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愛を凍らせて  作者: かなえ
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「まったくアイリ。お前というヤツは。あれだけ私の仕事道具は大切だと言っていただろう。なぜ、落としたことを黙っていたのだ」


医師である父に怒られること10分。 私は、すこしでも反省しているように見えるため顔を下げて小さく謝った。


「ごめんなさい。お父さん」


自宅に併設されている診療所の掃除をしているときに、父の訪問診療用のカバンをひっくり返してしまったのだ。

すぐに失敗をしてしまう私は、怒られるのが怖くてあわてて父の道具をわからないようにしまったのだが、どうやら道具が一個足りなかったようだ。

もし、何かあったときに対応できるような手術道具の一つらしいが何もなくて本当によかったとおもう。

たしかに言わなかった私も悪い。最近は失敗ばかりで少し自己嫌悪ぎみだったのだからどうしても言い出せなかったのだ。

父の診療についていくのも弟子の方々がこれなくて何もできない私がピンチヒッターとして付いてこさせられたのだ。

今日はツイてない一日だ。


城下町の外れで医師をしている父は診療所を開いている。そこそこ繁盛しており月に一度、定期的に城の周りの神殿やら町の人たちの家やらにお伺いするのだが、かばん持ち兼ちょっとした手伝いとしてこさせられたが、最後の最後でこのお小言だ。

青かった空は紅くなり日も落ちようとしているのに、私は父のありがたいお言葉を頂戴している。


「なにもワシはカバンを落としたことを怒っているんじゃないんだ。それを黙っていたことに怒っているんだよ。わかるか?アイリ」

「はい、お父さん。本当にごめんなさい」


神妙に頷いてションボリとした姿を見せると父は言い過ぎたと思ったのかあわてて私の頭に手を置いてぽんぽんと叩いた。

なんだかんだと父は私に甘い気がする。


「まぁ、反省しているのならここまでにしよう。早く帰らないと日が暮れる。最近は物騒だからな」


「物騒って・・・ここ城下町だから大丈夫だよ」


私の言葉に父は渋い顔をした。

ここ最近巷をにぎわせている、クールという奇妙な怪物のことを気にしているのだろう。


ある日人間が突然怪物になる。そして人を襲う。


信じられないが5年ほど前から突然現れたのだ。


「3日ほど前、この城下町でもクールが現れたらしい。自衛団によって捕獲されたらしいが・・・」


「へぇ・・・」


どうりで、城下町に異様に兵士の姿が目に付くはずだ。


普段は自衛団をたまに見るぐらいだったのだが、城の騎士が町のあちらこちらでパトロールしているのを良くみかける。

城の騎士だけあって、蒼い色の隊服に銀色の剣姿の騎士の姿に町の女の子たちが黄色い声をあげていた。


城の騎士たちは家柄もいいし、制服によって二割り増しにかっこよく見えるので、女子に人気なのだ。

私も、嫌いではない。


「タウザ医師!」


父を呼ぶ声に私たちは振り返った。


「タウザ医師。お疲れ様です。今日は診療の日でしたか」


そういってにこやかに話しかけてくる騎士に私は瞬きをするのも息をするのも忘れた。

だって、ものすんごい美形。

すらっとした長い手足なのに、騎士らしく筋肉も程よくついており、彫刻のような完璧すぎるお顔立ちに紫色の瞳。

絹のようなサラサラとした金色の髪の毛は騎士のくせに胸の辺りまであり綺麗に三つ網にされている。

それがとても素敵に見えてしばらく固まっている私に気づいて、彼も驚いたように目を丸くした。


彼が驚いて私を見ているということは、きっとあまりの美しさに驚いて彼を見ている私の顔は凄いことになっているのかもしれない。


「娘の、アイリです」


父が私を紹介してくれたことにより、彼はあわてて形のいい唇に笑みを浮かべて右手を自分の胸の当てて膝を折った。


「はじめまして。バステル城で騎士をしております カイトと申します。ダウザ医師には部下ともどもお世話になっておりまして」


こんなに美しいのに性格までよさそうで私は舞い上がりながらあわてて頭を下げた。


「は、はじめまして。アイリと申します。父がお世話になっております」


挨拶をした私にカイト様はまた驚いたように目を大きく見開いて私をまじまじと見て、花のように微笑んだ。

なんて、美しい人なの・・・。


「まったく、お恥ずかしい。カイト様を見てウチの娘が舞い上がってしまって・・・」


顔を赤くしている私に父がため息を付いた。 

お城の騎士様ということは身分差だってことは重々承知ですけど恋をしたいっていう夢を見たっていいじゃない。


軽く父を睨んでカイト様に私も微笑み返した。


「アイリ、カイト様は騎士でもあられるが、あの月の神官でもあられるんだぞ」


「えぇぇぇぇ?!」


父の言葉に私は驚いて声を上げた。


月の神官といったら伝説の物語がある。

300年ほど前、この国に、だれにでも優しく接する男 カイ様という月の神官がいて、対になる太陽の神官アイリーン様と恋に落ちた。

そのころ、町には人間が化け物になるというクールというのが現れてこれに心を痛めたアイリーン様はすべてのクールの現況となる”悪”を自らの体にとりこみ封印したそうな。

太陽の神官であるアイリーン様が自らの体を使って”悪”を取り込んでソレを封印するために月の神官であるカイトさまがアイリーン様の体に剣を刺して悪を退治したが愛する人を自らの手で殺してしまったことに絶望をしてその後自ら命をたたれたそうな。

”悪”とやらも謎だが、それで世界が平和になっりましたっていう伝説のお話だ。

アイリーン様は美しくて誰にでも愛されておしとやかな女性という言い伝えがあり、いまだに子供を躾けるときにはアイリーン様のような女性になりなさいとまで母親が言うほどの女性の鏡とも言うべき伝説の女性だ。

悲恋ともいえる二人の愛の物語は国民なら誰でも知っている物語だ。


それ以来、月の神官、太陽の仕官共に不在で二人の跡を継ぐ人は現れなかった。

クールが国に現れた5年前ほどなくして月の神官に誰かがなったというウワサは聞いていたけどまさかこんなに美しい人がなったなんて・・・・。

そういえば、みんながキャーキャー言っていたのを思い出した。

こんな綺麗な人がこの世に居たならそれはキャーキャー言うはずよ。


今まで興味すらもたなかった自分を呪うわ。


カイト様が何かを話そうと口を開きかけたとき、突然絹を裂くような悲鳴が聞こえた。


「な、なに?」

父の腕をつかんであたりを見回すと、うなり声とともに路地から人影が飛び出してきた。


「クールか!」

カイト様が大きく声をあげながら腰の剣を抜いて私と父の前に立った。


「これが・・・クール」

はじめてみるクールは、人の形をしているものの、頭は大きくなっており人としての原型はとどめてはいない。口のようなところから触覚がチロチロと出ており茶色い糸のようなもので顔は覆われている。

それでも体は人で、少し前までは普通の人だったのだという原型がボロボロになった普段着から想像ができた。そのアンバランスさに恐怖を感じる。

「こ、怖い・・・」


はじめてみる生き物に私は恐怖で体が震えて動くことができなかった。




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