

「そんな事いっても脈ないのに嫌よ」

「世の中何が起こるかわかりませんし、脈が無いなどと私はそうは思いませんけれどねぇ」


ため息がちにいって、エウラはお茶を入れに行ってしまった。

私が泣いた翌日ぐらいは心配してくれていたようだが、最近は人の恋愛にあまり口を挟むものではございませんわねなどといいながらも私が悩んでいると背中を押してくれるような言葉をくれる。

主人思いのメイドさんだ。


我ながらよく出来たとコサージュを眺めているとお茶の用意をしに部屋から出て行ったエウラがカートを押しながら帰ってきた。


「さきほど、アイリ様に面会の申し出があったとのことですけど」

「面会?」

ココにきて初めてのことだ。

「えぇ、アイリ様のお父様がお目通りをしたいとのことですけれどいかがされますか?

本日、城の軍の健康診断でいらしているそうで、仕事が終わる午後に面会を希望されておりますが」


「もちろん会うわよ!」


父親に会うのはここにきて初めてだ。

お父さんもお母さんも心配しているだろうな。

エウラは判りましたと頷いてまた部屋を出ていく。

実の家族に会うのも大変な環境に思わずため息が出る。


「なんでこんなことになっちゃったんだろう」




「おぉ、アイリ。元気だったか?」

午後になり、父と再会したのは私の部屋の裏にある庭。

手入れの行き届いた庭には花が咲いており、大きな木も何本もある。

木漏れ日の下でエウラが用意してくれたイスと机に座ってお互い再会を喜ぶ。

「えぇ、元気よ。なんだかあんまり日数はたってないのに、お父さんに合うの久しぶりな気がするわ」


懐かしさのあまり思わず父の手を握って言うと、父さんは笑って力強く握り返してくれた。


「私も同じだよ。母さんも元気だ。しかし、大変なことになったな。お前が太陽の神官などと。なにか失敗はしてないのか?みんなに迷惑をかけているのではないか?」


心配そうにいう父に私はムッとする。


「大丈夫。私だって成長しているのよ。しっかり太陽の神官として役目は果たしています」

そんな私に父は大きなため息をついた。

「お前にそんな器量があるわけ無いとは判っているが。くれぐれもカイト君には迷惑をかけないように。彼は優秀な若者だからな」

「はいはい、わかりましたよ」


私が頷くのを見て父は私のブレンドした”美味しいハーブティー”を一口飲んで顔をしかめる。


「やはり、ハーブティは苦手だな。私が言うのもなんだが・・薬の味がする」

「医者の癖に・・。体にいいのよ」

私も一口ハーブティーを飲むが、父親の言うとおり確かに薬の味がするが、飲めないほどではない。

自分でブレンドして淹れたものだがお世辞にも美味しいとはいえない。

エウラが入れてくれるものは花の香りがしてとてもおいしいのだが、同じ材料でも私がブレンドするといつも薬っぽい味になってしまう。

そのせいか父親はハーブティーは薬の味というものになってしまっているようだ。

私がブレンドしたということは言わないでおこう。


「今町が大変なのは知っているか?」


父の言葉に私は首をかしげた。

「そうなの?毎日巫女の勉強やらで忙しくて世の中のこと知らないのよ」

「ここ数日、クール化する人が増えている。町の中でも突然クールになってしまった人間達が多くなってきていてな。そのたびに城から兵が来て討伐している状態だ。ここは安全だと思うからあまり外に出ないようにしなさい」


「そうだったの」

確かにここは国で一番安全な場所だろう。

頷いた私に父は心配そうだ。

「聞いた話だが、占い師や予言師たちが昔の太陽の神官アイリーン様のようにアイリが身を持ってクールを鎮めてくれるだろうといっているらしいが・・・」

「あぁ、それ私も聞いたわ。困るわよね。身をもってって、私の体に魔を封じ込めてカイト様に私の体ごと殺してもらうんでしょ。そんなのどうやってやるのよ。出来るわけないじゃない」


父は私の言葉に安心したのか、頷いた。

「そうか。お前にそんな事出来るわけが無とはおもうが。どういう選択でもお前がいいと思ったことをやりなさい。後悔しないように」


父の言葉に私は頷いた。


「あら、アイリのお父様?」


艶のある女性の声に振り返ると、占いババと呼ばれているエマが私に手を振って立っていた。


「エマさん?どうしたんですか?」

この前が初対面だったが、エマさんはなぜか昔から知っているような気がする不思議な人だ。

彼女も昔からの知り会いのように私に笑いかけて父に軽く頭を下げた。


「こんにちわ。ちょっと用事があって城に来たんだけど、ついでにアンタのところにも寄ろうかなと思って。元気そうで良かったわ」


真っ赤な口紅に今日は赤いドレスを着ている。相変わらず露出が激しく肩は出ているしスカートも膝上だ。

父は驚いたように慌てて席から立ち上がるとエマさんに頭を下げて挨拶をする。


「これは、預言者エマ殿。お初にお目にかかります。アイリの父ダウザでございます」

「エマよ。あぁ、わたしの事はアイリの古くからの友達みたいなものだからかしこまった対応は要らないわよ。ねぇ?」

ねぇと言われても、まだ会って二回目ですし。古くからの友人とか言われても困る。

「はぁ」

苦笑いを浮かべてあいまいに頷いておく。


エマさんは私と父を見比べて目を細めて微笑んだ。


「今日は奥様は?」

「妻は、家で留守番をしております」

「そうなの。アイリ、いい両親がそろっていて良かったわね」


エマさんが微笑んで私にしみじみ言う。

「はい。父も母も私の心配ばかりかけてしまって申し訳ないです」


エマさんにハーブティーを入れて差し出しながら言うと彼女は微笑んだ。

「あら、いつの世も親は子供が心配なものよ」


私の入れたハーブティーを一口飲んで今度は声をあげて笑う。


「相変わらずの腕前ね。なんの薬かしらこれ?」

「味は薬みたいですけど、体にはいいんですよって、エマさん私のハーブティー知っているみたいですけど」


不思議に思って言うと彼女は懐かしそうに私を見つめた。

「えぇ、そうね。知っているわよ。私って長生きだから。それより、私を含めた占い師やら預言者やらが言っていること知っているかしら?」


私は頷いた。

「あれですよね。クール化した人間を封じるために私が昔のアイリーン様みたいに体に魔を封じてカイト様に刺されて死ぬみたいな予言」

「そうそれ。あながちその予言まちがいじゃないのよね」


「えっ?」

私と父の声が重なる。

「私、そんな事できないんですけど」

みんなの期待には答えられない。

胃の辺りが痛くなった様な気がして両手で押さえるとエマさんの手が重なった。

「大丈夫よ。未来は変わるから。貴方は生き残るのよ。そして幸せになるの。これは忘れないで」

「は、はい」

力をこめた目で見つめられて、エマさんが何を言っているか解らなかったが私は頷いた。


「多分、これから数日間クール化が頻繁に起こるわ。心を強く持つように人々に伝えて。弱さを見せてはダメ。それから、太陽と月が交わるときに奇跡は起きるわ」


「太陽と月が交わるとき・・・ですか?」

「そう、これは例えじゃないからね。あの月と太陽が重なるときにこの世は一瞬闇になる。

すべての運命。決められた宿命が無になる瞬間がある」


エマさんは青い空に浮かぶ月と太陽と指差した。

あの空にある月と太陽が重なる?


「心を強く持ちなさい。何があっても自分の強い意志を大切にするのよ。貴方は幸せになる権利がある。

私は貴方を応援しているわ。そして何があっても生き残るのよ」


そういってエマさんは手を振って去っていてしまった。

残された父と私はお互い眼を合わせて首をかしげる。

「どういう意味だと思う?父さん」

「どうも、予言師の言葉はよくわからないが・・とにかく、アイリ。エマ様のいうように心を強く持ちなさい。私も町の人たちに心を強く持つようにと伝えよう。きっと大切なことなのだろうな。」

父が立ち上がったので私も席を立つ。


「わかったわ。私もみんなに伝えるわね。太陽の神官として」

最後の太陽の神官である私が心配なのか父親はため息を一つついた。

「まったく、お前が太陽の神官などと、一体何がおこっていることやら」

「本当、何でこんなことになったのかしら」


本日二度目のセリフになるが、父は解らないというように首をふっただけだった。






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