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愛を凍らせて  作者: かなえ
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太陽の神殿の一室に集まった巫女さま達に私は囲まれている。

「うらやましいですわ~。カイト様に”誰の命よりも大切だ”などと言ってもらえて」

「私、カイト様は感情をあまり表さない方なのかと思っていたけど、はっきりと意見を言われてステキですわ~」


口々に巫女さんたちが、言っているが私だってあんな事を言われて、うれしいのよ!

もう、無理。憧れではなくて、やっぱりカイト様が好きだ。


「とってもうれしいです。私、確信しました!カイト様が大好きです!」


私がそういうと、みんなが顔を見合わせて面白そうに笑っている。


「そんなことはじめから知っていますわよね」

「だって、アイリ様は顔に出やすいから」


そういって巫女さんたちは顔を見あせて笑っているが、妙に恥ずかしくなって下を向いてしまう。

「でも、みんなもそうでしょ?」


下を向いたままモゾモゾいう私に巫女さんたちはまた面白そうに笑った。


「そりゃ、憧れはありますし、綺麗な人だからお話したいとは思いますけど。憧れだけですわよね」

「そうですわよ、現実的に考えて、あんなステキな方とどうこうなろうなんて思っていませんわ。あちらも私たちなんて興味ないでしょうしねぇ」

「それに、綺麗過ぎて気を使ってしまいますわよね。ウワサでは、クールになった人を躊躇無く殺すっていうし、ちょっと謎すぎて怖いですわ」


彼女達の話を聞いて真剣に宣言してしまったことが少しはずかしくなってくる。

ずっと外さずにいたカイト様にもらったネックレスを思い出し、何気なく触った。

私の好きな花があしらっているだけに変に期待をしている自分がいるのも確かだ。

私がこの花を好きだと言ったから渡してくれたそう思ってしまう。


「遊んでないでちゃんと勉強します・・・・」


ココ最近は巫女さんたちとただ話しているだけになってしまっているためこれではいけないと気分を切り替えて本を開いた。

周りの巫女さんは乗り気ではないようだ。


「アイリ様の勉強熱心はすばらしいですけれど今日は遅いから明日にしません?」


窓の外をみるととっくに日は落ちており真っ暗だ。

話に熱中するあまり時間がかなりたっていたようだ。

「そうですね。明日、ゆっくり仕事をしましょう。今日はもう解散しましょう」


キハルさんの一言でその場は解散となった。

巫女さんたちが頭を下げて帰っていくのを笑顔で手を振って見送る。

彼女達は巫女さんという職についているがみんな城の外から通っているのだ。

日が暮れてしまったため城から護衛付きで帰宅となるようだ。

私が変な事を言わなければ早く帰れたかもしれないのに、みんなの仕事を増やしてしまったようで申し訳ない。

城の中は安全だとおもうので、部屋まで送ってくれるというキハルさんと騎士さまの申し出を断って太陽の神殿から出る。


食事時だからか神殿の外にはほとんど人は居なかった。

ちょうど夜勤と日勤の交代の時間帯でもあるのだろう。

ところどころ明かりは灯っているが私の部屋がある塔までの道のりは薄暗い。

太陽の神殿を出て少し歩くと暗闇に動く気配がして目を凝らす。

カイト様が闇にまぎれる様に歩いて太陽の神殿へと入っていくのが見えた。

私が先ほどまで居た神殿ではなく、古いほうだ。

老朽化しているので危ないから立ち入り禁止だと聞いていたがカイト様は中へと入っていてしまった。

何かあるのだろうか。

誰も古い太陽の神殿には入ったことはないという。



彼が中で何をしているのか、何のために入ったのか知りたい。

そう思うと居てもたっても居られずに彼の後につづいて太陽の神殿へと近づいた。

入り口から入る勇気も無く、横へと回り込む。

月の神殿と同じつくりになっているようで、回り込むと庭から中の聖堂が見えた。

音を立てないようにそっと中を覗き込むと暗闇の中でカイト様が何かを見上げているのが見える。

月の神殿と全く同じ大きさの聖堂は吹き抜けになっており、中も広い。

真ん中あたりに月明かりに照らされて輝いているクリスタルのような大きな置物があった。

ソレを見上げカイト様は両手をクリスタルに当てて愛おしそうに見上げた。

宗教的な信仰は微塵足りも感じない彼がこれほどまでに愛おしそうに見つめるものが太陽の神殿にあるのだろうか。

目を凝らして何とか見て私は声をあげそうになった。

あれはクリスタルの置物ではなく、クリスタルに包まれた人間だ。

それも私と同じ顔をした人間がクリスタルに閉じ込められている。

暗くてよく見えないが、クリスタルに閉じ込められているのはアイリーン様だ。

衝撃的な光景に私は動くことが出来なかった。

息をするのも忘れているのに気づいてそっと空気を吸い込む。


ステンドグラスから差し込む月の光に照らされておぼろげに見えるカイト様は一枚の絵のようで幻想的だ。

愛おしそうにクリスタルの中のアイリーン様を見上げてそっと目を閉じて額をクリスタルに付けた。

小さく呟くように呟いた。


「アイリーン。僕はどうしたらいいんだろうか。もう、君を殺したくないんだ」


呟くようにクリスタルの中のアイリーン様に語りかけるカイト様を見て急激に納得した。

彼は今は動かないアイリーン様を愛しているのだと。


カイト様は私とアイリーン様を少しだけ重ねているのかもしれない。

顔が似ているから。

クリスタルに包まれて微笑んでいる彼女はまるで眠っているようだ。

胸に刺さる剣ですら美しく血で汚れた衣服も幻想的で魅力的に見えた。

300年前カイ様に刺されて亡くなって、すぐにこの姿にされたのだろうか。

私は、彼女が魔を封じて死んだことしか知らない。

もしかしたら、カイ様がクリスタルに包んで永遠に体だけでも保存をしたのかもしれない。

不思議な力があったのならなんら不思議ではないことなのだろう。


それよりも、カイト様が300年も前のアイリーン様を愛しているということが衝撃過ぎて彼女の遺体がなぜこうしてあるのか、どうしてこのままなのかなんてどうでもよくなった。


カイト様は私を気にしてくれるのはやっぱりアイリーン様と似ているからだけなんだ。

そう思うと、すべてが納得できた。

きっとこのペンダントもアイリーン様にプレゼントしたかったのかもしれない。

涙がでそうになるのを必死で押し殺して気配を殺しながらそっと歩き出した。

これ以上カイト様が愛おしそうに自分とよく似た人を見るのが辛い。

なにより私を通してアイリーン様を見ているのだろうと思うのが何よりも辛かった。


私はアイリーン様の替わりにもなれない、誰の期待にも答えられない。


私はアイリーン様ではない。



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